同時刻、闘技場ー
沙悟浄ー
何て、力だ。
ここにいる奴等の動きを止めて、牛魔王の目をくり
抜いた。
あれは、悟空なのか…?
「あははは!!やっぱり、お前はこうでないとなぁ!?」
バキッ!!
牛魔王は拘束を解き、悟空に向かって影の棘を飛ばした。
ビュンビュンッ!!
「悟空!!」
パンッ!!
俺が悟空の名前を呼んだと同時に、悟空が手を叩いた。
すると、飛んでいた影の棘が消えた。
「おら、来いよ。お前が吹っ掛けた喧嘩だろ。」
悟空は牛魔王に向かって指をクイッと動かした。
あれは悟空じゃない。
悟空の中にいる"何か"だ。
「哪吒、牛魔王の加勢をしなさい。」
「御意。」
ビュン!!
太刀を持った哪吒が、牛魔王と戦っている悟空に向かって行っているのが視界に入った。
毘沙門天が哪吒に指示にしたのか?!
「さっせるか!!!」
俺は体に鞭を打ち、哪吒が太刀を振り下ろす前に鏡花水月で攻撃を受け止めた。
キィィィン!!
「哪吒、やめろ!!」
「邪魔するなら、殺す。」
哪吒の様子がおかしい…。
自分の意思がない。
いや、もしかして…。
毘沙門天に操られてるのか?
ビュン!!
哪吒は隠し持っていた斧を悟空に向かって投げ飛ばした。
「悟空!!避けろ!!」
グシャ!!
俺の声は間に合わず、斧が悟空の右肩に刺さった。
「痛ってぇ…なぁ。」
ギロッ。
悟空は振り返り哪吒を睨み付けた。
その目はまるで、獲物を捕らえた獣のようだった。
「「ぉおおおおおおおおお!!!」」
闘技場に転がっていた死体達が声を上げて動き出した。
「な、何だ!?」
何が起きたんだ?
死体が動き出した!?
「きゃー!!美猿王、カッコイイ!!」
空の上から声が聞こえた。
空を見上げると、哪吒とソックリな顔をした男?いや、女がいた。
「真秋、牛魔王を逃す手伝いをしなさい!!」
真秋?
毘沙門天側の人間か?
だとしても、この状況はまずい。
数100人にいる死体達とどうやって、戦えば良い?
「牛魔王、ひとまずは引きましょう。」
「王よ、手当をするのが先です。我々の要なのですから。」
黒いフードを被った男達が牛魔王の周りに集まった。
「余所見するなら、行くぞ。」
ビュン!!
哪吒はそう言って、悟空のいる方向に向かった。
「しまった!!」
俺も急いで哪吒の後を追った。
「逃げんのかよ、牛魔王!!」
「悪いな、勝負はお預けだ。」
パチンッ。
牛魔王は指を鳴らし、大きくなった影の中に入って行った。
悟空は手を伸ばし止めようとしたが哪吒に邪魔され、牛魔王達を逃してしまった。
「よくも邪魔しやがったなぁ、女。」
ガシッ!!
悟空は哪吒の振り下ろした太刀を手で止めた。
ブシャッ!!
悟空の手のひらに太刀が練り込む。
ゴキゴキゴキッ!!
いつの間にか右肩から斧が抜かれていて、傷が塞がっていた。
「おおおおぉおおお!!」
死体達が悟空に飛び掛かった。
俺は悟空の前に出て死体達を斬り付けた。
ブシャッ!!
「アギヤァァアァァァア!!」
「大丈夫か、悟空!!」
「お前、悟空の連れか。」
悟空の連れ…?
やっぱり、悟空じゃないのか?
「お前達ー、毘沙門天様が逃げるまで美猿王様に遊んでもらいなぁー。」
真秋は動き出している死体に向かって声を掛けた。
すると、死体達は俺達目掛けて走り出した。
「哪吒!!こちらに来なさい!!」
毘沙門天は哪吒を呼ぶと、哪吒は瞬間移動し毘沙門天の隣に戻った。
哪吒に指示をしたのは、牛魔王を逃す為か。
「褒めてやろう。」
悟空はそう言って、手のひらの血を使って円方に梵
字を書き出した。
「この中に入れ、巻き込まれても良いならそこにい
ろ。」
「え、え?何、急に恐ろしい事を…。」
俺は何かするのだろうなと思い、円の中に入った。
毘沙門天は扉を開き哪吒と共に姿を消した。
「「「おおおおおぉあおおおおお!!」」」
「静かに逝け。」
悟空がそう言うと、死体達の頭が吹き飛んだ。
ブジャァァァァ!!
「うっ!?」
ブシャッ!!
真秋の右腕も一緒に吹き飛んだ。
「ど、どうなってるの?あ、あたしの腕が…。」
「お前はこの中だと、雑魚じゃねーんだな。」
「っ!?」
「んー、どうにも力が出せん。」
そう言って、悟空は右手首に嵌めている緊箍児(キンコジ)に視線を落とした。
「あぁ、この腕輪の仕業か。」
「お、おい、悟空…。」
「俺は美猿王だ。悟空は俺の中で寝ている。」
「は、はぁ?」
寝てる…って。
確かに、髪の色も雰囲気も話し方も悟空とは別人だ。
美猿王の方が出て来たって事なのか?
「おい、この緊箍児を外す方法は知らないのか?」
「い、いやー。俺に外す事は出来ねー…す。」
「何故、敬語になる。悟空の連れだろ?気楽に話せ。」
悟空とは違う俺様感…。
喋り方も王様って感じで…、悟空と比べて圧を感じる。
ビュン!!
パシッ!!
美猿王は真秋が投げて来たと思われる槍をキャッチしていた。
「腕を飛ばされるとは思ってなかったわ。」
「経文は最初からここにはないのだろ?」
「え!?」
俺は思わず声を出してしまった。
最初から毘沙門天の罠にハマっていたって事!?
「考えられる事として、2つだな。1つは、牛魔王と悟空を接触させる事。もう1つは、丁達を見せびらかしたかったか。それか、両方だろ。」
「正解。今回は牛魔王が毘沙門天様に頼んでやった事。丁って奴を悟空に合わせたかったみたい。」
「やはりな。俺を出さんせたかんだろうが、逃げて行ってしまったからな。奪うだけ奪ってな。」
ゴキッ。
バキッ!!
美猿王は言葉を放った後、槍を折った。
「素敵な美猿王に教えてあげる。丁達は記憶を封じ込められてるだけ、まだ奪い返せるよ。アイツ…、鱗青なら居場所を知ってる筈だよ。」
「何?」
「ここまでしか教えてあげないよ。毘沙門天様に怒られるからね。今度は殺してあげるからね。」
ビュン!!
そう言って、真秋は姿を消した。
「嘘だろ?ここに経文が無かったら、大会に出た意味ねーじゃん!!」
「いや、まだそうとは限らん。」
「どう言う事だ?」
「おい、さっさと出て来たらどうだ。」
美猿王は物陰の方に向かって声を掛けた。
暫くすると、物陰から出て来たのは鱗青だった。
「鱗青!?」
「俺に頼み事があんだろ。」
スタスタ…。
ドサッ。
美猿王は山積みになった血だらけの死体の上に座り、胡座をかき顎に手を置き鱗青を見下ろした。
その姿は王、そのものだった。
"悪逆非道の王"
鱗青は震えながら美猿王の元に向かって歩いていた。
そして、膝を付き言葉を放った。
「た、頼みがある…。」
「頼みがある?口の聞き方には気を付けろ。」
美猿王はそう言って、鱗青を睨み付けた。
「お、お願いです…。美猿王の血を下さい。」
「不老不死の血か。」
「不老不死の血を飲めば、林杏達は助かると思うんだ!!俺の命と引き換えに血をくれ!!」
悟空の不老不死の血が欲しかったのか?
「不老不死の血…ねぇ。お前の命で対価に値すると思ってんのか?」
「っ…!?」
「もっと、対価に見合ったモノをよこしな。」
「俺の命以外に見合ったモノはねーよ?!どうした
ら良いんだよ!?」
美猿王はニヤッと笑い口を開けた。
「牛魔王達の居場所を吐け。」
「え?それだけ…?」
「それと、キョンシー達の封印も解け。」
キョンシー?
その言葉を聞いた鱗青は体が震え出した。
「お、お前、正気なのか?」
「あぁ、俺はいつだって正気だ。飛龍隊(フェイロンタイ)を復活させる。そして、丁達も取り戻す。」
飛龍隊…って、悟空の親父さんの隊か!?
生きていたのか!?
「ちょっと待て!?飛龍隊は生きていたのか!?」
「あぁ。黄泉の国で死んだ事も気付かずに、隊長の飛龍を探していた所を毘沙門天が見つけこの地に封じた。」
「そ、そんな事をしたら、毘沙門天と牛魔王に睨まれるだろ!?」
「お前、甘ったれた事言ってんじゃねぇぞ。」
ゾクッ!!
「お前の命を奪った所で俺の得にもなんにもならん。だったら精々、俺の犬として働け。」
背中に寒気が走った。
「お前は、昔の仲間を殺すぐらいだもんな。」
鱗青は嫌味な言葉を放った。
「お前と一緒にすんな。俺はアイツ等の王として、王の役目を務めただけだ。王として、終わらせてやったんだ。」
「美猿王は、解放してやったって事だよな…?」
「最後の願いを叶えただけだ。」
美猿王はそう言って、鱗青から空のボトルを奪った。
「ほら、不老不死の血だ。」
美猿王は血を出し、鱗青の持って来たボトルの中にドバドバと流し入れた。
鱗青は震えながらも入られる血を見つめていた。
「ほら、お前の欲しい不老不死の血だ。どうする?」
美猿王…は、本の通り恐ろしい存在だ。
「わ、分かった…。美猿王の言う通りにする。だから、血を…。」
「先に居場所を教えろ。それまで血は渡さねぇ。」
「わ、分かった…。」
鱗青の返事を聞くと、美猿王は降りて来て鱗青の首根っこを掴んだ。
「おら、さっさと行くぞ。」
「ちょっと待て!!1人で行くつもりか!?」
「あぁ。」
美猿王を1人にする訳にはいかない…。
いつ、悟空に戻るか分からない。
それに…、昔の仲間を取り戻すのに1人じゃ辛いだろ。
「俺も一緒に行く。悟空の仲間を取り戻すのを手伝わせてくれ、美猿王。」
「はぁ?お前、付いて来るつもりかよ。」
「あぁ、悟空1人に辛い思いをさせられるか。」
「へぇ…、お前は俺の役に立てるのか?」
そう言って、美猿王はジッと見つめて来た。
ドクンッ。
試されてるのか?
俺が鱗青みたいな態度を感じないのは、悟空の連れだからか?
今は美猿王、目の前にいるのは悟空じゃない。
「美猿王のサポートくらいは出来る。足手纏いにならないように自分の身は自分で守る。」
「なら、良い。」
美猿王はボロボロになった服を脱ぎ捨て指を鳴らした。
すると、黒いチャイナパオに一瞬で着替えていた。
「まずは飛龍隊の所だ。案内しろ。」
「わ、分かったよ。」
悪い、三蔵、猪八戒…。
悟空の事を1人に出来ないから合流するのは後になりそうだ…。
何とかなってるよな…?
だが、美猿王は鱗青から手を離した。
「どうした?」
俺がそう尋ねると、美猿王はクルッと鎖に繋がった元、猿だった妖怪人間達の方を向いた。
美猿王は近くにあった木の棒を拾い、フッと息を吹いた。
ブォッ!!
木の棒の先に火が付き、美猿王は妖怪人間の死体に火を付けた。
そして、美猿王は静かに手を合わせて目を瞑った。
死体を火葬してるのか…?
美猿王は王として火葬してあげているんだな…。
俺も手を合わせ目を瞑る。
「行くぞ、沙悟浄。」
「あ、待てよ!!」
俺達は闘技場を後にした。
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