西遊記龍華伝

西龍
百はな
百はな

乱戦 陸

公開日時: 2023年3月31日(金) 16:08
文字数:4,265

孫悟空ー


ゴゴゴゴゴゴゴッ。


牛魔王の影がウヨウヨと蠢(ウゴメ)き、何本かに別れた影が俺達の頭上から降り注いだ。


「若、下がっていて下さい。」


丁はそう言って、鎌を構え高く飛んだ。


ビュンッ!!


鎌を振り回し、影を斬り乱舞のように空中で舞っていた。


そう、丁は猿の時もけして弱くはない。


なんせ、黎明隊の隊長であり猿達を引き連れていたんだからな。


俺の護衛隊長なら、当然だ。


丁達が影を相手している間に、沙悟浄とアイコンタクトをした。


パチンッ。


俺達は同時に走り、牛魔王の左右から挟み撃ちにする。


タタタタタタタッ!!!


牛魔王を動けないようにしないと、封印されている飛龍隊を破壊してしまいそうだ。


それは避けたい。


丁達の洗脳を解くのは成功した。


あとは、飛龍隊の封印を解ければ良いんだが…。


ビュンッ!!


俺の足元に影が伸びて来た。


シュシュシュシュッ!!


それを見た胡が手裏剣を影に投げ、道を作った。


伸びろ、如意棒。


心の中でそう呟くと、如意棒は勢いよく伸び、牛魔

王を突き飛ばした。


ドンッ!!


沙悟浄は尽かさず、牛魔王の体を斬り付けた。


ズシャッ!!


だが、斬られた筈の牛魔王の体が黒くてドロッとした。


「チッ、本体が逃げた!!」


沙悟浄が俺に向かって叫んだ。


「ガァァウッ!!!」


大きく口を開けた高が、動いている影に噛み付いた。


ガブッ!!


ドカッ!!


「グハッ!!」


高の顎を蹴り上げたのは牛魔王だった。


「どこから現れた!?」

 

「馬鹿!!高の影からだろ!!」


シュシュシュシュッ!!


キンキンキンッ!!


驚いている李に喝を入れた胡は、牛魔王に向かって手裏剣を飛ばすが、手裏剣を止めたのは犬神だった。


「待ちやがれ、クソが!!」


羅刹天が犬神に怒鳴りながら、走って来た。


その時だった。


ドクンッ!!!


何だ…。


この感覚は…?


ピタッとその場にいた妖達は動きを止めた。


「ど、どうしたんだ?」

 

三蔵のおっさんだけ、状況が飲み込めていないようだった。


嫌な気配がする。


すぐ近くからだ。


サッ。


丁達が俺の周りに集まり、守りを固めた。


「若、嫌な気配がします。」


丁が俺の耳元で呟き、俺は答えた。


「あぁ、嫌な気配がする。牛魔王も想定しない様子だしな。」


下から嫌な気配がする。


ズキンッ!!


腕にはめている緊箍児が光り、激痛が走った。


「痛ってぇっ。」


「「若!?」」


俺の様子がおかしいと気が付いた丁と李の声が合わさった。


緊箍児が三蔵と共鳴した時に反応するって、観音菩薩が言っていたな。


まさか、三蔵もここにいるのか?


もしかしたら、下にいるのか…?


何してんだよ、アイツ!!


三蔵が危ないって事かよ、緊箍児。


「羅刹天!!」


俺がそう呼ぶと、羅刹天は動きを止めこちらを向いた。


「来てんのか、"アイツ"。」


「あぁ、お前を探しに。それと、林杏を連れ戻すとも言っていたな。猪八戒も来てるぞ。だから、和尚がいるんだろ?」


「は!?三蔵達がここにいるのか!?」


俺と羅刹天の会話を聞いていた沙悟浄が声を大きくした。


林杏って、鱗青の女か。


何で、その女までここにいんだよ。


牛魔王と毘沙門天が何か企んでるのか…?


「へぇ、三蔵が来てんのかぁ。それと、アイツも出て来たのか。クックック…。」


牛魔王は小さな声で呟いた後、笑い出した。

 

俺は牛魔王の笑い声を聞いて、直感した。


アイツが誰なのか分からないが、三蔵達がヤバイのは分かった。


牛魔王を下に行かせないようにするには、俺がコイツの相手をするしかねぇ。


バチバチバチ!!


体の中から出て来た雷龍が、牛魔王に向かって電流

を放った。


「あががががあがががが!!」


バチバチバチ!!


電流を受けた犬神が泡を吹いてその場倒れた。


ドゴォォォーン!!


犬神が倒れた衝撃で、大きな穴が空いた。


「沙悟浄、丁達を連れて三蔵達の所に行け。」


「お前はどうすんだよ、悟空。」


「俺は牛魔王を相手する。アイツもはなから、俺の事しか考えてねぇ。それに、気になる事がある。」


沙悟浄はいつの間にか元の姿に戻っていた。


「若!!俺達は若の側に…。」


俺は李の言葉を遮るように言葉を続けた。


「丁、李、胡、高。命令だ、沙悟浄と共に下に降り

三蔵達を援護しろ。死なすなよ。」


「若のご友人達ですね、分かりました。必ず死守してみせます。」


「あぁ、頼んだぞ丁。」


「は、はい!!」

 

丁の名前を呼んでやると、丁は嬉しそうな表情を見せた。

 

「悟空、気を付けろよ。」


「分かってる。」


「行って来る。」


沙悟浄はそう言って、穴の中に飛び降りた。


丁達も続けて穴の中に飛び降り、牛魔王が言葉を放った。


「やっと、2人でやり合えんな。」


「お前が沙悟浄達が下に行くのを阻止するなんて、

最初から思ってねぇよ。俺とお前の目的は同じだからな。」


お互い暫く黙った後、同時に声が重なった。


「「お前を潰す事!!!」」


タッ!!!


俺達は同時に走り出し、お互いの武器同士が音を立てて、ぶつかった。


キィィィンッ!!


「やっぱり俺達は一生、分かり合えねぇ運命だな悟空!!」


「500年前、お前と俺が最初に出会った時から俺達は同じ目的じゃなかった。永遠の命を手に入れて、どうする気だった。何故、爺さんを殺した!!」


ブンッ!!


怒りの声をぶつけながら、如意棒を振るった。

 

キィィンッ!!


「何故って?邪魔だったからだ、お前もあの爺さんも。」


「テメェと爺さんは、何の関係もねぇーだろ!?」


「は?ハハハハハッ!!無知な悟空よ?教えてやるよ。俺とあの爺さんの関係をな。」


牛魔王の爺さんの関係だと?


この2人は何の関係もない筈だ。


爺さんだって、牛魔王の事を何も言わなかった。


俺に何も…。


「テメェの虚言に付き合ってる暇はねーよ!!」


俺達はお互いに攻撃の手を止めなかった。

 

ズンッ。


空気が重くなった。


空気を重くしたのは、牛魔王だ。


ゴゴゴゴゴゴゴッ。


「俺をこんな妖にしたのは、あの糞野郎。須菩提祖師だ。」


「なっ?!は、は?何を言ってんだよ。」


「アイツは息子はいねぇって、言っただろ?は、嘘

もいい所だ。」


訳が分からない。


だって、爺さんは俺の事を息子だって…。


「俺は須菩提祖師の子供で、須菩提祖師に殺された子供だ。」

 

牛魔王はそう言って、俺を睨み付けた。



源蔵三蔵 二十歳


俺は霊魂銃を構え、銃弾を放った。


パンパンパンッ!!


メリッ。


メリメリメリ。


銃弾が化け物の体に練り込んだ。

 

破裂しない!?


妖怪だったら、霊魂銃の弾を喰らったら爆破していた。


だが、この化け物は妖じゃない。


「何だよっ、コイツは!?」

 

「下がってろ。」


カチャッ。


キィィィ!!


如来が化け物に向かって刀を振り下ろす。


だが、化け物が煌びやかな槍を取り出していて攻撃を受け止めた。


キンキンキンキンッ!!!


如来と化け物は、見えない速さでお互いに攻撃をし合っていた。


は、早い。


動きが全く見えない。


「三蔵!!」


猪八戒が俺に向かって叫んだ。


頭上から降りて来たのは、石だった。


石が降りて来た瞬間から、刀を振り下ろせる準備をしていたようだ。


俺は素早く札を取り出し、結界を張った。


キィィィン!!

 

間一髪の所で攻撃を防げた。


「あっぶな!?」


「ッチ。」


「毘沙門天様、お待たせしましたぁ。」

降りて来たのは石と風鈴だった。

 

「真秋はやられたんですか?」


「あぁ、如来に妖石を破壊されてしまってな。それよりも、哪吒を起こしに行ってくれ。」


「分かりました。」


風鈴はそう言って、姿を消した。


「三蔵から離れろ!!」


猪八戒は鉄扇を降り、鉄の破片を石に向かって飛ば

した。


ビュンッ!!


キンキンキンキン!!


一旦、距離を取った石は鉄の破片を薙ぎ払った。


その時だった。


黒い怪物が俺に向かって走って来た。


ドドドドドドドッ!!!


「アイツの狙いは三蔵か!?おい、猪八戒!!三蔵を守れ!!」


如来が猪八戒の方に振り返り、大声を出した。


「っ!!マジかよ!?」


タッ!!


猪八戒は急いで方向転換し、鉄扇を振るい上げた。


ビュンッ!!


シュシュシュシュッ!!


鉄の破片を化け物に向かって飛ばした。


だが、化け物はドロドロの液状に変化し鉄の破片を避けた。


「石。」


「分かりました。」

 

パチンッ。


毘沙門天の言葉を聞いた石は指を鳴らした。


ガシャーンッ!!


バタッ!!


「痛って!?」


猪八戒の足から血が流れ落ちていた。


「トラバサミ!?」


トラバサミを出せるのは石しかいない。


「何やってんだ!!」


如来が俺の所に向かおうとした時だった、石が如来に向かって刀を振り下ろした。


キィィンッ!!


如来は石の攻撃を受け止めた。


「邪魔だ。」

 

「それはこっちの台詞だ。お前が真秋を殺した。僕は…、どうやら怒っているようだ。」


「お前等に仲間を思う気持ちがあるなんてな。悪いな、三蔵。お前でどうにかしろ!!」


「え、えぇ!?」


どうにかしろって、言われても!?


「どうしろって言うだよー!!」


霊魂銃は効かないし…!!


「あ、そうだ。」


俺は札を取り出し、指を素早く動かした。


空中に長い光の棒が何本か現れ、腕を高く上げ振り下ろす。


ドドドドドドドッ!!!


「くたばれっ、糞野郎!!」


光の棒が化け物目掛けて、降り注いだ。


シュシュシュシュッ!!!


だが、化け物は光の棒を擦り避けた。


「はぁ!?嘘だろ!!?」


これも効かないのかよ!!


ゴゴゴゴゴゴゴッ!!


元の姿に戻った化け物が槍を構え突き刺さして来た。


ヤバッ!!


攻撃を防ぐ暇が…っ。


ドゴォォォーン!!


目の前に大きな音と煙が立ち込めた。

キラッ。


俺の額には化け物が持っていた槍の先が刺さる寸前の距離だった。


「お怪我は御座いませんか?若のご友人様。」


知らない男の声が聞こえた。


砂埃が晴れ現れたのは、体や顔に縫い目がある男達が化け物の体を取り押さえるような体勢をしていた。


この男達は一体何者だ?


「三蔵!!無事か!?」

 

トンッ。


降りて来たのは沙悟浄だった。


「沙悟浄?!この人達は誰なんだ?」


「あぁ、コイツ等は悟空の…救いたかった奴等だよ。」


沙悟浄の言葉を聞いて理解出来た。


「もしかして…、丁…?」

 

「若の御命名で参じました。貴方を守れとの御命名で、ご無事で何よりです。」


「記憶を取り戻したの…?悟空がそう言ったのか?」


「貴様、何のつもりだ。」


そう言ったのは、毘沙門天だった。


「お前等、牛魔王に従っていたんじゃないのか!?

何故、ソイツを守る!?」


「僕達の王は悟空様だけだ。」

 

「記憶を取り戻したのか?誰が術を解いた。」


「そんなの若に決まってんだろ。」


ピンク髪の男が毘沙門天を睨み付けながら答えた。


「我々は若の御命名に従うまで、我々を許して下さった。僕達、黎明隊は若の為に生きて若の為に死ぬ隊だ。」


バッ!!


丁達の着ている服が靡いた。


背中には黎明隊と書かれていて、俺を守るように立った。


「黎明隊を舐めるなよ、神よ。」


丁はそう言って、鎌を構え直した。


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