同時刻、天界にてー
バタバタバタバタ!!
観音菩薩(カンノンボサツ)の屋敷の廊下を慌ただしく歩く足音が鳴り響いていた。
「観音菩薩!!この書類に目を通して下さい!!」
ボサボサになった長い黒髪を掻きながら観音菩薩は乱暴な声を出した。
「だぁー!!見て分からない?!手が離せないんだけど!?」
「お、落ち着いて下さい観音菩薩!!」
観音菩薩専属の使用人が宥めるが、苛立ちを抑えられないようだった。
観音菩薩の周りには山のように積まれた資料だらけだった。
「毘沙門天に回さないようにしたのが仇となったか…。」
「おーおー、忙しいそうだな観音菩薩。」
「あ、貴方は!?」
使用人は現れた人物を見て驚いていた。
「ら、羅刹天殿!?どうしてこちらに?」
長い髪を後ろに一本で結んでいる羅刹天の姿があった。
「観音菩薩に用があんだよ。少し借りるぞ。」
羅刹天はそう言って、観音菩薩の服の首元を掴み部屋から連れ出した。
ズルズルッ。
観音菩薩は羅刹天に引き摺られながら、中庭に到着していた。
観音菩薩ー
「君が天界に来るなんて珍しいな。」
「用がなきゃ、こんな所に来ねーよ。鳴神(ナルカミ)と悟空を合わせたよ。」
「2人の様子はどうだった?鳴神が伊邪那美命(イザナミ)の事を話しただろ?」
羅刹天は僕に悟空と鳴神の事を話した。
「へぇ、雷龍が悟空にね…。」
「おい、毘沙門天の野郎が妖の死骸を集めてるって話して来たろ?あれ、本当みたいだぞ。」
羅刹天に毘沙門天が本当に、妖の死骸を集めているのか調査させていた。
羅刹天はその調査報告をするべく、天界に来ていたのだった。
妖怪達の死骸を集め、妖怪の血で作った妖石を生産している事は耳に入っていた。
毘沙門天が何故、そんな事をしているのかが謎だった。
何か目的がある筈だ。
その目的が分からないままだったのだ。
羅刹天に調べて貰えば分かると思ったんだが…。
「悟空達がいる白虎嶺に謎の闘技場が出来たのは耳に入ってんのか?」
「闘技場…?あんな小さな町に出来たのか?」
「お前が知らないのは珍しいな。」
白虎嶺に闘技場?
僕の知らない所で何かが起きているのか?
まさかこの僕が何かを見落としている筈がない。
いや、待てよ?
何か引っかかる。
何だ?
「おい、どうかしたのか?」
「いや…、何か大事な事を忘れているような感じがしたんだ。」
「物忘れか?お前も見た目の割には爺さんだからな。物忘れの1つや2つはあるだろ。」
「そんな軽い感じじゃなくて…。」
すごくモヤモヤする。
ドタドダドタドタ!!
そんな事を考えていると、誰かが廊下を走る音がした。
振り返ると走って来たのは、赤い髪がボサボサになっている如来(ニョライ)の姿があった。
「か、観音菩薩!!」
「どうした?そんなに慌てて…。」
「霊堂(レイドウ)に来てくれ!!吉祥天(キッショウテン)の遺骨が…。」
如来の言葉を聞いて胸の引っかかりが取れた。
妖怪達の死骸集め。
妖怪の血で作った妖石。
「すぐに霊堂に行く!!羅刹天も付いて来てくれ!!」
「は、はぁ?俺もか?」
僕達は天帝の屋敷の敷地内にある霊堂に向かった。
霊堂は死んだ神の遺骨を保管し、定期的に祀っていた。
吉祥天の遺骨が無くなった?
どうして、毘沙門天と吉祥天の関係を忘れていたんだ!!
「2人共、走りながらで良いから聞いてくれ。」
「何だよ、今じゃないとダメなのか?」
羅刹天は走りながらそう答えた。
「何か分かったのか?観音菩薩。」
如来は走りながら僕に尋ねて来た。
「あぁ、毘沙門天がどうして妖怪達の死骸を集めているのか、そして牛魔王と手を組んで経文を集めているのか。」
「は、はぁ!?毘沙門天の企みが分かったって事なのか!?」
「僕は難しく考えていたんだ。毘沙門天の行動を深読みし過ぎて重要な事を見落としていた。」
「見落としって、一体…何を?」
困惑する2人を納得させるように僕は言葉を放った。
「毘沙門天は吉祥天を経文を使って復活させる気だ。」
僕の言葉を聞いた2人は足を止めてしまった。
「は、はぁぁあぁあ!?嘘だろ?!」
「あの悪虐の神を復活させる気なのか!?」
*吉祥天 富・美・豊穣(ホウジョウ)・繁栄を齎(モタラ)す女神と呼ばれ、福徳を授ける神とし崇められていた。また、毘沙門天の妻であった*
だが、伝説上は穏やかな女神と書かれているが、彼女はとても我儘だった。
吉祥天は自分の美しさを武器に、豊かさや金金財宝を人々に求めた。
吉祥天の我儘を叶えられなかった者は死刑にされ、天界の半分の人や神が死んだ。
そんな彼女はある日、何者かに殺されて死んだ。
それからは天界は平和になった。
「毘沙門天は吉祥天を復活させ、何百年も前の天界に戻そうとしている。」
「それが本当なら、毘沙門天の今までの行動に説明がつく。」
「とりあえず、霊堂に行って他の遺骨達もあるかどうか調べよう。」
ドドドドドドドッ!!
僕と如来が話していると、羅刹天が太い刃の刀を構えた。
それと同時に強い妖気を感じた。
「ウキキキキィヤァァィ!!」
目の前に現れたのは酷い姿の妖怪達だった。
体は妖怪なのに頭部は人だったり、その逆で体は人間なのに頭部は獣だったりと異様な妖怪達が現れた。
見た事もない妖怪達に呆気に取られていると、大きな金棒を持って現れたのは明王(ミョウオウ)だった。
「退きやがれ妖怪共が!!」
ブンッ!!
明王は叫びながら金棒を振り回す。
「緊縛・霊。」
キィィィン!!
暴れている明王を他所に札を使って妖怪の動きを止めていたのは、天部(テンブ)だった。
「明王!!天部!!お前達がどうしてここに?」
「あ?!強い妖気を感じて来てみれば、どうなってんだよこれ!!」
僕の問いに明王は苛つきながら答えた。
「霊堂を囲うように妖達が現れたんですよ。羅刹天、貴方もこちらにいらしてたんですか。」
天部は淡々と答え妖怪達を祓って行く。
「これも毘沙門天も仕業かよっ、は!!」
羅刹天は言葉を放ちながら向かって来る妖達を切り倒した。
毘沙門天がこの妖怪達を作って実験をしていると言う確信を得た。
霊堂に近寄らせないようにしているのか…。
「はぁーい、神様達はここで止まってくださーい。」
甲高い女の声が聞こえた。
声のした方に視線を向けると、毘沙門天が連れていた太陽神聖の2人がいた。
長い髪を後ろで三つ編みにしている男、緩いパーマの女。
「あ?お前等、毘沙門天とこの奴等か。どう言うつもりでこんな事をした?」
明王はそう言って、2人を睨み付ける。
僕の考えは正しかった。
太陽神聖のメンバーの顔は吉祥天に似ている。
やはり、毘沙門天は吉祥天を復活させる気だったんだ。
「成る程、毘沙門天は僕が気付いた事に気付いたんだね。」
「改めてまして、石と言います。そして、隣にいるのは紫希(シキ)。貴方に邪魔をされると毘沙門天様が怒りますから。」
石はそう言って、2本の刀を構える。
だが、その刀にも見覚えがあった。
「2本の両刄(リョウバ)の直刀(チョクトウ)、片刄(カタハ)の曲刀(キョウクトウ)…。それは、破妖刀(ハヨウトウ)!?何故、お前が天帝の武器を持ってる!!」
天部は石の持っている刀を見て言葉を放った。
そうだ、あの刀は妖怪討伐の為に天帝が使っていた
神器(シンキ)だ!!
「我々は天帝の持つ神器を使う為に作られた存在。
天界を変える時が来たんですよ神々共。」
「あははは!!神様が間抜けな顔して大丈夫なのー?」
「毘沙門天はお前達に神器を渡す為に、天帝に呪いを掛けたのか?」
僕はそう言って、紫希に尋ねた。
「あー、それはあの根暗の仕業。ま、うち等の仲間がやった事ー。」
「これも毘沙門天様が理想とする天界には必要な事だったのです。」
やはり、毘沙門天の仕業だったか。
哪吒の姿がないって事は毘沙門天と一緒にいるのか?
「おいおい、お前等のやってる事は反逆だぞ?」
如来はそう言って、石に尋ねる。
「だったら何なんですか?貴方達を殺せば反逆者とも言われないでしょう?」
「あ?喧嘩売ってんのかガキ。」
明王は睨みなら石に言葉を放った。
「どうすんだよ観音菩薩。」
隣にいる羅刹天が僕に尋ね、答えを求めて来た。
それはこの場にいる如来達も同じように僕に視線を向けて来た。
「今の天界は如来や明王、天部と僕で天界の秩序(チツジョ)を守って来たから争いがなかった。だが、毘沙門天がやろうとしてる事は平和である天界を壊す事。神に誓ってそんな事をさせる訳にはいかない。」
僕は言葉を続けながら石達に視線を送る。
「僕は君達を止める。経文を手にするのは我々だ。」
言葉を言い切ると、明王が乱暴に僕の頭を撫でた。
ワシャワシャ!!
「わわ!?何するんだよっ、明王!!」
「ガハハハ!!それでこそ俺達の隊長だ!!」
「俺達はお前に付いて来たんだ。お前の決めた事なら俺達はそれに従う。」
「全く、貴方達はちゃんと計画は立っているんでしょうね。」
明王と如来の言葉を聞いた天部は苦笑いしながら言葉を放った。
「俺と如来は武闘派なんだよ!頭を使うのは観音菩薩と天部の仕事だろ?」
「仕方がないですね。」
天部はそう言って、札を広げ周りにばら撒いた。
ばら撒かれた札は光り輝聞いた光の玉を放った。
ビュンビュンッ!!
「アガアガガガガ!!」
光の球は次々に妖怪達の体を貫く。
「貴方達といると休む暇がありませんね。」
「なら、我々は貴方を殺します。毘沙門天様の命令を遂行します。」
石はそう言って、破妖刀を構え直した。
「足止めするだけで良いんじゃないの?今日は。」
「えぇ、今日は。」
「毘沙門天様の為にも仕事しますか。」
紫希は手のひらから大きな刃の鎌を取り出した。
「俺は帰って良いのか?」
「駄目に決まってるでしょ?」
「仕方ねぇな…。貸し一つだぞっ、オラオラオ
ラ!!」
羅刹天は我儘を言いながらも次々に妖達を斬り倒す。
毘沙門天は他にも遺骨を持ち出してるのか?
だから石達をここに派遣させたのか。
次の経文どちらに渡るかで運命は大きく変わる。
僕の中でそう確信した。
何が何でもお前が取れよ三蔵。
牛魔王邸ー
「毘沙門天様!!」
天界から戻った毘沙門天を見つけた妖が、毘沙門天を呼び止めた。
「どうした。」
「そ、それが数日前から哪吒様が行方不明なのですが…。」
「行方不明ってどう言う事だ?外に出たのか?」
悟空達との戦いの後、哪吒の外出を禁止した。
哪吒が悟空へ敵意を向けていない事が分かった毘沙
門天は、自分のコントロールの効きが悪いと感じていた。
毘沙門天は持ち帰えった吉祥天の遺骨の入った箱を強く持った。
「どうされますか…?捜索隊を出しますか?」
「白虎嶺に捜索隊を向かわせろ。哪吒はそこにいる。」
「白虎嶺にですか?そこには牛魔王様がいらっしゃるのでは?」
「哪吒の目的は悟空との接触だ。接触する前に回収
して来い。」
「ハッ!!承知しました。」
妖はそう言って、妖達を集め白虎嶺に向かった。
毘沙門天は治療室と言う名の実験室へと向かい、部屋の中に入った。
部屋の中は消毒液の匂いが充満しており、妖怪の血が入ったカプセルが沢山、テーブルの上に並んでいた。
「まだ、血が足りない。人間の血はがしゃどくろが集めて来たが、もう少し欲しい所だ…。」
毘沙門天はそう言って、吉祥天の遺骨が入った箱を愛おしそうに撫でた。
「吉祥天、やっと君を生き返らせる事が出来る。この経文と、あの器が手に入れば…。君が望んだ世界を作り直せる。」
同時刻、下界の白虎嶺では悟空達は使われていない宿屋に来ていた。
沙悟浄は鎮元仙人から貰った食材を使い料理をしてる途中であった。
ジュュュー!!
台所からは食材が調理されている匂いが漂った。
「うわー!!美味そうな匂いするな!!」
台所のすぐ側にあるリビングから三蔵が匂いを嗅ぎ
ながら言葉を放った。
「もうすぐ出来るから酒の準備をしてくれー。」
「はいよー。あ、三蔵は果実の飲み物な。酒は禁止。」
猪八戒は酒瓶を持ちテーブルに並べながら三蔵に話し掛けた。
「え?!何で!?」
「何でも何もお前が酒弱いからだろ?な、悟空。」
三蔵と話終わった猪八戒は悟空に声を掛けた。
「おい、どうしてこうなった?」
悟空は未だに状況を掴めていない様子だった。
側から見たら悟空を励ます為に料理や酒を用意されているように見える。
「え?夜飯の時間だろ?ほら、早く料理を持ってって。」
沙悟浄はそう言って、出来上がったナルト入りの炒飯を三蔵に渡した。
悟空は出されている豆腐に唐辛子の味噌と葱、ニンニクの和え物を手に取ろうとしたが三蔵に呼び止められた。
「あ!悟空は座ってて!!俺、取って来る!!」
「お、おい。」
タタタタタタタッ…。
三蔵は悟空の言葉を聞かずに沙悟浄の元へ行ってしまった。
「どうしたんだ?」
「まぁ、悟空は何も気にせずに座ってろ。さ、今日は飲むぞ!!」
猪八戒は張り切りながら、グラスを並べた。
テーブルを埋め尽くす量の料理が並べられ、其々のグラスに飲み物が注がれた。
「あ、そう言えば今日で今年が終わるな。」
沙悟浄の言葉を聞いた3人はハッとした。
「うわー、まだ三蔵達といて1年も経ってないのか。」
「今年はあっという間だったなー。」
三蔵と猪八戒の会話を黙って聞いていた悟空に沙悟浄が声を掛けた。
「来年も宜しく頼むよ悟空。」
沙悟浄はそう言って、悟空のグラスに自分のグラスを当てた。
チンッ。
「あ、俺も俺も!来年も宜しくー!!」
チンッ。
沙悟浄に続いて猪八戒も悟空のグラスに自分のグラスを当てた。
「悟空、今年は色々あったけど来年は良い年にしよ。来年も宜しくね。」
三蔵の言葉を聞いた悟空は軽く笑いグラスを掲げた。
「俺は死なない体だから、1年もなんかあっという間だったけど。ま、宜しく頼むわ。」
悟空の言葉を聞いた3人は再びグラスを合わせ新年を迎えた。
波乱の1年の幕開けとなった。
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