西遊記龍華伝

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百はな
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愛を取る?悪を取る?

公開日時: 2023年3月4日(土) 11:10
文字数:5,324

源蔵三蔵 二十歳



「牛魔王に支払った契約を俺が破ったから、林杏達をあんな目に合わせてしまった。」


契約…?


「契約って、何の?」


俺はそう言って、鱗青に尋ねた。


「俺の体の中には牛魔王の血が流れてる。牛魔王の血は俺達、妖にとって褒美だった。牛魔王程の強さを持つ妖の血を飲めば強さを手に入れたからだ。当時の俺は強さが欲しかった。だから血を貰う代わり

に牛魔王に対する絶対服従を誓った。」


「それが牛魔王との契約って事か?」


猪八戒の問いに黙って頷いた。


「林杏と出会うまでは、牛魔王に忠誠を誓っていた。だけど、牛魔王はすぐに林杏達の存在に気付いた。」


そう言って、鱗青は唇を強く噛んだ。




数日前、牛魔王邸にてー



「人は愛する人を他の男に奪われるよりも、もっと心に残る事はなんだと思う?」


牛魔王はそう言って、酒の入ったグラスをゆっくり揺らした。


薄暗いランプの光に照らされた哪吒太子は、牛魔王の言葉の意味を考えていた。


「一体、どう言う意味ですか?」


「言葉の通りさ。」


「貴方の言っている意味がサッパリ理解出来ないです。私をここに呼んだ理由も。」


哪吒太子は牛魔王を見つめながら言葉を放った。


「目の前で壊される方が人の頭の中を支配する。500年前の美猿王のようにね?」


牛魔王はそう言って、酒を口に運んだ。


「鱗青も同じような目に遭わせるって事?」


哪吒太子の後ろから現れたのは、黄色の瞳に金髪のサラサラした髪を靡かせ、妖石を頬に付けた男が現れた。


「風鈴(フウリン)、お前は呼ばれていないだろ。」


「良いじゃん別に、追加の酒も持って来てあげたんだし。それに一応は貴方の部下ですからね哪吒太子?」


この、風鈴と呼ばれた男は哪吒太子が率いる太陽神聖(タイヨウシンコウ)に所属している。


「それよりも、話の続きは?」


風鈴はそう言って、哪吒太子の隣の椅子に腰を下ろした。


「あれ?君って、鱗青に興味あったの?」


「僕が興味あるのは、美猿王だよ。鱗青の事は別にどうなったって、アンタの予想通りの結果なんだろ。」


牛魔王の言葉を聞いた風鈴は言葉を放った。


「へぇ、何で美猿王に興味があるの?ま、今の名前は悟空なんだけど。」


「哪吒太子のお気に入りだからね?どんな奴かは気になるし、あの裁判のような事をするの?また。」


「あぁ、そう言う事。アイツの女に裁判を起こせる程の価値はねぇ、あるとするなら破滅だ。」


「破滅させる気?自分の仲間なのに怖い事するねー、牛魔王様は。」


風鈴は言葉を放っていてもニヤニヤし続けていた。


「お前、本当に性格悪い。」


哪吒太子はそう言って、風鈴の事を嫌な顔をして見つめた。


「お褒めに預かり光栄です。」


「耳付いてんのかお前、誰が褒めた。」


風鈴の言葉に哪吒太子は苛立ちを見せた。


「アンタ等、半妖には分からない妖同士の暗黙のルールがあんだよ。ルールを破った者には制裁を下す決まりになっている。鱗青が罰を受ける事は決まっている。」


「暗黙のルール?」


牛魔王の言葉を聞いた哪吒太子は疑問を投げ掛けた。


「妖同士に絆なんて言葉は存在しねぇ。俺の血をやる代わりにアイツの時間を対価として受け取ってい

る。」


「時間って…、どう言う意味?」


風鈴は牛魔王に質問を投げ掛けた。


「俺の作った六大魔王に入るって事は、俺の所有物になるって事だ。俺の命令は絶対服従、俺が死ねって言えば死ななきゃならない。アイツに女が出来た事はすぐに分かった。」


そう言って、牛魔王は酒をグイッと飲み干した。


「だから、がしゃどくろの呪いを女とその弟に掛けた?」


「それもあるけど、毘沙門天がその女の弟を欲しがってるからしただけだ。」


「弟を?」


牛魔王の言葉を聞いた哪吒太子は謎そうにしていた。


「そろそろ、来る頃か。」


ドタドタドタドタ!!


牛魔王の言葉の後に乱暴な足音が聞こえた。


「おい!!牛魔王!!何したんだよ!?」


薄いカーテンを乱暴に開け現れたのは鱗青だった。


「帰って来たのか鱗青。あの2人に付いてなくて良いのか?」


牛魔王は鱗青を挑発するような言い方をした。


カッとなった鱗青は牛魔王の胸ぐらを掴もうと手を

伸ばした瞬間、鱗青の首元に刃物が光った。


「テメェ…、風鈴。何の真似だ。」


鱗青の首元に刃物を当てていたのは風鈴だった。


「裏切り者が牛魔王に触っちゃいけないでしょ?こんな所に何したの?」


「お前には関係ないだろ?!俺は牛魔王に用があんだよ!?」


「桜の木の下で出会った女の事か?」


牛魔王の言葉を聞いた鱗青の体がピクッと反応した。


「人に化けていたお前を妖だと見抜いたのに、変わらず接した女の事か?」


牛魔王は更に言葉を続ける。


「貴方は人になっても、妖になっても変わらない優しい人。私は貴方と言う存在が好きなの。そう言った女の事か?」


「テメェ!!」


「あははは!!!お前が人間の女を好きになるなんてなぁ?俺にそんな口を聞くまで偉くなったつもりかよ。」


ギロッと牛魔王は鱗青を睨み付けた。


「林杏達に掛けた呪いを解いてくれ。」


鱗青はそう言って、牛魔王の前で膝を着き頭を下げた。


「対価は?」


「え?」


「お前、妖同士の暗黙のルールを忘れたのか。」


「俺の命差し出す!!それなら、対価として成り立つだろ?」


「お前なんかの命で、対価と呼べるか。自惚れんなよ格下の妖が。」


「っ…。」


牛魔王は冷たい目で鱗青を見つめる。


「お前の命にそんな価値はねぇ。お前が出来る事なんか何一つねぇ。だったら俺の言う事を聞いていた方がまだ、存在価値はあっただろうな。」


「お前の言う事を聞けば、林杏達の呪いを解いてくれるのか。」


鱗青の言葉を聞いた牛魔王はニヤリと笑った。


「あぁ。対価を貰った以上、約束は守らねぇとな?」


「分かった、お前の言う通りにする!だから、絶対に呪いを解いてくれ。」


「分かった、俺は約束は守る男だからな。」


「何をすれば良いんだ。」


「美猿王と三蔵を仲違いさせろ。」


悟空の名前を聞いた哪吒太子は牛魔王を見つめた。


「その2人は今、一緒に行動している。美猿王はまた、新しい仲間を気に入り始めてる。美猿王には俺の事だけを考えてもらわないとな。」


「そんな事が対価に値するのか…?」


ガッ!!


牛魔王は鱗青の顔を乱暴に掴んだ。


「お前の命よりも価値がある事なんだよ。お前と美猿王を一緒の存在だと認識するな。黙って従ってれば良いんだよ、分かったか。」


鱗青は黙って頷いた。


「さっさとやれよ。もし、この事を誰かに話したらすぐに殺す。」


「わ、分かった。誰にも言わない。」


「なら、さっさと行け。」


牛魔王の言葉を聞いた鱗青は牛魔王邸を後にした。


「僕が鱗青を監視しましょうか?」


そう言ったのは、風鈴だった。


「その方が鱗青の行動が分かりやすいでしょ?裏切るのか従うのか。その姿を見たいしね。」


「お前の好きにしろ。」


「そう?なら、好きにさせて貰うよ。良いよね、哪吒太子。」


「言う事を聞いた事ないくせに。」


哪吒太子の言葉を聞いた風鈴はハハッと軽く笑った。


「本当にテメェは良い趣味してるよ。」


「そりゃあ、どうも。」


そう言って、風鈴は軽く笑った。


鱗青の監視役を買って出た風鈴は、法明和尚に助けを求めた事も三蔵達と合流した事も筒抜けだった。


その事に鱗青はまだ、気付いてもいなかった。




そして、今に至る



三蔵と猪八戒に牛魔王との会話の全てを話すつもりはなかった。


林杏と鈴玉を助ける為には、三蔵と悟空を引き剥がさないといけなかったからだ。


鱗青は三蔵と話をしながら様子を伺っていた。


どうやったら2人を仲違いさせれるかと。


まず、最初に鱗青がやったのは林杏と鈴玉の姿を三

蔵に見せる事。


人間と言うものは、落ち込んでいる人や傷付いている人を見たら放って置けないのが人情だ。


現に、鱗青の話を聞いている三蔵がそうだ。


「鱗青はただ、好きな人を守りたいだけなのに。牛

魔王は何で、そんな事が出来るんだ。」


「ハハッ。俺が牛魔王の血を欲しがった所為だ。」


「がしゃどくろを倒すしか呪いを解く方法はなさそうだな…。呪いの根源を潰すのが一番早いんだけど…。」


三蔵の言葉を聞いた鱗青は言葉を放つ。


「お前にがしゃどくろを倒すのは無理だ。」


「え?」


「牛魔王の血を飲んだがしゃどくろは、凄えよ。力が前にも増して増幅してやがる。現にこの町をがしゃどくろ1人で滅ぼしたんだからな。」


鱗青のこの言葉は本音だった。


林杏の頭の上から、がしゃどくろが監視している姿を見つけてしまった時から鱗青は、がしゃどくろに対して恐怖心を抱いてしまった。


自分じゃ、がしゃどくろの呪いを解けないから法明和尚に頼み込んだ。


だが、法明和尚は林杏を助けられるか分からないと言った。


その言葉を聞いた鱗青は、迷いが無くなった。


”俺しか、林杏を助けられない。なら、俺は…。"


"三蔵と美猿王を引き離し呪いを解いて貰う。"


鱗青は心の中でそう思っていた。


「がしゃどくろをそう簡単に倒せるなんて思ってないよ。俺だけだったらね。」


三蔵の予想もしていなかった言葉を聞いた鱗青は少し驚いた。


「俺と猪八戒、それと沙悟浄と悟空がいれば何とかなると思うんだ。いや、これからも何とかなって行く気がするんだよね。」


「悟空が聞いたら怒りそうー。」


「悟空は怒らないよ。あ、そって言うだけだよ。」


「何で、そう思う。」


三蔵と猪八戒の会話に鱗青が口を挟んだ。


「え?何でって、何となく。」


「何となく…って。そんな曖昧な…!」


「分かるよ。1年も一緒にいたら分かる。」


三蔵はそう言って鱗青を見つめた。


鱗青の心境は穏やかでは無くなっていた。


三蔵が悟空の事を理解し始めていたからだ。


鱗青の思考は、簡単には三蔵が悟空の側から離れないと直感した。

だとしら、どうしたら良いのか。


その事しか頭になかった。


鱗青は無意識のうちに牛魔王の策略に乗せられていた。


本当の愛ならば、牛魔王の事を裏切りどうにかして呪いを解く方法を見つけるだろう。


だが、結局の所は牛魔王を裏切る事が出来ないで、

牛魔王の手のひらの上で転がされていた。


その様子を外から風鈴が見つめていた。


「あーあ。結局、牛魔王の言う通りだったな。」


風鈴はつまらなさそうに木の上から見ていた。


「対価って言うより、命令だよね。あんなの、対価としては全然、利益になっていないじゃないか。それに、これって愛の為の行動なのかな。」


「アンタも来てたの。」


風鈴に声を掛けたのは真秋だった。


「やぁ、真秋。鱗青の監視役をしてる所。」


「自分から言い出したクセに。どうせ、牛魔王の言う通りにしてるんでしょ。」


「よく分かってんじゃん。」


「見てたら分かるじゃない。牛魔王にコントロールされてるじゃん。」


真秋は髪を弄りながら呟いた。


「そのうち、自分の女さえ裏切るんじゃない?好きかどうか分からなくなる。」


「そこまで?」


「牛魔王はそうなる事を分かってる。だから対価って称して命令したんでしょ。馬鹿馬鹿しい。」


「弱い妖がどう足掻くのか実物だねぇ。牛魔王様は違う楽しみをしに行ったからさ。」


そう言って、風鈴は闘技場の方を見つめた。



闘技場入り口ー


エントリーシートに名前を書く為に並んでいた悟空と沙悟浄は最前列まで進んでいた。


5分もしないうちに、悟空と沙悟浄の番になっていた。


猫の妖が悟空と沙悟浄に声を掛けた。


「代表者の人はここに名前書いて、大会は明日に開催されますので。」


「大会は明日のなのか。俺がとりあえず書いとくぞ。」


「あぁ。」


沙悟浄の問いに悟空は短く返事をした。


沙悟浄は適当に名前を書き、番号が書かれた名札を2枚受け取った。


「これがないと明日、出れないから俺が持っとくぞ。」


「んじゃ、お前が持ってろよ。」


「はいはい。」


エントリーを完了させた悟空と沙悟浄は列を外れた。


「とりあえず、三蔵達が行った店に行くか?2人にも大会に参加する事は話さないといけないし。」


「そうだな。明日にならないと動きようがねーし、戻るか。」


トンッ。


悟空の肩に誰かがぶつかった。


「あ、すんません。」


そう言って、男は悟空に謝った。


顔の左側は火傷の跡と糸で縫われた跡があり、灰色の切れ長の目、黒と赤の布を頭に巻いているが長い襟足を見たら黒と赤のグラデーションになっていた。


体にも火傷や糸で縫われた跡が沢山あった。


「怪我とかしてないですか?」


「あぁ。」


「本当、すんません。」


男は何度も謝ってから列の中に戻って行った。


「あんな感じの妖もいるんだな。」


「あんなって?」


「謙虚な感じの。妖って太々しいイメージがあったから。」


「色んな奴がいるんじゃね。興味ねーわ、そう言うの。」


「お前って、本当に他人には興味ないよな。」


そんな話をしながら悟空と沙悟浄は闘技場を後にした。




タタタタタタッ…。


「遅い。」


「すんません。」


「何してたんだ?」


「いや…、人とぶつかってしまって。」


「あっそ。」


男はつまらなさそうに火傷だらけの男の話を聞いた。


火傷だらけの男は悟空の後ろ姿をジッと見つめているのを男は気付いた。


「そんなに気になんの?あの男の事。」


「い、いや、そんな事は…。」


「まぁ、また会う機会はあるよ。嫌ってほどにね。」


「何を言ってるんですか?」


「さ、俺達の番だよ。ほら、名前書いて。」


「は、はぁ…?」


火傷だらけの男は困惑しながらエントリーシートに名前を書いていた。


「久しぶりに会えるな。」


男はそう言って、ニヤリと笑った。


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