西遊記龍華伝

西龍
百はな
百はな

呪術の彼岸花

公開日時: 2023年3月19日(日) 21:17
文字数:4,275

源蔵三蔵 二十歳



ドンッ!!


「痛っ!!」


思いっきり尻から地面に落ちたな…。

尻が痛い…。


カランッ。


手のひらに骨のような硬い物の感触したので、下に視線を向けた。


人間の骨?


それと、動物か何かの骨が落ちている。


「骨!?」


骨の山の上に落下していたようで、驚きのあまり骨の山から転げ落ちた。


ドサッ。


「おい、大丈夫かー?」


頭の上から聞き慣れた声が降って来た。


「猪八戒!!無事だったのか?!」


「勝手に殺すな。ほら、手。」


猪八戒はそう言って、俺の手を取り立ち上がらせてくれた。


周りを見ると、いつの間にか暗くなっていて街並みがガラッと変わっていた。


猪八戒がいた福陵(フクリョウ)の妓楼達がいる街並みになっていた。


「え?ここは福陵…?」


「違うと思うぞ。人の気配がしないし、それにア

レ。」


猪八戒は言葉を放った後、指を差した。

指の方向に視線を向けると骸骨の軍団が歩いていた。

服を着ている骸骨は不気味さを出している。


「骸骨が歩いてる…っ!?って事は…。」


「がしゃどくろの領域に俺達は"落とされた"みたいだ。」


確か…、ここに落とされる前に男の声が聞こえた。


その男が俺と猪八戒を落としたのか…?


「アハハハ!!!もっとだ、もっと私を讃えよ!!!」


女の笑い声が街に響いた。


「がしゃどくろ様ー!!」


「がしゃどくろ様、がしゃどくろ様ー!!」


大きな骸骨の前に骸骨達が群がった。


「あの女、あんな大きかったのか。」


「女って…?猪八戒が戦っていたのは…、がしゃどくろだったのか?」


「あー、がしゃどくろが女に化けて俺に接触して来たんだよ。あの時は女の姿だったから、そんなにデカくはないと思ってたが…。」


猪八戒の方にがしゃどくろが行ったのか。


林杏さん達の呪いを解けるのは俺と猪八戒だけだ。


悟空と沙悟浄と合流するのは、難しそうだ。


「アハハハ!!アハハハ!!」


がしゃどくろは楽しそうに大笑いしている。


何だ…。


この嫌な感じは…。


「結界の中に閉じ込められた?」


「結界?」


俺の言葉を聞いた猪八戒が俺に問い掛けた。


「俺達、多分だけど結界の中に閉じ込められてる。」


「結界の中に落とされたって事?」


「うん。だけど、普通の結界じゃねーよこれ。呪術の掛かった結界だ。」


嫌な感じの正体が分かった。


呪術だ。


林杏さん達に掛かってる呪いと同じように、結界を作る時に呪術を掛けたんだ。


「林杏さん達に掛けた呪術師が、この結果を作ったんだ。」


「は、はぁ?陰陽師じゃなくって、呪術師…?その呪術師は結界を作れんのかよ。」


「普通は無理だよ。呪術師はあくまでも、呪いを掛けるだけだよ。俺にも解らない事が起きてるのは確かだよ。」


呪術師がどうやって、結界を…?


ズキンッ!!


右腕に痛みが走った。


袖を捲り右腕を見てると、紫色の彼岸花が腕に咲いていた。


「な、何んだこれ…。猪八戒の腕にも同じのがあるけど…、大丈夫?」


「何か痛いなって思ってたけど…、何これ?」


猪八戒は不思議そうに自分の腕を見て言葉を放った。


これは…。


もしかして、呪いか!?


周りに目をやると、紫色の彼岸花が咲いていた。


それも大量の彼岸花がそよそよと揺れている。


ズキンッ!!


右腕に痛みが走る。


「お、おい、猪八戒は大丈夫か?」


「痛いけど大した事はないよ。周りに咲いてる彼岸花と同じヤツだな。呪術か何か?」


「ここに長居するのは良くないな。体に影響が出て来てる。がしゃどくろをここで滅して早くここから出…。」


「ようこそ、僕の作った彼岸花の街へ。」


頭上から男の声が聞こえた。


見上げて見ると、哪吒とよく似た男が浮いていた。


「お前が俺達を結界の中に落としたのか?」


猪八戒はそう言って、男に尋ねた。


「お前だなんて失礼だなぁ。僕の名前は風鈴、哪吒太子の部下?って言えば良いのかなー。まぁ、君達なら分かるかよね?」


風鈴と名乗った男はヘラヘラしているが、隙が全くない。


哪吒の部下と言う事は、毘沙門天側の人間と言う事。


「意図的に俺と悟空達を分断させたのか。毘沙門天の命令か?」


俺は風鈴に問いを投げ掛けた。


「正解。本当は僕の担当はあっち側だったんだけど、変わってあげたんよねぇ。僕は美猿王に会いたかったんだけど、やりたかったんだけどなぁー。君達、弱そうだもん。」


風鈴はそう言うと、スッと表情が変わった。


「変わった事は仕方ないけど、僕を楽しませてよ三蔵様。美猿王が一緒にいる相手だ。さぞかし、凄いんだろうねぇ?」


風鈴の言葉を聞いた猪八戒が俺の前に出た。


「猪八戒…?」


「お前、コイツの事を舐め過ぎ。連れの事を馬鹿にされて良い気はしないよなぁ?」


カチャッ。


猪八戒はそう言って、紫洸を構え銃口を風鈴に向けた。


「風鈴、其奴等は私の客だ。」


ガシャン、ガシャン。


「はいはい。今日は君が主役なんだったね。」


主役…?


「牛魔王様から受けた命令を遂行する為に、お前の力を借りた訳なんじゃからな。」


俺達の目の前に立ったがしゃどくろは、ニタァッと笑った。


「ほうほう、牛魔王様が目を付けている人間と半妖はお前達の事か。」


ジィッと俺の顔を覗き込んで来た。



カチャッ。


俺は霊魂銃をがしゃどくろの額にくっ付けた。


「あ?」


「お前がどんな目的なのか知らねーけど、俺はお前を殺すよ。」


パァァアン!!


パリーンッ!!


そう言って、弾き金を引いた。


「ギャアハハハハハハ!!!」


がしゃどくろの顔が半分に欠けた。


なのに、がしゃどくろは大声で笑った。


「ギャアハハハハハハ!!」


ズキィィィン!!!


右腕に激痛が走った瞬間、胃から何かが込み上げて来た。


ゴフッ!!


ビチャッ!!


「三蔵!?」


俺が吐き出したのは自分の血液だった。


紫色の彼岸花が右腕全体に広がっていて、激痛が走った。


な、何だ…?


どうなっているんだ…?


「テメェ、三蔵に何をした!?」


猪八戒はそう言って、風鈴達を睨み付けた。


浮いていた風鈴が地面に着地し、猪八戒に近寄った。


「ここは、僕が作った結果だよ。そして、僕の好きなように出来る。そこの人間には枷を付けさて貰ったよ。」


「枷…?」


激痛と吐き気に耐えながら風鈴に尋ねた。


「君と半妖の君には呪術を掛けた。だけど、三蔵様には違う呪術を掛けた。どう意味かと言うとね?陰

陽術を使えば呪いの進行が早くなるって呪い♪」


陰陽術を使えない状況なのか?


「呪いを解くのは簡単な事。がしゃどくろを殺せば良いだけ。がしゃどくろも了承済みだから。」


風鈴は淡々と説明をする。


「は、半妖のお前が何で呪術と陰陽術を使える。普通、呪術師なら結界術を使えないだろ。」


「そんな事が気になるの?三蔵様は。僕が天才だから呪術も使えれば結果術が使える、それだけの事。」


天才…。


陰陽師の中にも逸材と呼ばれる存在はいる。


俺もその中の1人で、もし風鈴が人間だったら、逸材と呼ばれるだろう。


それと、風鈴はかなり頭が切れる。


俺に陰陽術を使えなくさせれば、簡単に俺を殺せるからな。


「陰陽術を使えない君がどう戦うのか、高みの見物でもさせて貰おうかなー。」


風鈴は再び空中に浮き、高い建物に向かって飛んで行った。


パサッ!!


猪八戒が紫洸から大きな鉄扇に持ち替えていた。


「三蔵、お前は何もすんな。」


「何…っ言ってんだよ。俺も戦っ…。」


「呪いが進行したら、どうすんだ。俺がやる。」


猪八戒はそう言って、俺の方に振り返った。


「お前を死なせる訳にはいかねぇ。仲間だからな。」


「ガハハハ!!!仲間だぁ?人間と妖が仲間だと!?笑わせる。所詮、人と私達は交わる事はない。」


がしゃどくろは、猪八戒の言葉を聞いて笑いながら話した。


「お前、寂しいヤツだな。」


「は?私が?」


猪八戒は鉄扇を広げ言葉を続けた。


「お前は本当の仲間に会った事がないんだな。寂しいヤツだよ、自分の命を大事にして貰えなくて。」


「貴様、牛魔王様を愚弄するか!!!」


がしゃどくろは怒りに身を任せ腕を振り上げた。


猪八戒は鉄扇を振り上げ、がしゃどくろの腕を吹き飛ばした。


ガシャーンッ!!


パキパキパキパキ!!


猪八戒の周りに鉄の破片が幾つか浮いていた。


「本当に仲間なら、仲間の命を使って俺達を足止めしない。お前は牛魔王に利用されてんだ。」


「黙れぇぇえ!!!行け!!」


「「ゴォォォォォォォ!!」」


がしゃどくろは周りにいた骸骨を操り俺と猪八戒の周りを囲んだ。


「牛魔王様を愚弄するな!!あのお方は私に価値を与えて下さったのだ!!」


鱗青と違って、がしゃどくろは牛魔王に忠誠を誓っているんだな。


呪いは右腕だけに広がってる。


霊魂銃を使えば一気に呪いが回るな…。


札ならいけるか。


俺は札を持ち、猪八戒に声を掛けた。


「猪八戒にだけ無理はさせない。大丈夫、霊魂銃を使わずに札で戦う。」


「大丈夫なのか。」


「大丈夫…って言いたい所だけど、猪八戒にはかなり無理させる。」


「お前に死なねるよりはマシだよ。早くがしゃどくろを倒して、ここから出るぞ!!」


バサッ!!!


ブワァァァァァ!!!


猪八戒は鉄扇を大きく降り、暴風を吹かせた。


ガシャーンッ!!


骸骨達が暴風に巻き込まれバラバラになるが、すぐに復活する。


「ッチ、いちいち復活してくんなよなっ!!」


ブワァァァァァ!!


この骸骨達も何かの術に掛かっているのか?


それか…、一気に滅するしかないか。


「猪八戒、ここは俺に任せろ。」


俺はそう言って、札をばら撒いた。


そして指を素早く動かし、星を書き口を開けて言葉を放った。


「爆。」


パァァァァァァァァ!!


札から光が放ち骸骨達を爆発させた。


ズキィィィン!!


右足に激痛が走った。


札を使っても、呪いを進行させるかっ…。


「三蔵!?大丈夫か!!?」


「男の意地の見せ所だな、猪八戒。」


呪いに負けてたまるかよ。


こんな姿、悟空が見たらこう言うんだろうな…。


「猪八戒に頼ってねぇで男の意地を見せろよ。お前、こんな奴に負けるのか?」


サラッと言いそうだな、悟空だったら。


フッ。


自然と口が緩んだ。


悟空達にも何か起きてる筈だ。


牛魔王ががしゃどくろに俺達の足止めを命じたと言う事は…。


悟空との接触を邪魔されたくないからだ。


林杏さん達の呪いを解きたいと言ったのは俺だ。


がしゃどくろくらい倒せないでどうするんだ。


俺は悟空の隣に並びたい。


その為に修行して来たんだろう、俺!!!


「少しは骨のある男だったか、三蔵。」


「ハッ、まだまだ俺は本気を出してねぇよ、がしゃどくろ。」


そう言って、俺は式神札を取り出した。


「猪八戒、がしゃどくろを倒して悟空達の所に行こう。嫌な予感がするんだ。」


猪八戒は俺の表情を見て何かを察した様子で、ニッ

と笑った。


「了解!!」


「ガハハハハハ!!!死ね!!」


がしゃどくろがそう言って、俺達に向かって突進して来た。


悟空が傷付く状況になっている事を、この時の俺は知らないでいた。

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