西遊記龍華伝

西龍
百はな
百はな

妖怪達の頭

公開日時: 2022年6月8日(水) 23:08
文字数:5,146

ー 何かを忘れてる気がする ー


ー 凄く大切な事を、だけど思い出せない ー


四川省に着いた三蔵達は、早めの昼食を取っていた。


三蔵と黒風はメニューを見ながら楽しそうに話している。


悟空と猪八戒は白酒(パイチュウ)を飲んでいた。


*白酒とは、中国発祥の蒸留酒(ジョウリョウシュ)でウィスキーや焼酎、ウォッカなどと同じ製法で作られたお酒で白酒のアルコール度数は50度前後*


「昼から酒飲むなよなー2人共。」


三蔵はそう言って、悟空と猪八戒を見つめた。


「別に良いだろ?食べるの決まったか?」


悟空はそう言って、白酒が入ったグラスに口を付けた。


「お、この白酒。美味しいな。」


「だよな!!酒の趣味が合うなー。次はこっち飲んでみよーぜ悟空。」


「あ?どれ?」


悟空と猪八戒は楽しそうに酒のメニューを見ていた。


「え、美味しいの?俺も飲みたい…。」


三蔵が物欲しそうな顔をして、悟空の前にある白酒が入ったグラスを取ろうとした。


パシッ。


悟空が素早く伸びて来た三蔵の手を叩いた。


「あいた!?」


「お前は飲むな。」


「何で!?良いじゃん別に飲んだって!!」


「ガキが酒なんか飲むんじゃねーよ。」


悟空はそう言って酒を一気に飲み干した。


「心配なら心配って素直に言えば良いのに。ほら、

三蔵は杏子のジュースでも飲んどけ。食うもん決まったなら注文しろ。」


猪八戒は笑いながら三蔵に頼んでおいた杏子のジュースを渡した。


「ふぅん。俺の事を心配してたのか!!なら、しょうがないな!!すいませーん!!」


ご機嫌になった三蔵が手を上げて店員を呼んだ。


「おい、コイツを調子に乗らすなよ。」


「良いじゃん?別に、本当の事なんだし。それに三蔵はさ、俺とお前が仲良く酒を飲んでるから飲みたくなったんだろ一緒に。」


トポポポポッ…。


猪八戒は話しながら悟空の空になったグラスに白酒を注いだ。


「餃子と春巻きに海老チリに卵スープ。後はイカ団子を。」


「少々お待ち下さいねー。」


三蔵から注文を聞き終えた店員が紙に書きながら席を離れた。


「黒風はお酒は飲まないの?」


「え!?僕ですか?僕はお酒が皆無的に弱いので…。」


三蔵と黒風が話していると悟空が入って来た。


「黒風は少し飲んだだけでも、ぶっ倒れてたからな。」


悟空はそう言って意地悪な顔をした。


「見るからに黒風は酒が弱そうだもんな。三蔵と一緒に杏子のジュース飲んでた方が良いな。お、注文したのが来たぞ。」


猪八戒が話していると、次々に注文した物がテーブルに置かれていった。


「熱いうちに食えよ。」


「え?悟空は食わないの?」


悟空の言葉を聞いた三蔵が不思議な顔をして尋ねた。


「俺はそんなにいらねーよ。食わなくても平気だし。」


「俺は少し頂くよ。悟空もちょっとは食えよ。」

猪八戒はそう言って小皿に料理を取り分け悟空に渡した。


「ほら、お前等の皿も貸せ。入れてやるから。」


「あ、ありがとうございます…。」


「ありがとな猪八戒!」


三蔵と黒風は猪八戒にお礼を言いながらお皿を渡した。


猪八戒は慣れた手付きで、お皿に料理を取り分ける。


悟空と猪八戒はお酒を嗜みながら料理を少しずつ口に運んだ。


三蔵と黒風は料理の感想を言いながら楽しく話していた。



ガヤガヤガヤ…。


人で賑わう店内の中で悟空と猪八戒だけは違った。


悟空と猪八戒の周りには白酒の空瓶が何本も転がっているのに、2人は全く酔ってはいなかったのだった。


何故なら、2人は違う事に気を遣っていて酒に酔う暇がなかった。


「おい、猪八戒。」

 

「あぁ、分かってる。」


悟空と猪八戒は小声で話した後、悟空はポケットに忍ばせておいた如意棒に手を伸ばした。


猪八戒は、テーブルの下で手のひらから毛女郎から譲り受けた2つ銃を取り出した。


「囲まれてんな。30…ぐらいか?」


「店員と店主以外は妖だろ。ここに入って来る前から付られてたから、外にいるのも合わせて50だな。」


「うっげー。やっぱりか。」


悟空の言葉を聞いた猪八戒は嫌々な声を出した。


「おいおい。天下の天蓬元帥が泣き言か?」


悟空はそう言って猪八戒の顔を見てニヤリと笑った。


「ハッ。笑わすな。」


「女のフリしてたんだから腕が鈍ってんじゃねーの?」


「あのな、俺は天界で元帥の名で武人してたんだ。訛(ナマ)りたくても訛れねーよ。」


猪八戒はそう言って、三蔵と黒風のコップに指を軽く弾かせた。


チンッ。


「ん?わぁに(何)?」


口に物が入った状態で三蔵が返事をした。


「今から何が起きても2人はテーブルの下から出るなよ。」


「「へ?」」


猪八戒の突然の言葉に三蔵と黒風は間抜けな声を出した。


悟空は足元に転がっていた空瓶を掴み三蔵の後ろから歩いて来た男に向かって投げた。


ビュンッ!!


パリーンッ!!


「え、え!?」


黒風は今起きた状況を飲み込めていなかったが、三蔵はすぐに理解したらしく黒風の手を掴みテーブルの下に籠った。


悟空と猪八戒は背中を合わせながらテーブルの上に立つと、周りにいた人間が妖怪の姿に変わった。


「お前等、他所者の妖だろ?ここが誰の縄張りか分かってきてんのか?あぁ?!」


鬼の妖怪がそう言って顔を近付けて来た。


「誰の縄張りかって?そんなの…。」


カチャッ。


猪八戒は持っていた銃を鬼の額にくっ付け、ニヤリと笑った。


「知らねーよ。」


パァァァァン!!


猪八戒が引いた銃弾が見事に鬼の額を貫いた。


「てめぇ!!お前等!!やっちまえ!!」


撃たれた鬼を見た堅いの良い妖怪が叫んだ。


一斉に悟空と猪八戒に向かって攻撃をして来た。


「オッラァァァァァァァ!!!」


堅(ガタ)いの良い妖怪が悟空に向かって大きな金棒を振り回して来たが、身軽な悟空は金棒を擦り抜け顔に思いっ切り回し蹴りを入れた。


ゴンッ!!


「うがっ!?」


「フッ。」


体が揺れた堅いの良い妖怪の頭に如来棒を叩き付けた。


ゴンッ!!


「ガハッ!!」


悟空はすぐに如来棒を持ち直し、周りに寄って来た妖達を如意棒を使って吹き飛ばしていた。


パンパンパンパンッ!!


猪八戒は両手に銃を持ち次々に近寄って来る妖を撃ち抜いた。


「な、何だよコイツ等!!ぐわっ!!」


「つ、強すぎるだろ!?こっちは50だぞ!?」


妖怪達が怯み始めた中、三蔵と黒風はテーブルの下で悟空と猪八戒の戦いぶりを見ていた。


「行け行けー!!右!!左!!行けー!!」


「ひ、ひぇぇぇぇー!!」


盛り上がっている三蔵の横で頭を押さえながら黒風は怯えていた。


悟空と猪八戒はテーブルに近寄らせないように立ち振る舞っていたが、隙を突いた妖が机の下を覗こうとした。


それに気が付いた悟空は大きな声を出した。


「猪八戒!!」


声を出した悟空に気が付いた猪八戒が素早く銃弾を放った。


パンッ!!


「グハッ!!」


銃弾が当たった妖怪はテーブルの近くで倒れた。


スッ。


悟空と猪八戒はお互いの場所を入れ替わりながら、

次々に妖怪達を倒して行った。


「すっげーな、あの2人。50にいるのに笑いながら倒してるよ…。」


楽しく見ていた三蔵も少し引き始めていた。


「牛魔王さんが認める程の腕でしたから…。はぁ…、悟空さん流石です!!」


黒風は目を輝かせながら動き回る悟空を見ていた。


そんな黒風を三蔵は、ある事を思いながら見つめていた。


「なぁ、猪八戒。」


「あ?んっだよ?」


銃弾を放ちながら猪八戒は悟空の言葉に返事をした。


「今からどっちが多く殺せたか数えねぇ?」


悟空がそう言うと、猪八戒がニヤリと笑った。


「あ、それ面白そう。手応えないし多かった方が何でも言う事を聞くのはどうだ?」


「お、言ったな?なら、今から数えるぞ。」


「了解。」


「さっきから、何を喋ってんだあぁぁあ!?」


悟空と猪八戒が話していると、鰐の頭をした男が口を開けて向かって来た。


「よっしゃ!!俺がもーら…。」


猪八戒は楽しそうにしながら銃を構えたが、如意棒が素早く伸び鰐の口の中を貫いた。


「ちょ、それは反則だろ!?」


猪八戒の言葉を聞いた悟空はニヤリと笑い「まずは1人目。」と言った。




源蔵三蔵 十九歳


牛魔王は悟空の事を認めていたんだよな…。


じゃあ、どうして裏切ったんだ?


俺の読んでいた書物には、悟空と牛魔王の事は詳し

く書かれていなかった。


「黒風、ちょっと聞きたい事があるんだけど。」


「何ですか?」


「悟空と牛魔王は、どうして割れたんだ?」


俺がそう言うと、黒風が固まった。


「あ、え、えっと…。」


周りは凄く騒がしいのに黒風と俺の空気は静かだ。


何か聞いちゃいけなかったような空気が漂う。


静かで重い空気を破ったのは黒風だった。


「牛魔王さんは、悟空さんの事を最初から消そうとしていたんです。」


「は、は?消そうとしてた…って?」


「悟空を消そうとしたのに、どうして兄弟になったんだ…。意味が分からない…。」


「牛魔王さんは…。」


黒風は口を再び閉じてしまった。


悟空と初めて会ったあの日、悟空は牛魔王に対して強い憎しみが滲み出ていた。


俺も牛魔王を許せない気持ちは勿論ある。


母さんと父さんを殺した事を許せない。


だけと、悟空はそれ以上に牛魔王の事を恨んでる。


悟空と牛魔王は…。


「牛魔王さんは、悟空さんの存在自体を消すつもりなんです。昔も今も、それは変わってないんです。」


ドクンッ!!


心臓が大きく跳ねた。


牛魔王は、本当に悟空を消そうとしてるんだ…。


今もどこかで牛魔王は悟空を消そうとしてる。


「そんな事、させない。」


「え?」


「悟空は俺が守る。」


ガシッ!!


突然、足を掴まれた。


俺は恐る恐る掴まれた足に視線を向けた。


視線を向けると俺の影から白い手が伸びていた。


全く気配を感じなかった。


影から手が!?


どう言う状況なんだ!?


「見つけた。」


女の声が耳に届いた瞬間、俺は自分の大きくなった影の中に引き摺り込まれた。


「三蔵さん!!」


黒風が俺の手を取ろうとしたが、黒風が俺の手を取る事は出来なかった。


「ッチ!!」


悟空の如意棒が机を破壊しながら影を貫こうとしたが、如意棒を擦り抜けた影はすぐに消えた。




何かを察知した悟空は、咄嗟の判断で如意棒を蠢いている影に向かって飛ばしたが遅かった。


「クッソ!!」


ガシャーンッ!!


悟空は近くにあった椅子を蹴り飛ばした。


「三蔵は!?」


残りの妖を倒した猪八戒が慌てて悟空に近寄って来た。


悟空が三蔵の方に向かって行った時に、猪八戒は何かあったのだと悟り、残りの妖を倒していたのだった。


「間に合わなかった。」


「悟空さん!!」


机から出て来た黒風が悟空の方に近寄って来た。


「どう言う事だ黒風。俺達がいない間に何が起きたんだ。」


「は、はい。急に三蔵さんの影から手が伸びて来て…。影の中に引き摺り込まれてしまったんです。僕も手を伸ばしたのですが…、間に合いませんでし

た。ご、ごめんなさい!!」


黒風はそう言って悟空に向かって頭を下げた。


「いや…、黒風は悪くないだろ。な?悟空。」


「あぁ、牛魔王の気配はしてなかったよな黒風。」


「は、はい!!牛魔王さんの気配はなかったです。」


黒風の言葉を聞いた悟空は少し考えてから口を開いた。


「単純に影を操る妖怪の仕業って事…か。」


「だろうな。ここに倒れてる妖怪達の仕業の可能性が高い。」


「へぇー。これだけの数を2人で倒しちゃったんだ。」


「「っ!!」


サッ!!


突然、聞こえて来た声に反応した悟空と猪八戒は武器を持って構えた。


店の入り口に立っていたのは、艶やかな黒髪を靡かせていて、赤色の瞳の下に黒い模様が入っている男

が立っていた。


悟空と猪八戒は男を見て"妖怪"だと確信していた。


「お前がコイツ等をここに集めて、俺等を襲撃したのか?」


「あー、そう言えばそうだしなー。俺は頭の命令でやった事だからなー。」


悟空の質問に男はヘラヘラしながら答えた。


「アンタ等は頭の縄張りに足を踏み込んだんだ。そりゃあ、ここにいる妖達が目を付けるのも当然だろ?」


シュルルルッ!!


悟空が伸ばした如意棒を男は顔を少しずらした。


「あーあー。喧嘩っ早いなーお前。」


男はそう言って悟空を見つめた。


「お前に構ってる程、こっちは暇じゃないんだよね。退く気がないなら。」


カチャッ…。


猪八戒はそう言って男に銃口を向けた。




源蔵三蔵 十九歳


ドサッ!!


「痛ってぇ…。」


俺は思いっ切り固い床に体をぶつけた。


「体が痛ってぇ…。ここはどこだよ…。」


煙草の匂いが鼻に届いた。


ゾワッ!!


全身に寒気が走った。


この感じ…、は何だ。


感じた事のない悪寒だ…。


背中が押し潰されそうな…。


今までとは桁外れな妖がすぐそこにいる。


「よぉ。」


低い声で俺の事を呼んだ。


俺は恐る恐る後ろを振り返った。


オレンジランプに照らされた青い髪は左サイドに分けられていて、薄紫色の丸サングラスにチャイナパオを着崩している男が目に入った。


男の白い胸元に青色の蛇の刺青が見えた。


「目が覚めたかガキ。」


男は怪訝な眼差しで俺を見つめた。





悟空と猪八戒は謎の男に捕まり、三蔵は謎の男に攫われ一時的に4人はバラバラになってしまった中で。


哪吒太子が率いる太陽神聖が四川省に到着した。


この四川省で最初の経文争奪戦が始まろうとしていたー






第三章    完



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