0時が過ぎても悟空達の食事会は続き、悟空と沙悟浄は闘技場での事を話し出した。
「そんな訳で俺達はバトルロワイヤルにペアで参加するけど、三蔵と猪八戒はどうする?」
沙悟浄はそう言って、2人に話を振った。
「俺はがしゃどくろの事を調べてみようと思う。やっぱり、林杏さんの呪いを解く方法を見つけたい。」
三蔵は悟空に視線を送った。
沙悟浄と猪八戒も、悟空に視線を向けた。
悟空は静かに酒を飲んだ後、グラスを置いた。
「お前の好きにしたら良いだろ?」
「え、良いの?」
悟空の言葉を聞いた3人は驚き、三蔵が言葉を放った。
「やめろって言って欲しかったのか。」
「そう言う訳じゃないけど…。」
「人間の女には罪はねーし、俺が嫌いなのは鱗青だし。」
悟空は言葉を放った後、再びグラスを口に付けた。
「経文の事は俺達に任せてろ。がしゃどくろの事は三蔵と猪八戒に任せる。ちゃんと三蔵の側にいろよ猪八戒。」
沙悟浄はそう言って、猪八戒に視線を向けた。
「分かってるつーの。沙悟浄達の方が大変そうじゃん、妖怪と戦うんだろ?悟空の存在って妖怪達には知られてるの?」
「悟空の噂をしてる奴は多かったよ。不老不死の術を手にしたからよけと、噂話に花を咲かせてたよ。」
「へー、有名人なんだ悟空。」
沙悟浄の話を聞いた後、猪八戒は悟空に視線を投げる。
「知らねーよ、んな事は。」
「ほらほら!!今日はもうお開きにするぞ!!俺と
悟空は朝、早いんだからな。」
沙悟浄の言葉で宴会はお開きとなった。
翌朝、悟空と沙悟浄は着替えをしていた。
黒のタートルネットにダボダボの黒のチャイナパンツに履き替え、黒のカンフーシューズを履いていた。
悟空は赤茶色の髪からベージュカラーに、沙悟浄の
青色の髪から黒髪に変わっていた。
「2人共、髪の色が変わるだけで雰囲気が変わるな!!」
三蔵は2人の姿を見て言葉を放った。
「まぁ、バレないように変化の術を使ってるしな。沙悟浄、準備は出来たか?」
「俺はいつでも大丈夫だ。そろそろ行くか?」
「あぁ、それと番号札は持ったか?」
「持ってるから安心しろ。それじゃあ、後は頼むな。」
悟空と沙悟浄は玄関に向かい、その後を三蔵と猪八戒が追い掛けた。
「がしゃどくろの事は任せろ!!2人は経文の事に専念して。」
「分かってる。それじゃあ、行ってくる。」
三蔵の言葉に返事をした悟空と沙悟浄は宿を出て行った。
残った三蔵と猪八戒は、周囲の調査に向かった。
孫悟空ー
まだ、1月と言うのに闘技場は熱気で熱くなっていた。
闘技場の中に入ると、妖怪達が武器を選んでいるのが見えた。
「こちらで武器を選んで下さい!!武器は1つしか使えませんのでご注意を!!」
河童の妖怪が武器庫らしき部屋の前で叫んでいた。
どうやら、このバトルロワイヤルでは武器を使って
のバトルらしい。
「そこのお兄さん達!!武器を選んで下さーい!!」
俺と沙悟浄の姿を見つけた河童の妖怪が手招きして来た。
「中に入ってみるか?」
沙悟浄が俺に耳打ちをした。
「あぁ。」
「では、ご案内致します!!」
俺達は河童の妖怪の後に続き武器庫の中に入った。
古今東西、凡ゆる武器達が揃っていた。
「こちらから1つ選んで下さい。選んだらこの紙に渡された番号札の番号を書いて下さい。」
河童の妖怪はそう言って、紙を見せ来た。
紙にはズラッと番号が書かれている。
「武器は何でも良いんだな?」
「はい!!」
沙悟浄の問いに河童の妖怪は元気の良い返事をした。
俺は壁に掛けられている武器に目を通した。
弓や槍、盾に剣が飾らせていた。
俺はいつも如意棒(ニョイボウ)を使ったり、爺さんの技を使ったりしてるしな。
この際、違う武器を使うのもアリだな。
「どれにするか決めたか?」
武器を見ていると沙悟浄が声を掛けて来た。
「迷い中。」
「だよな。使い慣れた物にするか、それとも違う武器にするか…。」
沙悟浄は近くにあった剣を取り呟いた。
俺はヌンチャクの隣にあった三節棍(サンセツコン)が目に入った。
*三節棍とは、長さ50〜60cm,太さ4〜5cmほどの
3本の棒を紐や鎖、金属の環などで一直線になるように連結した武器。
複数の関節部分を持ち、振り回して敵を攻撃する*
これって、陰陽師が退妖怪(タイヨウカイ)に作った武器だったよな?
何で、こんな物がある。
俺は三節棍を持ちジッと見つめてみた。
「あ、これは使えるかも。」
「決まったのかー?三節棍?」
沙悟浄は俺の持っている三節棍に視線を落とした。
「あぁ、俺はこれにするわ。」
「へぇー。お前がこれを選ぶとは思わなかったな。」
「俺の事は良いんだよ。さっさと武器を選べ。」
「はいはい。」
カチャッ。
沙悟浄が手に取ったのは刃が大きい槍だった。
「剣を選ぶと思ってた。」
「俺は元々はこっちを使ってたんだよ。まぁ、剣を使うようになったのは憲兵になってからだ。」
言葉を聞いて何となく事情があるんだと悟った。
「色々あるんだな。」
「色々あるんだよ。さっき貰った紙に番号を書いて来る。」
そう言って、沙悟浄は河童の妖怪の所に向かって行った。
沙悟浄も天界で色々あったんだな。
タタタタタタタッ。
「番号が書けたら広場に集まれてって。」
「広場?」
「闘技場の中心にあるらしい。広場に参加者達を集めて主催者が挨拶するみたい。」
主催者…。
「毘沙門天の野郎だろ?悟空。」
俺の頭の中に美猿王が話し掛けて来た。
「早く俺に変われよ。俺がさっさと殺してやるよ。」
後ろから美猿王が俺の頭を掴んだ。
「毘沙門天は俺が殺すんだよ。お前は出て来んな。」
「お前は俺を呼ぶよ。安心しろよ、あの頃のお前に戻してやるだけだ。」
「大丈夫か?」
沙悟浄の声を聞いてハッとした。
俺は激しくなっている心臓を無視して、平常心を装う。
「大丈夫って何が?」
「真っ青な顔して、大丈夫じゃないだろ。少し休むか?」
血の気が引いて顔色が真っ青らしい。
確かに息苦しさを感じる。
変化の術が思ったより体に負担を掛けているのか?
フラフラする。
「少し…、座りたい。」
「分かった。あそこに座ろう。」
沙悟浄は優しく俺と肩を掴み、近くにあったベンチに俺を座らせた。
「水を持って来る。そこで待ってろ、な?」
「あぁ…。」
「すぐ戻る。」
タタタタタタタッ…。
「はぁ……。」
沙悟浄が去った後、俺は大きく息を吐いた。
体が怠い。
何でだ?
空気が重い。
この闘技場の中の空気が俺似合わないような気がする。
「これを飲んで。」
聞き覚えのある声が耳に届いた。
目を開けると頭を布で巻き男の格好をした哪吒が顔を覗かせていた。
「何で、お前がここに…。」
「説明は後、それよりもこれを。」
哪吒は水の入った竹水筒を渡して来た。
俺は竹水筒を受け取り口を付け、水を流し込んだ。
体が急に軽くなった。
息辛さや怠さがなくなった。
「どうなってんだ?」
「ここには毘沙門天様が張った結界の影響が酷いの。結界に敏感な人はこの場にはいられない。」
「毘沙門天がやっぱ、何かしてたのか…。この水は?」
「聖水。」
「こんな所に聖水なんかあんのか?」
「持ち歩いてるから。」
哪吒はそう言ってから、竹水筒を俺の手から離した。
「毘沙門天と一緒にここに来たのか。」
「牛魔王邸に閉じ込められてたけど、黙って出て来た。」
「出て来たってまた、何で。」
「貴方に経文を渡す為に。」
どうして、毘沙門天側にいる哪吒が俺に経文を渡すつもりなんだ?
何かの罠か?
「毘沙門天様に作られた私の事を信用出来ないのは仕方ない事だ。毘沙門天様に気付かれる前に経文を探し出す。」
哪吒はそう言って、長い廊下を歩き出した。
本当にアイツは俺に渡すつもりなのか?
タタタタタタタッ!!
「お待たせ!!悪い、遅くなった!!」
水を持って現れた沙悟浄は俺の顔を覗き込んだ。
「あれ、顔色が良くなってる。体調は良さそうか?」
「あぁ、さっきまで哪吒がいたんだよ。」
「哪吒って…?確か俺の城に乗り込んで来た奴だったか?でも、その哪吒って子は敵だよな?」
「それが…。」
俺はさっきの出来事を沙悟浄に話した。
「その哪吒は、お前に経文を渡す為に牛魔王邸から抜け出して来たのか。それで持って来た聖水を飲ませたと…。」
「いまいち信用は出来ないけどな。」
「半々って所だな。その子の動き次第だな。」
ドンドンドンドンッ!!!
沙悟浄が言葉を放った後、太鼓の音が鳴り響いた。
「参加者の皆様は広場にお集まり下さーい!!開会式を行いますー!!」
「何にせよ、まずは勝ち抜かないとな。」
「あぁ。」
俺達は広場に向かった。
広場に着くと沢山の妖怪達が続々と集まって来ていた。
お立ち台に上がったのは毘沙門天だった。
やはり、毘沙門天が開いた大会だったか。
俺は毘沙門天を睨み付けながら、話を聞いた。
「皆様、お集まり頂きありがとうございます。これよりバトルロワイヤルを開催致しますが、ルールを説明します。」
毘沙門天は咳払いをした後、再び話し出した。
「ペアの1人が死んでしまったらそこで、そのペアは失格になります、ペアと協力して勝ち残って下さい。
戦闘不能、もしくは気絶をさせた方が勝ちです。勝ち上がり式の試合になりますので、左右の2つ、半分に分け試合をします。それぞれ勝ち残ったペア同士で最終試合を行います。」
「これだけいたら2つに分けるよな。」
沙悟浄が小声で俺に話し掛けた。
「だろうな、周りは毘沙門天の存在を知らないみたいだな。」
「確かに、神様だって知らないのかもな。」
俺は再び毘沙門天に視線を向け睨み付けた。
「こちらに番号が書かれています!!ご覧になられた方は左右に分かれて下さい!!」
河童の妖怪が声を上げ、他の妖怪達と共に大きな紙を持って来た。
近くの壁に貼り付けられた紙の周りに参加者達は集まった。
「試合開始は15分後です。それでは、楽しい戦いを。」
毘沙門天は話を終えた後、一瞬だけ俺に視線を送り笑みを浮かべた。
嫌な奴。
俺の存在に気付いてもあんな風に笑えんのか。
「今、こっち見たよな?」
沙悟浄も毘沙門天の視線に気付いたらしい。
「あぁ、嫌な奴は変わらないみたいだ。」
「経文が手に入ればこっちもんだ。勝つぞ。」
スッ。
沙悟浄はそう言って、拳を出して来た。
俺は黙ったまま拳をぶつけた。
15分後ー
「それではまもなく試合を始めます!!まずは、右方(ウホウ)3335番と2145番、前へ!!」
俺達の番号は、3335番で右方だった。
「お、俺達が最初か。」
「さっさと行くぞ。」
俺と沙悟浄は妖怪達の群れから前に出ると、弱そうな妖怪2人が出て来た。
2人が持っていたのは大きな剣と斧だった。
周りの妖怪は舞台に出た俺達を見て笑い出した。
「あんな瓶逆(ヒンギャク)な奴等が出てんのかよ!!」
「おいおい、武器も見てみろよ!!弱そうなのを選んで来てるぞ!!」
俺達を見て妖達がバカにし出した。
「俺達、随分と舐められてんな。」
沙悟浄が周りを見ながら言葉を吐く。
だが、沙悟浄の顔付きは余裕な笑みを浮かべていた。
俺達の対戦相手も余裕そうな顔をしていた。
「ギャハハ!!この勝負、貰ったな!!」
青い肌の妖怪がゲラゲラと笑う。
「おい、あの青いのは俺がやる。」
沙悟浄にそう言うと、「じゃあ、俺は隣の奴を仕留めるわ。」と言った。
犬の妖怪が手を上げた瞬間、俺は三節棍を持ち構え腰を引くくした。
「何だ、アイツ…。」
「急に空気が…。」
ザワザワザワ…。
「始め!!」
その声と同時に三節棍を振り回した。
ビュンビュンッ!!
「ヒャハハ!!振り回しただけで、俺は倒せねーぞ!!」
青い肌の妖怪が俺に向かって剣を振り下ろして来た。
キン!!
ビュンビュンッ!!
俺は剣を弾き飛ばし、妖怪の頬に思いっきり三節棍
を叩き付けた。
ドゴォォォーン!!
妖怪は地面に叩き付けられ、動けないでいた。
「は、はぁぁぁああ!?」
「どうなってんだ??!」
「おー、そっちも終わったか?」
周りが騒ついてるのを気にしていないのか、沙悟浄の対戦相手も地面で伸びていた。
「ま、まさかの開始5秒で、3335番の勝利です!!」
審判役の妖が赤い旗を挙げた。
「ま、楽勝だな。」
「弱いくせに大口叩きやがって。」
俺達は騒ついてる外野を他所に舞台を降りた。
左方でも、悟空達と同じく早く勝負が付いていた。
「しょ、勝者6666番!!」
「お、おい…。あの縫い目だらけの男が鎌を振った
瞬間、対戦相手の2人の頭が吹っ飛んだぞ…。」
「あんなにボロボロの鎌なのに?」
以前、悟空とぶつかった男の鎌を見て周りは騒ついていた。
「肩慣らしにはなったろ。」
包帯を顔や頭に巻いた男が縫い目だらけの男に声を
掛けた。
「まぁ、なったんですかね。」
「この調子で頼むぞ。あっちも早く勝負が付いたみたいだな。」
包帯男の視線の先は悟空だった。
「フッ、行くぞ。」
包帯男と縫い目だらけの男は舞台を降りた。
こうして、バトルロワイヤルは開始されたのだった。
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