西遊記龍華伝

西龍
百はな
百はな

向日葵の女 壱

公開日時: 2023年11月22日(水) 11:32
文字数:4,785

その頃、悟空は牛魔王の記憶の世界にいたのだがー



孫悟空ー


「「宜しく、お願いします!!」」


俺を取り囲むように、道着を着た子供達が、拳を握り叫んだ。


「何で…、俺がこんな事を…。」


何故、こうなったのかと言うと、時間を昨日まで巻き戻す。


昨夜ー


宇轩(牛魔王)に連れられ、大きな寺に来ていた。


どうやら、須菩提祖師の所持している寺らしく、坊

さんやら子供達が、敷地内を歩いていた。


「お前以外にも、ガキはいんのか。」


「はい、妖に両親を殺されちゃった子達が…。」


成る程な、爺さんがやりそうな事だな。


身寄りのない子供達を保護して、世話してやるとか。


アイツ等もそうだったな…。


才(サイ)、楚平(ソンヘイ)、建水(ケンスイ)の親も妖に殺されたんだったな。


爺さんは、密かに妖と人が共存する事を望んでいた。


だが、妖と人が共に生きるのは無理だ。


人よりも長く生き、私利私欲の為に生きる妖が、誰かの為に生きようとはしない。


俺は?


俺は今、誰かの為に生きようとしているのか?


殺しても死なない、死にたくても死ねない体。


生きる事に対して、執着しなくなってしまった。


何をしても死なないのなら、人間のように長生きしたいと言う気持ちが分からない。


そんな事を考えてると、宇轩に話し掛けられた。


「あの、お兄さん?どうかしましたか?」


「あ?何もねーよ。」


「そうですか?あ、お兄さんのお名前は?」


「名前だ?」


「はい!!教えて下さい!!」


名前って、なぁ…。


悟空や美猿王と名乗ってもなぁ…。


あ、そうだ。


アイツの名前でも、使うか。


「才だ。」


「才さん!!早速ですが、手合わせをお願いします!!」


「手合わせ?俺とお前が?」


「はい!!強くしてくれるんですよね!?」


俺に近付き、大きな声を出した。


おいおい、さっきまでの態度と違くないか?


馴れ馴れしいと言うか、懐かれたような…。


「どうすんだ?悟空。」


雷龍はそう言って、尋ねて来た。


「仕方ねぇ…、相手をしてやるか。」


そう呟いた後、嫌々ながら宇轩と手合わせをする事になった。


だが、ものの数分後ー


「はぁ、はぁ、はぁぁ…。」


「おい、あれは本気じゃねーよな?」


「本気ですとも?」


嘘っだろ…、弱過ぎだろ!?


拳を振るう威力は全く無いし、動きも遅過ぎて、その場で転ぶし。


宇轩の足を引っ掛け、その場に転ばすの繰り返しだった。


俺は自分の立ち位置から、一歩も動いていない。


キラキラとした子供の視線が、背中に痛いくらいに刺さってきた。


「すっげー!!あの人、一歩も動いてないよ!!」


「めちゃくちゃ、強えー!!」


「俺も、手合わせしたいです!!」


「は?」


子供達は俺の周りに集まり、騒ぎ出す。

 

「お、おい!!僕の師匠なんだよ?!だめ、だめ!!」


「何だよ、宇轩。良いじゃん、別に。」

 

「そうだよ、邪魔すんな!!」


宇轩が集まって来た子供達を引き剥がそうとするが、子供達は離れる様子はなかった。


「お客様にご迷惑を掛けてはいけませんよ。」


白金色の髪はセンター分けにされていて、色白の肌に糸目の男が現れた。


爺さんと同じ、袈裟を着ている。


コイツも、坊さんなのか?


「須菩提祖師から、話を伺っていますよ。お召し物を着替えられた方が宜しいかと。」


そう言えば、服は破け血がベットリ付いていた。


「あ、お師匠様。すいません、才さん。」


「ほら、宇轩。お客様をご案内してあげなさい。君達も、そろそろ夕食の時間だろう。」

 

男の言葉を聞いた子供達は、急いでどこかに向かって行った。


「才さん、こちらへ。お部屋にご案内します!!」


「部屋?俺のか?」


「不本意ながら、私が用意させて貰ったよ。君は大事なお客様だからね。」


俺は思わず、男に怪訝な視線を向ける。


何故なら、不気味な雰囲気だからだ。


何だ?


どこかで、会った事があるような気がする。


「おや、気に触ってしまったかな?」


「どこかで会った事ないか、俺達。」


「そうかな?ひとまずは休むと良い。疲れているだろ?私は仕事に行ってくるよ。どうぞ、ごゆっくり。」


男はそう言って、寺を出て行った。


あの独特な雰囲気の男…、どこで会ったか…。


思い出せねぇ…。


だけど、絶対に会った事がある。


「才さん、お部屋に到着しました。」


廊下を歩きながら考え事をしていると、いつの間にか俺の泊まる部屋に到着していた。

 

部屋の中に入ると、思ったよりも広かった。


大量の書物は丁寧に収納され、テーブルには季節外れの向日葵が飾られていた。


「才さんはここで、寝泊まりして下さい。」


「あぁ。」


「才さん、明日から宜しくお願いします!!夕ご飯、持って来ます!!」


「いや、食事は持って来なくていい。食べなくても、平気だ。」


俺の言葉を聞いた宇轩は、不思議そうな顔をした。


ドタドダドタドタ!!


慌ただしい足音が、俺の部屋に近付いて来た。


「才さん!!」


「俺達も、明日から参加させて下さい!!」


部屋に来たのは、俺の周りに群がって来た子供達だった。


「何だよ!?才さんは、僕の…。」


「それは、さっきも聞いたよ!!俺達だって、参加して良いじゃん。」


「昨日まで、僕に近寄っても来なかったくせに…。」


宇轩は小さな声で呟いた。


俺が来たから、ここのガキ共は、宇轩に近付いて来たのか。


爺さんは、コイツ等と仲良くさせたいんだろう。


この世界から出る方法も分からないしな。


今は、爺さんの頼み事を聞いておくか。


「ギャアギャアうるせぇ。お前等も、明日参加すれば良いだろ。」


「才さん!?」


「お前も、コイツ等に勝てないと、アイツ等を見返せねぇぞ。」


「っ!!そ、そうですよね。分かりました!!」


俺の言葉を聞いた宇轩は、納得した様子だった。


そして、今に至るー


「やぁぁああ!!」


緑色の帯をした子供が俺に向かって、蹴りを入れる。


俺はスッと後ろに下がり、子供の上がった足を持ち、地面に転がす。


ドサッ!!


「はぁぁぁぁ!!」


背後から、拳を振り下ろして来た子供の拳を、振り返らずに手で受け止める。


ガシッ!!


そのまま振り返り、オレンジ色の帯をした子供の脇腹に、軽く拳を入れる。


ドカッ!!


次々に向かって来る子供の攻撃を、受け流しての繰り返す。


「行きますっ!!」


タタタタタタタッ!!


勢いよく走って来た宇轩は、拳を振り翳す。


パシッ!!


宇轩の拳を受け止め、ガラ空きになっている脇腹に拳を入れる。


ドカッ!!


体制を崩したまま宇轩は、俺に向かって、回し蹴りをした。


グルッ!!


体を一回転させながら、もう片方の足を振り下ろそ

うとしていた。


だが、動きが遅い為か。


俺に攻撃を受け流す余裕を作らせている。


「遅い。」


ドカッ!!


宇轩の腹に蹴りを一発、勿論の事だが加減はしてある。


「はぁ、はぁ…。す、すごいなぁ、才さんは。」


「数人相手にしても、息すら上がってねぇ…。」


「僕達を殴る時も、力の加減をしてくれてるし…。」


本気の力で殴ったら、コイツ等は確実に死んじまうからな。


「もう一回、お願いします!!」


立ち上がった宇轩は、体制を整えから構えた。


へぇ、昨日よりは、マシな顔になったな。


「掛かって来いよ、俺はここから動かねぇからな。」


「はい!!宜しくお願いします!!」


俺は、向かって来る宇轩の攻撃を次々と避けた。



1時間経過ー


「おーい、少し休憩にしないかー?」


息の荒くなった子供達に声を掛けたのは、爺さんだった。


「須菩提祖師!!お疲れ様です!」


「帰って来るのは、明後日の筈じゃ?」


「早く終わらせて来たんだ。ほら、お茶でも飲んで、休憩にしなさい。」


「「「ありがとうございます!!」」」


爺さんは、子供達に冷えたお茶の入ったグラスを配っていた。


「宇轩、お疲れ様。ほら、お茶。」


「…、どうも。」


宇轩は素っ気ない返事をし、須菩提祖師からお茶の入ったグラスを受け取る。


「母さんの所に行って来る。」


お茶を一気に飲み干した宇轩は、どこかに行ってしまった。


母さんの所?


「悟空、この寺から妖気を感じる。」


雷龍がコソッと、耳打ちをして来た。


確かに、この寺のどこからか、妖気を感じていた。


だが、それがどこから放たれているのか、分からなかった。


「お疲れ様、宇轩の相手をしてもらって悪いな。」


そう言って、爺さんはグラスを渡して来た。


「どうも。」


「どうだ?宇轩、強くなりそうか。」


「まだ、始めたばっかりだからな。何とも、それよりも。アンタは、この妖気に気付いてんだろ。」


俺の言葉を聞いた爺さんは、口を閉じた。


「なぁ、白金の髪をした男が妖か?」


「アイツは違うよ、普通の人間だ。お前には、言おうと思っていた事がある。」


「何だよ。」


「来てくれ。」


爺さんは立ち上がり、寺の中に入って行った。


この妖気と関係する事か…。


そう思いながら、爺さんの後を追い掛けた。


何も言わずに爺さんは、奥へと進んで行く。


俺達の間には、何とも言えない重い空気が流れている。


廊下の突き当たりを曲がると、大きな扉が見えた。


「この扉は?」


「地下へと続く扉だ。子供達には、見えないように札を周りに貼っているけどね。」


だから、扉の周りに札が貼られてんのか。


扉にも貼られてるし。


爺さんは扉をゆっくりと開け、俺を誘導した。


地下へと続く階段を降りていると、感じていた妖気が地下から放たれている事が分かった。


やっぱり、この妖気は地下からか。


「子供達はまだ、妖気を感じられる程じゃないからね、それに妖怪を討伐出来る程の陰陽師も、私とアイツくらいだ。」


アイツと言うのは、白金の髪をした男の事だろう。


「だから、隠すのには、ちょうど良いって?」


「言い方は悪いが、そうなるな。」


「アンタが隠しておきたい妖怪って…。」


「初めは、妖怪ではなかったんだ。」


妖怪じゃなかった? 


タンタンタンタンッ。


階段を降り終えると、長い通路が見えた。


壁に置かれた蝋燭の灯りを頼りに、俺達は奥に進む。


「ゔっ、ゔぅぅ…。あ、ぁぁぁあ…。」


「ごめんね。こんな所じゃ、嫌だよね。」


呻き声の後に、宇轩の声がした。


「あ?アイツの声がするんだけど。」


「あぁ、宇轩もよく、ここに来てるんだ。」


「じゃあ、この妖気の事も、宇轩は知ってたんだ

な。」


「あぁ、あの子からしてみれば、この妖気も愛おしいものだから。」


愛おしいもの?


「ユ、シェン、ユ、シェン…。」


「うん、聞こえてるよ。」


「ユ、シェン、ユ、シェン。」


「うん、僕はここにいるよ。」


段々と宇轩の声と、謎の声が近くに聞こえるようになった。


蝋燭の灯りに照らされたのは、大量のお札が貼られた牢屋だった。


ガシャン、ガシャン、ガシャン!!


牢屋から聞こえるのは、鎖同士がぶつかる音。


大きな向日葵の花の中心には目玉が付いて、尖った牙と長い舌、手が何本も体から生えている女が目に

入った。


手足を手錠で拘束されているので、大人しいようだ。


間違いない。


妖気を放っていたのは、コイツだ。


だが、何なんだ?


この異様な姿の妖を見た事がない。


人間の姿のまま、頭に大きな向日葵が咲いている。


「父さん!?それに、才さんも!?な、何で、ここに?」


「私が連れて来た。彼には、知っていて欲しいからだ。」


「母さんをこんな姿にした父さんが?」


この女が、宇轩の母さん…?


それも、爺さんがこの姿にした?


「宇轩…。」


「母さんは、父さんの所為で死んで…。こんな姿になっちゃったんだ!!父さんが死ねば良かったんだ。」


「宇轩っ。」


ドタドダドタドタ!!


宇轩は爺さんに怒鳴り付け、走って行った。


「爺さん、どう言う事だ。」


「目の前にいるのは、私の妻だ。同じ陰陽師で、妖を滅していた。だが…、彼女は妖の呪いに掛かってしまい、この姿になってしまった。」


呪い…。


この異様な姿、大きな向日葵…。


もしかしたら、花妖怪の呪いかもしれない。


「呪いって、花妖怪のか。」


「あぁ、花妖怪の呪いは独特でね。私達では、どうにもならなかった。」


「命を蝕む呪い、体の至る所から呪いが発症する。

だが、普通なら死ぬだろ。何で、死んでいない。」


俺の言葉を聞いた爺さんは、口を閉じた。


嫌な考えが頭をよぎった。


まさか…、嘘だよな。


「爺さん…、アンタは…。禁忌を犯したのか?」


そう言うと、爺さんは悲しく笑った。


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