波月洞(ハゲツドウ)
*波月洞 中華人民共和国湖南省婁底市冷水江市にある鍾乳洞。 幻想的なビビットカラーの光が放たれ、氷柱のような形をした岩が上からぶら下がっている。*
毘沙門天と牛魔王達は、吉祥天を復活さる為に波月洞に潜伏していた。
「牛魔王!?どうしたのですか、その左目は!?」
牛魔王の左目が無くなっている事に気付いた毘沙門天は、驚きを隠せなかった。
「クククッ…、アハハハ!!」
「いきなり笑い出して、どうしたんですか…。」
「美猿王にくり抜かれたんだよ、笑わないでいられないだろう。あぁ、あの頃のお前に会えて嬉しいよ。」
シュルルルッ。
牛魔王は自分の影で眼帯を作り、左目を隠すように巻いた。
「それにしても、哪吒。無様な姿で戻って来たなぁ?」
左腕がない哪吒を見て、牛魔王は馬鹿にした言葉を放つ。
だが、哪吒は牛魔王の問いには答えなかった。
「羅刹天が腕を斬り落としたんですよ。哪吒、腕を着けますからこちらへ。真秋も来なさい。」
「ありがとうございます、毘沙門天様。」
真秋は御礼を言った後、毘沙門天に抱き着いた。
「毘沙門天様、この女は如何なさいますか。」
石はそう言って、後ろにいる林杏に視線を向けた。
「丁重に扱うように。吉祥天様の器になるのだからな、紫希に任せなさい。」
「分かりました。」
毘沙門天の話を聞き終えた石は、紫希に目配せをした。
「触らないで。」
紫希が林杏に近寄ろうとした時、林杏は隠し持っていた短剣を抜いた。
「紫希、禊(ミソギ)の方を済ませておきなさい。」
「分かりました。」
「何なのよ、一体…。」
毘沙門天と紫希の会話を聞いていた林杏は、理解出来ずにいた。
「さぁ、こっちに来て。」
「何、する気。」
「禊用のお風呂に入って貰うだけよ。」
「…。」
「案内するから付いて来て。」
「…。」
林杏は口を閉じたまま、紫希の後を付いて行った。
実験室(仮)ー
石で出来たベットに哪吒と真秋を寝かせた。
「さぁ、これを飲みなさい。」
毘沙門天が手に持っていたのは赤い液体が入ったグラス。
哪吒と真秋は黙って、赤い液体を口の中に流し込んだ。
飲み終えた瞬間、2人は激しい睡魔に襲われ眠りに付いた。
シュルルルッ…。
ゴキッ。
2人の無くなった腕が音を立てて、再生し始めた。
「さて、準備をしなくては。」
ガチャ、ガチャガチャ。
毘沙門天は沢山の血の入ったボトルを出し、大きな
水槽カプセルの蓋を開けた。
パカッ。
トクトクトクトク…。
血の入ったボトルの蓋を次々に開封し、カプセルの中に流し込んだ。
中身の入っていなかった透明のカプセルが、真っ赤に染まった。
次に、様々な薬草を入れた。
「後は、牛魔王の血さえあれば…。準備は完了だ。」
毘沙門天は優しく吉祥天の遺骨が入った入れ物を撫でた。
丁ー
頭が痛い。
あの男に会ってから頭が痛くて仕方がない。
「大将、大丈夫ですか?」
李はフードを取り、丁の顔を覗き込む。
右が黒い瞳、左から灰色のオッドアイ、ビビットピンクの髪に丁と同様に身体中に縫い目がある。
「あ、あぁ…。水を持って来てくれ。」
「すぐに持って来ます!!!」
タタタタタタタッ!!
「丁様、少し横になった方が…。支えますから、こちらへ。」
李と同じ灰色の瞳に、頭は黎明(レイメイ)のバンダナが巻かれ、ガタイの良い体に支えられながら横になった。
「悪いな、胡。」
「とんでもないです。大将の体調が悪い時ぐらい役に立たないと。」
「高も心配すんなよ。」
胡の隣にいる、獣人の高にも声を掛けた。
「ウー、大将、心配。」
「大将ー!!水、持って来ましたぁ!!!」
「うるせぇぞ、李!!大きな声を出すな!!」
「うるさいって、何だよ!?」
「喧嘩、ダメ。」
李と胡の喧嘩を高が止めているのを、僕はジッと見ていた。
僕達は目を覚ました時から一緒にいた。
どうして、黎明と言う名前の入った服と旗を持っていたのか。
どうして、牛魔王様に付いているのか。
それすらも分からない。
分かるのは、俺と目の前にいる李達は仲間だと言う事。
謎の火傷に謎の縫い目。
まるで、誰かの体の一部を縫い合わせたかのような跡。
牛魔王様は俺達は昔、花果山にいた猿だと言っていた。
そして、ある男を殺すように命じた。
それがさっきの男だ。
「丁…、なのか?」
男は僕の顔を見て、驚いていた。
ズキンッ。
頭が痛い。
ズキンッ、ズキンッ、ズキンッ。
「美猿王!!美猿王、どこですか?!」
僕の声?
視界は自然な緑と木々達が揺れていて、どこかの山の中なんだろうと思った。
頭の中に何かの記憶が流れて来た。
懐かしい…。
ここが花果山なのか。
「何だよ、丁。うるせーぞ。」
「あ、美猿王!!」
大きな木の上に登って寝ている少年に、僕は声を掛けている。
赤茶の髪…、美猿王…。
さっきの男の小さい頃か?
何で、この記憶に美猿王が出て来るんだ。
「いきなり、いなくなるので探しましたよ!!長老も心配しておりました。」
「ふわぁ…。ここの山に攻めて来る奴はいないんだから、血眼になって俺を探す必要はねーだろ。」
「そう言う事じゃ…。」
「戦いになったら行くから良いだろ。」
美猿王は花果山を守っている存在なのか?
「僕は貴方のお世話係りですよ?姿が見えなくなったら心配もします。食べた後、口を拭くのは僕でしょ?ほら!!また、桃を食べたんでしょ。」
僕の視界が美猿王と同じ高さになった。
どうやら、猿だった僕が美猿王がいる木の上に登っ
たのだろう。
僕の手には白い布が握られていて、美猿王の口の周りを拭いた。
「むぐっ!!離せ!!」
「ほら、動かないで下さい!あー、服もこんなに汚して…。」
「仕事が増えて良かったなー、丁。」
「全く…、仕方ない人だな。」
「何、笑ってんだよ。」
僕と美猿王は楽しそうに笑っていた。
「大将?大将!!」
「っ!!」
李の声を聞いた僕は、我に帰った。
「本当に大丈夫ですか?大将。」
「少し、ボーッとしてただけだよ。水、貰うな。」
僕は李の手から水の入った竹筒を取り、水を口の中に流した。
「あの、大将。」
「どうした?胡。」
「俺達も、あの男…。美猿王を見てから、妙な記憶が頭の中に流れて来るんです。花果山と思われる山に、猿だった頃の俺達、そして…。小さい頃の美猿王が…、頭の中に出て来て…。李達も同じようです。」
胡達にも、あの記憶が頭の中に流れ込んで来ているようだ。
「何か、何か大事な事を忘れている気がするんです。大将、俺達はどうして…、こんな姿になったのでしょうか…。」
この体は作られた物。
そして、本当の僕達の体じゃない。
僕達は…、僕達の支えている牛魔王は…。
本当の僕達の主君なのか?
「丁、体調が悪いんだって?」
「っ!?」
牛魔王が柱に持たれ掛かり、僕達をジッと見つめていた。
バッ!!
僕達は慌てて、牛魔王に跪いた。
「い、いえ。もう、大丈夫です。」
「なら、良いけど。ここの強化を強くしろって、他の黎明部隊に伝えておけ。」
「分かりました。」
「俺は風呂に入って寝るよ。じゃ、よろしくー。」
カツカツカツ…。
「胡、牛魔王様の命令を他の連中に伝えてくれ。」
「分かりました、2人も付いて来い見回りの強化をするぞ。」
「分かった。」
「大将は休んでて!!後は俺達がやっておくからさ!」
タタタタタタタッ。
胡達がいなくなった事を確認して、大きな溜め息を
ついた。
牛魔王に感じるこの、圧迫感は忠誠心なのだろうか。
僕の本当の主君は…。
「どっちなんだ。」
一方、その頃ー
美猿王達は波月洞の近くまで来ていた。
「この洞窟が、波月洞か。」
「何度も言っているが、波月洞で合ってるよ。」
「それも、そうか。」
鱗青を降ろした美猿王は、牛魔王の目玉の入った瓶を取り出した。
「ずっと、牛魔王の目玉を持ってたけど…。」
「コイツが嘘の場所を言う可能性があったからな。確認の為に持っていた。ほら、見てみろ。」
沙悟浄は美猿王に言われた通りに、牛魔王の目玉を見つめた。
牛魔王の目玉が瓶から出ようと、カタカタと中で揺れている。
「この目玉が反応してるって事は、奴はここにいる。」
「だ、だから言っただろ?!」
「さ、中を案内しろ。」
ガシッ。
美猿王は鱗青の腕を掴み、無理矢理立ち上がらせた。
「飛龍隊の眠ってる場所まで、俺を導け。」
「偉そうに…。」
「あ?俺が偉いのは当然だろ。お前は俺よりも弱い。おまけに、お前は俺の命令に逆らえない状況だろ。」
「…、糞野郎。」
「お前にそのまま返す。殺されないだけマシと思え。」
美猿王がそう言うと、鱗青は口を閉じた。
「この中から、嫌な感じがするんだけど…。」
沙悟浄は、波月洞の入り口から放っている異様なオーラに嫌気をさしていた。
「さっきから俺達を囲んで、ジロジロ見やがってる奴等がいるな。」
美猿王はグルッと周りを見渡した。
物陰や木の影から美猿王達の事を妖達がジッと見ていた。
「俺も視線には気付いていたけど、俺達に近寄って来ないぞ?」
「近寄れないんだよ…。」
「近寄れないって、美猿王がいるから?」
沙悟浄の言葉を聞いた鱗青は、黙って頷いた。
美猿王は他の妖怪からしたら、異質な存在なのだ。
近寄れば殺される。
目を合わせれば殺される。
美猿王に何をしても、殺されると妖達は悟っている。
「失せろ。」
シーン…。
ザッ!!
「急に視線が無くなったんだけど…。」
「行くぞ。」
「ちょ、ちょっと、何したの?」
「失せろって、言っただけだ。」
「は、はぁ…。」
美猿王達は波月洞の中に足を進めた。
波月洞の中は冷んりとしていて、足場が悪く歩き辛くなっていた。
「うわっ、歩きにくいな。」
「こっからは、お前が案内しろ。」
美猿王は鱗青に前を歩るく様指示をした。
「…。飛龍隊はもっと下の地下だよ。」
「地下?こんな、洞窟に地下があるのか?」
「毘沙門天が改造したんだよ。飛龍隊の封印を強化する為にな。それに、この波月洞には沢山の部屋に出る穴がある。どの穴に誰がいるかまでは、分からない。」
「俺のいた所と違うんだな…。」
タタタタタタタッ。
「と、止まれ。」
足音を聞いた鱗青は、美猿王達に止まるように声を掛けた。
「見回りの妖怪達だ。なぁ、場所を案内したら良いよな?」
「さっさと、案内しろ。」
「あ、あぁ…。」
「小言は良い。話はもう通ってんだ、ごちゃごちゃ言うんじゃねーよ。」
「わ、悪かったよ…。」
美猿王の声質から怒っているのが分かった鱗青は、
口を閉じ地下に案内した。
地下ー
地下に辿り付いた美猿王達は、目の前に広がった光景に目を奪われた。
氷の中に飛龍隊達が眠っているからだ。
「氷の中に飛龍隊が…、封印されてる状況なんだな。」
「毘沙門天は特にこの封印に力を入れていたからな。」
カツカツカツ。
沙悟浄と鱗青が会話をしている中、美猿王は氷に近付いた。
サッ。
美猿王はソッと氷に手を付けた。
「ここにいたのか、飛龍隊。ご苦労だった。」
ヒョイッ。
美猿王は血の入った瓶を鱗青に向かって投げた瞬間だった。
ビー!!
ビー!!、ビー!!、ビー!!
サイレンの音が波月洞に鳴り響いた。
「しまった、俺達がここに入って来た事がバレた!!」
「はぁ!?」
鱗青の言葉を聞いて驚いた沙悟浄が叫けぶと、階段を降りる足音が聞こえて来た。
ドタドダドタドタ!!
「侵入者だ!!」
地下室の中には数十人の妖達が入って来た。
「お、おい…。あれって、まさか…。」
「美猿王!?美猿王が何でここに…。」
「鱗青殿も何故、美猿王と一緒にいるんだ…?」
美猿王の姿を見た妖達は驚き話し始めた。
「どうする?」
沙悟浄はソッと美猿王に声を掛けるが、美猿王は堂々としていた。
「何十人来ようが殺すだけだ。死にたい奴は並べ。」
美猿王は言葉を放ちながら、妖怪達の前に立った。
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