西遊記龍華伝

西龍
百はな
百はな

狂人 壱

公開日時: 2023年9月2日(土) 18:06
文字数:4,281

小桃(桜の精)ー


この人…、悟空に似てるけど、悟空じゃない。


男はスッと、梵字の書かれた布に巻かれている刀に、触れようとした。


これに触らせたら、まずい!!


「ガルルルッ!!!」


バチバチバチ!!!


白虎から紫色の稲妻が放たれ、小桃の周りにも現れた。


男の手に稲妻が当たり、肌の焼けた匂いが鼻に付く。


「お嬢から離れろ!!腐れ外道が!!!」


「白虎っ!!」


男の焼けた手が、見る見るうちに治って行った。


傷が…、治った?


「神獣を従えているのか。番犬としては、いいんじゃないか?」


カチャッ。


スッ!!


腰に下げてある刀を抜き、男の前で構える。


「貴方、何者。」


肌から伝わる強い妖気に、押しつぶされそうにる。


声を出すのがやっとなくらいに、圧倒的な妖気が放たれている。


それに、この人から悟空の匂いがする。


「俺か?今は美猿王だ。お前の好きな悟空は、眠らせている。」


美猿王…、聞き覚えがある。


まだ、子供の頃に花の都を悪妖達から守ったと言う、2人の妖がいた。


1人は牛鬼、もう1人は美猿王と。


この人が…、あの美猿王?


悟空を眠らせているって、どう言う事?

 

「やっぱり、この墓は…。あの糞爺の墓か。」


美猿王はいつの間にか墓の前に移動し、彫られている名前を見た。


「須菩提祖師、此処に永眠。あははは!!!やはり、お前に会いに来て正解だったな。」


「何が、おかしいの?それに、悟空を眠らせてるって、どう言う事。あの人に、何かしたの。」


そう言って、キッと美猿王を睨み付ける。


「威勢の良い女は、嫌いじゃない。だがな、俺を睨み付けるには命が惜しいな。」


「っ!?」


美猿王は冷たい眼差しを向けたまま、小桃の頬に触れた。


ブチッ。


頬が切れ、短い痛みがした。


体が動かない…、怖い。


「お嬢!!!」


パチンッ!!!


白虎が叫ぶと、美猿王の手が弾き飛ばされた。


ブシャッ!!!


赤い血が吹き飛び、視界を真っ赤に染めた。


「妖はお前に触れられないようになってるのか。これが、神獣を使える女の加護か。」


「お嬢は神聖なお方だ。貴様みたいな、腐れ外道が触れて良い方ではない。」


シュルッ。


ブシャッ!!!


美猿王の吹き飛んだ血が、剣の形に変わり、白虎の体を貫いた。


「ゴフッ!?」


「白虎っ!!!」


タッ!!


白虎に駆け寄り、倒れそうになった体を抱き止めた。


血が剣に変わった?


まさか…、美猿王は血統術を使える?


「口の聞き方には気を付けろよ、白虎とやら。それと、小桃、お前もだ。」


シャキッ!!!


美猿王の血が剣から歪な刃に変わり、首元と体に突き刺さるぐらいの距離に配置した。


一歩でも動けば、当たる距離だ。


「お前が須菩提祖師から、経文を貰ったのは知っている。悟空の記憶を覗いたからなぁ?魔天経文(マテンキョウモン)、そうだろ?」


*魔天経文 「魔」や「陰」を司り「攻撃」に属する。単属での術「魔戒天浄」は魔を切り裂き天に浄化する力を持つ。*


「十四の頃に須菩提祖師と悟空に出会い、悟空が訪れたら渡すようにと言われたよなぁ?何百年も待ち、経文を守り続けたと。」


美猿王の言っている事は、当たっている。


須菩提祖師、お爺様に経文を渡され、悟空に渡すまで守り続けてくれと。


本当に悟空の記憶の中を覗いたようだ。


この人は悟空だけど、悟空じゃない。


小桃が好きになった悟空じゃない!!!


「ガオオオオオオオ!!!」


バチバチバチバチバチ!!!


白虎が大きな雄叫びを上げ、血の刃を弾き飛ばし

た。


「お前、コイツの血を飲んだのか。どうりで、傷が治っていなくても動けるのか。」


「お嬢、お下がり下さい。」


「白虎っ、その傷で…っ。」


美猿王から隠すように、白虎が前に出る。


白虎の体からは血がポタポタと垂れ落ち、傷も広がって来ている。


花の妖怪の血を飲めば、不老不死と同等になる。

そんな噂は嘘だ。


小さい時に転んだ小桃の膝の傷を舐め、白虎は普通の神獣じゃなくなった。


傷は治らないし、ただ動けるだけになる。


命は伸びても、体の傷や病は治せない。


生き地獄だ。


白虎にその道を歩ませてしまった事を、とても後悔している。


「一つだけ、教えてやる。お前の魔天経文を狙っているのは、俺だけじゃねーよ?身近にいる奴もな。」


「何を言って…。」


「今日は白虎に免じて、引いてやるよ。須菩提祖師の墓の場所も知れたしな。」


そう言って、美猿王は姿を消した。


お爺様の墓の中には、もう一つ隠している物がある。


美猿王は、その事も知っている?


思わず、その場にへたり込んでしまう。


「お嬢っ!?ゔっ。」


「白虎!!大丈夫!?ごめんっ、ごめんね…。」


「お嬢は、何も悪く有りません。これぐらいの傷は、大した事有りません。それよりも、奴の言っていた言葉が気になります。」


「それって、身近な奴って事…?」


カツカツカツ。


「小桃!!白虎!!!」


振り返ると、そこにいたのは百花ちゃんだった。


「百花ちゃ…ん?」


「中々、帰って来ないから来てみたら…。何があったの?」


「美猿王が…、来たの。」

「…。」

「百花ちゃん?」


百花ちゃんは何も言わずに、小桃を抱き締めた。


「小桃が無事で良かった。とにかく、白虎の傷の手当てをしないと。」


「う、うん。」


百花ちゃんから、違う煙草の匂いがした。



源蔵三蔵 二十歳


俺達は、用意された部屋で夜まで待った。

謎の二人組が現れる時間帯は、深夜を回った頃だそうだ。


深夜 二時


俺達と百花と小桃は、屋敷の前で待機していた。


小桃の側に居る筈の白虎の姿が見当たらなかった。


「あれ?白虎は?」


「ちょっとね。」


俺の問いに答えたのは、百花だった。


「それにしても、不気味なぐらい静かだなぁ。提灯の灯りが頼りだ、外が暗過ぎる。」



沙悟浄はそう言って、持っていた提灯を上げ、周囲を照らす。


だが、提灯の灯りを照らしても、暗闇が晴れる事がなかった。


ザァァァァア…。


生温く、大きな風が吹いた。


カチャッ。


俺達は同時にそれぞれの武器を構え、暗闇を睨み付ける。


風と共に感じたのは、嫌な妖気だった。


ガチャンッ、ガチャンッ、ガチャンッ。


武器同士がぶつかる音と、品性の無い会話が聞こえた。

「居たぞ、源蔵三蔵だ。」

暗闇から顔を出したのは、白い馬の姿のをした白沢(ハクタク)だった。


*白沢(ハクタク) “はくたく”と読む。中国の神話に登場する幻獣。「白澤」(読みは同じ)とも表記する。*


その後ろには数百人の妖達が現れた。


「お前を喰らえば、今よりも強い力が入ると聞いた。」


「はぁ?何言ってんの?」


白沢の言葉を聞いた猪八戒は、呆れたように息を吐く。


「俺達は牛鬼様の下に付いているもの。行くぞおおおお!!!」


「「「おおおおおおおおおおお!!!」」」


妖怪達が一斉に、俺達に向かって走り出した。


パンパンパンッ!!!


霊魂銃を構え、次々と妖を撃つ。


パラパラパラパラッ!!!


俺は札をばら撒き、指を鳴らしながら唱えた。


パチンッ。


「爆。」


そう言うと、札が光出し、激しい爆発音と煙が立ち込めた。


ドゴォォォーン!!!


「うがぁぁぁぁぁ!!」


「ギャァァァァァ!!」


ドゴ、ドゴ、ドゴォォォーン!!!


次々と札が爆発し、妖怪達の頭と体を吹き飛ばす。


ズシャッ、ズシャッ!!!


沙悟浄は煙に身を隠し、次々と妖怪達を斬り付ける。


シュルルルッ。


「なっ、なんだごぉっ。」


「ゴフッ!!」


百花の目の前に居た妖達の体には、青紫色のトリカブトが咲き乱れていた。


妖怪達の口から泡が噴き出され、その場に倒れた。


*トリカブト キンポウゲ科・トリカブト属に分類される多年草の総称で、日本三大有毒植物の1つです。古くからその毒性は知られ、毒矢に塗って使われた記録が古事記にも残っています。花はその毒性とは裏腹に美しく、はかなげな姿をしていますよ。

全草に含まれているのは、強い毒性のあるアコニチンやメサコニチンなどアルカロイド系の成分です。特に根の毒性が強く、致死量は0.2~1gとわずか。また、花粉にまで毒を含んでいることが特徴となっています。食べると、下痢や嘔吐、麻痺、呼吸困難などの症状が出て、重症の場合は、数秒で死に至る危険があります。*



「うげー、嫌な殺し方するなー。」


「お前も大概だがな、猪八戒。」


「嫌だなー。そんな事、言われた事もないけど。」


猪八戒はそう言って、妖怪の口の中に紫洸の銃口を

突き付け、引き金を引いた。


「うぐっ!?」


パァァアン!!


ドタドダドタドタ!!


「まずは、ピンク髪の女からだぁぁぁ!!!」


「小桃!!そっちにあやかー。」


俺は小桃に向かって来る妖の事を伝えようとしたが、一瞬にして、妖達は斬られていた。


ブシャッ、ブシャッ、ブシャッ!!!

  

「ギャァァァァァ!!」


「うるさいな。言われなくても、分かってるよ。」


小桃はキッと睨み付けた後、俺の背後にいた妖を切った。


ブシャッ!!


「何か、機嫌悪くねーか?」


「ちょっと、嫌な事があっただけ。ごめんなさい。」


「え?い、いや…。俺は気にして無いけど…。」


素直に謝られると、調子狂うな…。


「ウガァァアァアアア!!!」

 

「あははは、あははは、あははは!!!」


大きな血飛沫が飛んだ後、少年の笑い声がした。


俺達の前方に居た妖達が、どんどん殺されて行ってる。


「三蔵、下がれ。」


「沙悟浄、猪八戒!!」


俺の前に沙悟浄と猪八戒が立ち、小桃の前には百花が立った。


ビチャ、ビチャ、ビチャ。


大きな血溜まりを足で踏み、水遊びをしているように遊んでいた。


ビュンッ!!


見えていた黒い影が一瞬で無くなり、目の前に返り血を浴びた牛のお面をした男の子が現れた。


手には鉄又(カマナタ)柄握られていて、空中から振り翳して来た。


キィィィン!!!


少年の攻撃を受け止めたのは、沙悟浄だった。


「うっざー、何?お前、邪魔なんだけど。」


「おいおい、子供は寝る時間だぜ?」


ドスッ!!!


沙悟浄はそう言って、少年の腹に蹴りを入れた。


猪八戒も続けて少年に向かって、銃弾を放つ。


キンキンキンキン!!!


少年は空中でバランスを取り直し、放たれた銃弾を弾き飛ばす。


「へへっ、強いねおじさん達。」


「おい、あまり無理は…。」


少年の後ろから現れたのは、フードを深く被り黒いマスクをした男。


男の首元には犬用の首輪がされており、少年は首輪に付いていた鎖を引っ張った。


 

「あ?お前、誰に文句言ってるの。」


「ご、ごめん。」


「お前がぁ、弱いからぁ、僕が殺してやってるんだろぉ!?あぁ!?」


パシッ!!!


叫びながら少年は、男の頬を叩いた。


パサッ。


叩かれた衝撃で、男のフードが取れ顔が露わになった。


男の顔に見覚えがあった。


何故なら、波月洞に共に向かい、お師匠に依頼して

来た男だったならだ。


首元と顔や身体中に傷が出来ていて、痛々しかった。


「おいおい、マジかよ…。」


「鱗青(ネンシン)なのか!?」


俺と猪八戒は、現れた鱗青を見て驚いた。



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