西遊記龍華伝

西龍
百はな
百はな

探し人

公開日時: 2023年9月2日(土) 18:06
文字数:4,352

同時刻、美猿王達は花の都に到着していた。


朧車(オボログルマ)から降りた天(アマ)は、枯れ果てた土地を見つめた。


「ここが、花の都?何にも無いですけど。」


「天は本当に頭が悪いなぁ、結界が張られているじゃ無いか。」


「むっ、そんな言い方しなくても良いのに。」


「頭が悪いのが、天の可愛い所だよ。」


邪(ジャク)はそう言って、天の頭を撫でた。


「僕、可愛い?」


「あぁ、お前は可愛いよ。」


「えへへへっ。」


妖怪天邪鬼は、仲の良い兄妹である。


名前の通り、2人で1つの存在であり、お互いの命も共有している。


その為か、一般的な兄妹よりも仲が良いのである。


「美猿王、御手をどうぞ。」


「あぁ。」


丁は美猿王の手を取り、丁寧に朧車から降ろした。


「結界を壊しますか?」


「向こうから開けて来るだろ。アイツ等は、この結界を破壊されたら終わりだからな。」


李(リ)の問いに答えた美猿王は、手を大きく叩いた。


パァン!!


「見てないで、さっさと出て来い。」


美猿王がそう言うと、白髪混じりの髭の長い老人が現れた。


「も、申し訳ありません。美猿王様が、いらっしゃるとは…。お、思いもよらず。」


「久しぶりだな、爺さん。まだ、死んでなかったか。」


「意地悪を言わないで下さいよ…。」


「花妖怪は無駄に、長生きだからな。出迎えにしちゃあ、遅い方だよな?爺さん。」


美猿王の言葉を聞いた老人は、カタカタと震え始めた。


「このお爺さんと知り合いなの?王。」


天は美猿王の腕を掴み、問いを投げかける。


「あぁ、昔な。花の都を妖から守ってやった事がある。暫くは滞在していたが、花の妖怪達は律儀だからなぁ。俺とアイツの言う事には逆らえぬ。この爺さんは、花の都を作った人物だ。」


「へぇ、早く行きたい!!お腹空いたよ!!王っ!!」


「あ、こら!!美猿王に引っ付くな!!!」


李はそう言って、美猿王から天を引き剥がした。


「邪魔すんなよ、猿。殺すぞ。」


「あ!?」


「ケンカ、ダメ。」


今にも喧嘩になりそうだった天と李を、高(ガオ)が割って入った。


「あ!!このデカブツ!!邪魔!!」


「ダメ、天、落ち付いて。」


「邪。」


美猿王の言葉を聞いた邪は、天の耳元で何を囁いた。

 

天はスッと、高から離れた。


「あ、あれ?大人しくなった…?」


「李、あまり天を挑発するな。」

 

「胡(フー)!!だって、アイツがさぁ!!」


「はいはい。」


怒りが収まらない李を胡は宥めた。


「美猿王様、其方(ソチラ)の方々は…。」


「俺の連れだ、コイツ等の事も丁重に扱え。」


「分かりました。ご、ご案内します。」


老人は鍵を取り出しら捻る動作をした。


ガチャッ。


ドォォォンッ!!


施錠された音と同時に、大きな白色の鳥居が現れた。


「お前等、行くぞ。」


美猿王はそう言って歩き出すと、丁達は後を追うように鳥居を潜った。


鳥居を潜ると、荒れ果てた土地から一変し、華やかな町並みが姿を現した。


「スッゲェ!!!」


李は大きな声を出しながら、周囲を見渡した。


「お待ちしておりました、美猿王様。」


ザッ。


美猿王一行の前に、黒い鎧を着た兵士達が膝を付いた。


兵士達の後ろから、紫色の髪を綺麗に束ね、赤い口

紅をに塗った淑女が現れた。


ロングのチャイナドレスを引き摺り、手には黒い扇子を持っていた。


「美猿王じゃないか、久しぶりだね。」


「椿(ツバキ)か、お前が出迎えて来るとはな。この兵士も、お前の部隊盧連中か。」


椿と呼ばれたこの熟女は、椿の花の妖怪であり、また毒を扱う妖怪である。


「また、良い男になったんじゃないかい?」


「アンタも変わらず、綺麗だよ。」


「おやおや、口も達者になったもんね。アンタ等、服がボロボロじゃないか。服屋に案内してやりな、アンタ等。」


椿はそう言って、兵士達に言葉を掛けた。


「椿。」


「分かってるさ。アンタは私に話があるんだろ?私の屋敷に来ると良い。」


「あぁ、お前等は服でも買って来い。」


美猿王は、袋に入った金貨を丁に渡した。


中身を覗いた丁は、金貨の枚数を見て驚いた。


「び、美猿王!?こ、この金貨は…っ?」


「あ?俺の持ち金だ。」

 

「そ、そうですか。」


「良い服を買って来い、俺の側に居るんだろ?見窄

らしい格好はすんな。俺のも適当に買って来い。天も邪も好きなのを買って来な。」


丁達は自分達を気に掛ける言葉を言われた事に、嬉しい様子を見せた。


「王は一緒じゃないの?」


「あぁ、邪と仲良くしてろ。」


天の頭をポンポンっと叩き、椿と共に丁達と別れた。


「王がいないのつまんないなぁ。ね、兄者。」


「そうだね、王には王の目的があるからね?」


「どうして、美猿王に忠誠を誓うんだ?アンタ等は。僕達とは、違う出会い方をしただろ?」


丁はそう言って、天と邪に尋ねた。


「何でって、僕達は美猿王に殺されて、生かされたからね。」


邪の言葉を聞いた丁は、唖然とした。


「こ、殺されて、生かされた?」


「僕達ね、美猿王に喧嘩を売って殺されたんだけど。ほら、僕の目と天の目は、その時に潰されたんだよねぇ。」


「そんな軽々と…、言う事かよ。それ?」


李の反応を見た天は、小馬鹿にしたように笑う。


「強い奴の下に付くのは、当然だろ?王は血を飲ませて、僕達を生き返らせた。あの時の王はカッコ良

かったなぁ。それに、僕達を側に置いてくれた。」


「君達とは違うだろうけど、役に立つのは僕達だ。」


丁達と天達の間に不穏な空気が流れた。


そんな中、屋敷に到着し美猿王と椿は酒を酌み交わした。


「桜の精は何処に居る。」


「さぁね、ここ最近は見ていないね。」


「ほう、都を空けているのか。」


「まぁ、宝象国にも行き来しているし。百花仙子と一緒に事務所を開いたしね。仕事にでも行っているんだろ。」


スッ。


椿の首元、体の周りに血統術で作り出したやり刃を張り巡らせた。


「もう一度、聞く。桜の精は何処だ?」


「何を言って…っ。」

 

「俺に嘘を付いたろ、椿。少し来なかったうちに、偉くなったなぁ?死に損ないの女だった癖にな。」


そう言って、椿を睨み付ける。


椿の額には冷たい汗が流れ、言葉を選ぶ様な仕草を美猿王は見逃さなかった。


「び、美猿王には感謝している。それは、本当よ。」

 

「話を逸らすなよ?椿。お前はただ、桜の精の居場所を吐けば良い。死にたいなら、直ぐに殺してやる。どっちか選べ。」


「っ…。や、山の丘に居ると思う。」


「丘?何で、そんな所に居る。」


「お墓参りに行ってるのよ。」


「成る程、そうか。」


美猿王が手を下ろすと、血統術は消え、椿は安堵した。


「百花はまだ、生きてんのか?」


「あ、あぁ。何度か死んでは、生まれ変わってるさ。」


「そうか、後ろに持ってる短剣は何だ?お前は俺を殺すに値せん。」


「っ!?」


美猿王はジッと椿を見つめ、椿の腰に触れた。

牛鬼に寝返ったな、お前。」


「な、何を…、根拠にっ!?」


「臭えんだよ。牛鬼と取り引きして、百花の居場所を教え、俺の足止めをしろって所か。」


「ゔっ!?」


椿の胸を血統術の刃が貫いた。


「あの爺さんもそうだろ?おい、黙ってないで喋れ。」


「ぐっ、ほ、殆どの花妖怪が、牛鬼側に付いたっ。そ、それも私達がへ、平和に暮らせるようにっ。」


「あははは!!!」


美猿王は言葉を聞き、思わず大声で笑った。


「何がっ、おかしい。」


「お前の頭はお花畑か?牛鬼は、お前等の血肉が欲しいだけだ。それと、桜の精の持っている刀か。花

妖怪達は、阿保(アホ)ばかりだな。」


グサッ!!!


「ぐぁぁぁぁ!!」


血統術の刃は容赦なく、椿の体を突き刺さす。


「俺の事を舐め腐ってんなぁ、椿。恩を仇で返すってのは、この事だな。」


「お、まえの仲間も今頃はっ…。」


「王ー!!迎えに来たよんっ。」


「は、はっ?」


美猿王と椿の前に現れたのは、黒い鎧を被った頭を持った天だった。


ボロボロの服から、胸と脇腹が見えるタイトのグレーのフリルの付いたチャイナドレスを着ていた。


「美猿王!!ご無事ですか!?」


丁は荷物を持ったまま、美猿王に駆け寄る。


「ど、どうしてっ?あ、あの数を倒したのか!?」


「雑魚ばかりで、つまらなかったですよ?ご婦人。」


両手を真っ赤に染めた邪は、椿に言葉を投げ掛けた。


邪もまた、ボロボロの服から青いチャイナシャツを着て、細身の黒いズボンを着用していた。


「俺を誘ったのは、コイツ等を先に殺し、後で俺を殺すつもりだったんだろ。お前の部隊より、俺の部隊の方が上だったなぁ?」


「くっ、くそ…が。」


「天、邪。コイツ、喰って良いぞ。」


美猿王の言葉を聞いた天と邪は、ニヤリと笑う。


「い、いやっ。く、来るなっ!!」


「あはははっ、兄者ー。コイツ、遊んでから喰べよ。」


「天の好きな様にしな?」


「やった!!」


椿を乱暴に天達に渡し、丁の元に向かった美猿王は荷物の中身を見た。


「服は買って来たか。」


「はい!!これ、俺が選びました!!」


「李が選んだのか、中々良いんじゃねーか?」


「ありがとうございます!!」


美猿王は荷物の中から服を取り出し、その場で素早く着替えた。


黒のチャイナシャツには、黒の花が刺繍されていて、黒の細身のズボンを合わせ、黒のブーツを着用した。


「出掛ける。」


「どちらに行かれるのですか?」


「俺の女に会いに行って来る。」


「「「えっ!?」」」


驚く丁達を無視し、美猿王は椿の屋敷を後にした。


「あ、丁達。手伝って欲しい事があるんだけど、良いかな?」


「何だよ。」


李は太々しく、邪の言葉に反応した。


「そろそろ、妖達が到着するんだよね。結界に穴を開けに行かないと、ここには入れないだろ?」


「結界を破壊しに行くのか。」


丁はそう言って、邪に尋ねた。


「正解。あのお爺さんが、結界を作ってるんだと思うんだ。丁、一緒に来てくれない?」


「頭、どうしますか?」


胡は、丁の耳元で囁く。


「分かった、同行する。胡、李達の事を頼む。」


「分かりました。気を付けて下さい。」


「あぁ。」


「じゃあ、行こうか。天ー、大人しくここに居るんだよ。」


「分かった!!」


天は素直に返事をし、椿の髪を引き摺り屋敷の中に入った。


丁と邪は、村の主である爺さんの元に向かった。




桜山の丘ー


大きな桜の木々が一斉に咲き乱れる中に、一つの墓があった。


その前には、花を持った小桃と白虎の姿があった。


「お久しぶりです、少し遅くなりました。」


カサッ。


お墓の前に持って来た花を置き、腰を屈める。


「今日、悟空の仲間に会いました。本当に、生きていたんですね。小桃、早く会いたいです。」


「お嬢、きっと会えますよ。」


「ありがとう、白虎。」


小桃はそう言って、白虎の頭を優しく撫でる。


「そうだよね、会えないって決まった訳じゃないよね!!新しい仕事も始まるし、色々とやる事が…。」


ブワッ!!


大きな風と共に、桜の花びらが舞い散る。


桜の花の匂いとは別に、桃の甘い匂いが漂った。


「甘い…、匂い?」


小桃が呟いた瞬間、腰を掴まれ、引き寄せられる感触がした。


「よぉ、お前が桜の精か。」


美猿王は小桃を見下ろし、フッと口元を緩めた。

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