暗闇の中に赤い小さな魂が蠢く。
大きく光を放つ赤い魂が、美猿王の指に止まる。
「ここにいたのか、我が眷族よ。」
光は強くなり美猿王の指に絡まるように回る。
「封印されたのか。なら、解いてやろう。まずは、体を取り戻さなくてはな。」
美猿王は暗闇の中から手を伸ばし、グッと手を握る。
パリパリパリーッ!!!
見えなかった暗闇に亀裂が入り、光が差し込み始めた。
「お前は眠ってろ、悟空。」
美猿王は静かに言葉を放ち、ニヤリと笑った。
「俺は俺の目的を果たす。」
孫悟空ー
ズキンッ!!
「ヴッ!!」
頭が割れるくらい痛い。
尋常じゃない痛みで、吐きそうになる。
「丁達を戻したんなら、お前は寝てろ。」
美猿王の言葉が頭に響く。
「お前は出てくんなっ!!」
「ハッ、笑わせるな。」
視界がボヤける。
「お前、俺と同じ捕食者なのか?」
牛魔王は俺を見て言葉を放つ。
口調がコロコロ変わるのに違和感を感じる。
コイツ、前からこんな奴だったか?
俺の知ってる牛魔王はもっと、ガキみたいな奴だったような。
あの時、爺さんを殺した牛魔王は…。
誰だったんだ。
「お前には"アイツ"は殺せねぇ。俺にしかな。」
美猿王の手が後ろから伸びて、後ろに思いっきり引
っ張られた。
「どう言う意味だ、美猿王!!答えろ!!」
「お前は暫く出てくるな。」
その言葉が最後の記憶だった。
意識が途切れ行く中で、1人の男の子が泣いている映像が頭の中に流れた。
誰だ…?
「行かないで、行かないでよ…。父さん。」
男の子は泣きながらそう呟いた。
赤茶色の髪が真っ赤に染まり、悟空の体から黒いモヤが現れた。
「今度は美猿王か、俺の目を抉り出しやがって。」
「男前にしてやったんだから、感謝して欲しいくらいだ。牛魔王…いや、牛鬼(ギュウキ)。」
*牛鬼 各地で伝承があり、その大半は非常に残忍・獰猛な性格で、毒を吐き、人を食い殺すことを好むと伝えられている。 ただし、その中の一部には悪霊を祓う神の化身としての存在もいる。 伝承では、頭が牛で首から下は鬼の胴体を持つ。 または、その逆に頭が鬼で、胴体は牛の場合もある。*
牛魔王の緑色だった髪は暗黒色に染まり、瞳の色も黒くなって行った。
悟空と戦っていた牛魔王の姿ではなくなった。
「アハハハ!!その名で呼ばれたのは、何百年ぶりか。美猿王、久しいなぁ。」
キィィィンッ!!
美猿王は近くに落ちていた剣を手に取り、牛鬼に斬り掛かった。
だが、牛魔王も影を操り美猿王と同様に剣を取り攻撃を受け止めていた。
ビュン!!
「ガハッ!!」
ドゴォォーンッ!!
地面に手を付き、グルンッと体を回転させ牛鬼に回し蹴りを喰らわせた。
ビュン!!
シュシュシュシュッ!!
無数の影が刺々しく伸び、美猿王の元に降り注ぐ。
「お互い、他人の体の中にいるのは不思議なものだ。そうだと思わないか、美猿王。」
「体の中?ハッ、笑わせるな。俺は俺だ。お前は違うだろ牛鬼。ガキを喰ったんだろ。」
影を避けながら美猿王は言葉を放つ。
「喰ったんじゃねーよ、体の中に憑依したんだ。あのガキは俺と似ていたからなぁ。美猿王、お前は何だ?何故、悟空と美猿王は共存する。」
牛鬼は美猿王に尋ねる。
「美猿王は俺だ。須菩提祖師の野郎が悟空を作り出したんだろ。」
グシャ!!
美猿王はいつの間にか牛鬼の頭上に飛んでいた。
そして、長い爪で牛鬼の頬を掻き切った。
ビュンッ!!
ブシャッ!!
牛鬼の伸びた影が美猿王の頬に掠る。
飛び散る血だけが、法明和尚の目に映った。
「美猿王だと!?」
法明和尚は驚きながら美猿王を見つめる。
「あの赤い髪に、赤い瞳…。伝承のままの容姿だ。
悟空と美猿王は全く違う存在なのか?」
ジッと美猿王を見つめながら、法明和尚は1つだけ思った事がある。
「あれは、異質な存在だ。」
そもそも、美猿王は妖怪なのか。
それとも、人間なのか。
分からない存在が目の前にいる事に、法明和尚は内心困惑していた。
「牛鬼と美猿王は同じ妖怪だろ。さっきから、凄い妖気が放たれてんだろ。それが証拠だろ。」
法明和尚の隣に戻り、血を拭いながら羅刹天は答えた。
「犬神を見てみろよ、美猿王にビビって動けてないだろ。」
「え?」
羅刹天に言われた通りに法明和尚は犬神に視線を向けた。
さっきまで威勢が良かった犬神は、尻尾を丸め蹲っていた。
美猿王から放たれている圧倒的な妖気に怯えている。
「妖怪の格差が現れてる。俺達は如来の方に行った方が良さそうだな。」
「犬神は良いのか?」
「ビビって動けないなら問題ねーだろ。それと、俺の嫌いな奴の気配が近付いて来てる。」
「嫌いな奴?」
ドゴォォーンッ!!!
目の前で大きな衝撃音と煙が立ち込めた。
同時刻 天界
妖怪専用牢獄。
名前の通り、悪さをした妖怪達が封印されている牢獄である。
中でも最悪な妖が封じられていた。
「封印されてから、大人しくなったよなぁ…。」
「あぁ、このまま封印されといてくれると助かるんだがな。」
憲兵達はある妖怪を見ながら会話をしていた。
大きな牢屋の中には2人の兄妹の妖が封印されており、2人の手足には頑丈な手錠がされていた。
それと体にはお札を沢山貼られ、静かに眠っていた。
カランッ。
女の方の手錠が動いた。
「呼んでる。ねぇ、あの人が僕達を呼んでるよ兄者。」
「そろそろ出るか。ここにも飽きたしな、あの人が
俺達を呼ぶのは何百年ぶりだろうか。」
男はそう言って立ち上がり、首を鳴らした。
「お、お前!!何で立ち上がったんだ?!」
憲兵の1人が男を見て驚きを隠せずに大きな声を出した。
「何でって、ここを出るからですよ。」
「は、はぁ!?出るって、ここをか!?出れる訳がないだろ!!」
「兄者ー、お腹すいたよ僕。」
「ご飯を食べてから行こうか。」
「うん。アイツ等、食べて良いよね。」
バキッ!!
男は手首に装着された手錠を壊し、ゆっくりと憲兵に近付く。
「来るな!!」
ブシャッ!!
ボトッ。
憲兵が剣を抜き、男の首を斬り落とした。
ゴロゴロ…。
「兄者ー、何してんの。」
「あはは、久々に動くから調子を戻そうと思って
ね。」
シュルルルッ…。
赤い血と共に男の首が浮き上がり、元通りの姿に戻った。
「う、嘘だろ!?首を斬り落としたのに生きてるだと!?」
「そ、それに傷が再生したのか?!お、おかしいだろ!!?ガハッ!?」
男は憲兵の1人の顔を掴み、ググググッと力を入れた。
「や、や、やめぐっ!!」
「お前に出来る事はただ一つ、死ぬだけだ。」
グシャ!!
ブジャァァァァ!!
握り潰された衝撃で男の顔に返り血がどっぷりと付着した。
「ひ、ひぃぁぁぁぁ!!」
バタッ!!
カランッ。
手に持っていた剣を落とした憲兵は腰を抜かし、地
面に座り込んだ。
バキッ。
女も手錠を壊し落ちた剣を拾い、憲兵の足に突き刺した。
グシャ!!
「うがぁぁあぁぁぁぁ!!」
「まずは、左足。」
ズシャッ!!
女はそう言って、突き刺さした剣を動かし左足を切断した。
「あ、ああ、あ、あ、あ、あ、あ!!」
「いただきまぁす。」
ガブッ。
クチャクチャクチャッ…。
女の咀嚼音が静かな牢獄に響き渡る。
バタバタバタバタバタバタ!!
「そろそろ行かないと、足は持って行って良いから行くよ。」
「ふぁい。」
男と女は一瞬にして姿を消した。
バタバタバタバタ!!
「ひっ!?こ、殺されてる!?」
「天部様!!こちらです!!」
憲兵と共に現れたのは天部だった。
天部は目の前に広がった光景を見て、驚きを隠せなかった。
「何だ…、これは?」
食い散らされた憲兵の死体に、顔を潰された憲兵の死体が転がっていた。
「天部様!!天邪鬼(アマノシャク)の姿がありません!!」
「何だと!?」
天部はそう言って、牢屋の中に入り周りを見渡した。
「まさか、封印を解いて出て行ったのか!?探せ!!近くにいる筈だ!!」
「「「了解しました!!!」」」
憲兵達は急ぎ足で牢屋を後にした。
「誰かが封印を解くのを手伝ったのか?だとしたら、誰が?何の為に…。」
天部が暫く考えた後に、ハッとした表情を見せた。
「まさか、美猿王が目覚めたのか?」
下界 波月洞ー
砂埃の中から現れたのは、血塗れの男女だった。
女の容姿は左目には眼帯が巻かれ、毛先はぱつんと
切られ茶髪の赤のメッシュが入った長い髪を、ツインテールにされていた。
男の方は目に黒い巻物が巻かれていて、少し長めの黒髪を靡かせていた。
「久しいな、天邪鬼。」
*天邪鬼 昔話や伝説に登場してくる想像上の悪者。 妖怪とも精霊とも決めがたい。 他人の心中を察することが巧みで、口まね、物まねなどして、人の意図に逆らったり、すなおでないのだが、屈服されたりもする。*
「天(アマ)、邪(ジャク)。」
美猿王がそう言うと、天と邪は美猿王の前で膝付いた。
「お久しぶりです、王。」
「あぁ、お前等ずっと俺の事を探していただろ。お陰ですぐに見つけられた。」
「王は僕達を見つけてくれると思ってたよ。」
「まぁ、慌てるな天。お前の舞台は作ってやるさ。」
美猿王はクルッと牛鬼の方を向いた。
「やはり、天邪鬼を飼い慣らしておったか。それに、血を飲ませたな。」
「お前も同じ事をしてるだろ。俺は使える物は何でも使う主義でね。牛鬼、何百年前に言っていた事をしようか。」
美猿王の言葉を聞いた牛鬼の眉がピクッと動いた。
「どちらが王なのか決めようじゃないか。王は1人で充分だ。そうだろ?牛鬼よ。」
「アハハハ!!愉快な男だなぁ、美猿王は。経文を手に入れれば俺やお前の理想郷が出来る。俺はお前を殺し経文を手に入れる。」
その言葉を聞いた美猿王は、フッと笑う。
「お前、落ちたものだな。」
「あ?」
美猿王の言葉を聞いた牛鬼は影を伸ばした。
キィィィン!!
天が剣を影に突き刺さし、牛鬼に向かって飛び出しだ。
「コイツ殺して食べたい、お腹すいた。」
「天、勝手な行動するな。殺すぞ。」
美猿王はそう言って、天の睨み付ける。
ビクッと体が反応した天は渋々、牛鬼から離れた。
「俺の命令を聞かないなら殺す。」
美猿王は視線だけで、天を黙らす。
「冗談ですよ、王ー。ごめんなさぁい…。」
「邪、天を見とけ。」
「分かりました、王よ。」
法明和尚はその場に立っているだけで精一杯だった。
恐ろしい妖気を放つ妖達がこの場に集ったからだ。
「天邪鬼の奴等、封印されてた筈なのに出て来たのか。概ね、美猿王が解いたのか。」
「妖が神が施した封印を解ける訳がない。何なんだ、美猿王は…?」
「行くぞ、和尚。お前、妖気に飲まれんぞ。」
羅刹天は乱暴に法明和尚の手を引き、穴から下に降りた。
「ま、待ってくれ羅刹天!!」
「お前さ気付いてねぇの?アイツ等の周りにいた妖達、2人の妖気にやられて死んでたろ。」
「なっ!?妖気だけで!?」
「アレは和尚は相手に出来ねぇよ。ましてや、神ですらあの2人を止めらんねーだろうな。」
羅刹天の言葉を聞いた法明和尚は唖然とした。
落下しながら羅刹天は言葉を続ける。
「あの2人が本気でやり合ったら、世界が壊れるかもな。」
「は、はぁ!?世界が壊れるだと!?そんな事があり得るのか?」
「あり得るから、美猿王が存在してんだろ。美猿王は、王だよ。」
法明和尚は羅刹天の言った言葉が理解出来なかった。
羅刹天は美猿王を見て肌身に感じていた。
そして、本能で美猿王は危険な人物だと察知した。
美猿王は、絶望を招く王だと。
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