西遊記龍華伝

西龍
百はな
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第陸章 花は咲いては枯れ、貴方を

悪妖退治事務所

公開日時: 2023年7月23日(日) 19:03
文字数:3,724

悪妖退治事務所


花の都(ハナノミヤコ)には、とある悪妖退治専用の事務所があった。


現代の中華街のような街並みは、今の時代の中国には有り得ない街並みの花の都。


チリリリンッ、チリリリンッ。


小さな事務所内に黒電話がベルを鳴らし、机の上を揺らした。


太陽の光に照らされたアッシュカラーの髪は、ロングスタイルがウルフカットにされていて、色白の肌に紫色の瞳が良く映えた。


タイトのパンツスタイルの黒のチャイナ服を着こなしていた。


「小桃(コモモ)ー、小桃。電話、鳴ってる。」


大きな新聞紙を机の上に足を乗せ、煙管を咥え、小桃と言う女を呼んだ。


ガチャッ!!


事務所の扉が開き、1人の女が入り、ヒールを鳴らしながら歩いて来た。


桃色のふわふわした髪に、レインボーのメッシュが細く入っていて、左右に小さめのお団子を作りハーフツインテールされ、色白の肌にビビットピンクの瞳。


白と黒のレースがあしらわれた短めのチャイナドレス、腰から下げられている2本の刀。


カツカツカツ。


「もー、百花(ヒャッカ)ちゃんが出てくれたら良いじゃん。」


「電話は小桃が出た方が、仕事になるじゃん。頼むよ、小桃。」


「うっ、仕方ないなぁ…。はい、お電話ありがとうございます、悪妖退治事務所です。」


ガサッ!!


「うわっ、新聞が…。」


「お嬢に雑用をさせるな、百花よ。」


百花の手から新聞紙を取り上げたのは、白虎だった。


白虎と言うのは、小桃に従っている神獣(シンジュウ)の白虎である。


顔の左側に大きな切り傷がある。


「白虎、私には相変わらずの態度だな。また、小桃に引っ付いて仕事してたんだろ。」


「貴様に何と言われても、我はお嬢の側にいる。」

「まぁ、白虎がいるなら安心ね。これからも、小桃の事をしっかり守りなさい。」


「む、お前にしては珍しい事を言うな。」


百花の言葉を聞いて、不思議そうにしている白虎の頭を小桃は優しく撫でた。


白虎は気持ち良さそうに、ゴロゴロと喉を鳴らした。


「仕事の電話?」


「うん、宝像国周辺に悪妖が出たから退治してくれって。」


「最近、その手の話が増えたな。報酬は?いつも通り?」


「いつもの5倍だよ。」


小桃の言葉を聞いた百花はフッと笑い、椅子から腰を上げた。


「へぇ、報酬が弾んだな。行くか、仕事しに。」


「百花ちゃんは、いつも楽しそうに仕事するね。」


「そりゃあ、金が入れば遊べるしご飯も食べれる。1番の理由は、小桃の名前を売れる事だ。」


ワシャワシャワシャ!!


「わっ、わ!?ちょっと、百花ちゃん!!」


「おい、百花!!お嬢の頭を大切に扱えと、何度も言っているだろう!!」


「おっと、白虎が怒る前に事務所を出るか。」


そう言って、百花はそそくさに事務所を出て行った。


「百花ちゃん、何かあったのかな。」


「お嬢、百花がどうかしましたか?」


「う、ううん、何でもない!!小桃達も行こう。」


小桃は白虎と共に、事務所を後にした。


のちに小桃の不安は的中してしまう事を、まだ知らないのである。



小桃(桜の精)ー


*桜の精 安曇野の林に猟に入った久兵衛は、美しい山桜の林に迷い込んだ。若く美しい女と出会い幸福の時間を過ごし、再会の約束後女の姿は消え桜も散った。里に戻って再び山へ出向いた久兵衛だが、山桜の花びらに埋もれて死体で発見され、女は桜の精と噂された。 *


桜の精である小桃は、この花の都の姫だった。


花妖怪達は力が弱い為に狙われてしまう。


それはこんな伝説が外に流れてしまった事が原因。


花妖怪の血肉を食べれば長命を得られ、どんな病や傷も治すと言われている。


ただ、それを信じた妖達が花妖怪達を襲い始めてしまった。


桜の精であった小桃と百花仙子(センシ)の百花ちゃんは、強さを求められた。


百花ちゃんの場合は、六代目百花仙子だからだ。


*百花仙子 百花仙子(ひゃっかせんし)は、中国神話に登場する蓬莱山に住む仙女。李汝珍による伝奇小説『鏡花縁』でも登場する。*


花妖怪を生み出した百花ちゃんは、妖に狙われやすかった。


だから、小桃と百花ちゃんは幼い頃から、武術を叩き込まれた。


自分の身は自分で守る為に、小桃達は常に死と隣合わせだった。


この花の都を作り出したのは、小桃のお父さんとお母さん、そして花妖怪達だ。


妖達に見つからないように、陰陽師の力を借り、

花の都を作り出した。


人と妖怪が初めて、手を取り作り出した物。


百花ちゃんと共に花の都を守り続けて、何百年も経った。


小桃は、須菩提祖師(スボダイソシ)のお爺ちゃんと、約束をしたから…。


あの人にこの、刀を渡す為に。


ふと、灰色の布に梵字が描かれ、巻かれた刀に視線を向けた。


グシャ!!


「グッァァァァァァァァ!!」


紫色の血飛沫が目の前で吹き荒らした。


「く、来るなっ!!アガァァァァ!!!」


妖怪達の隙を付き、素早く刀を振るう。


グシャ、グシャ、グシャ!!


ブシャアアアア!!!


「くっ、くそ…。」


バタッ。


妖怪達の血が地面に血溜まりを作り、死骸が転がっといた。


呼吸を整え、刀に付いた血を払い落とす。


「小桃ー、そっちは片付いた?」


「あ、百花ちゃん。」


「どうしたの?ボーッとして。」


「何でもないよ!!こっちは終わったよ。」


「なら、良いけど。ほら、頬に返り血が付いてる。」


そう言って、百花ちゃんは頬に付いた血を拭いてくれた。


「あ、ありがとう。」


「先に事務所に戻ってて、仕事の報告してくるから。」


「分かった。」


「白虎、小桃と一緒に帰ってな。」


「む、言われなくても帰る。」


「はいはい、じゃあ。」


百花ちゃんは小桃達に背を向け、宝像国に向かって行った。


主に、小桃達に仕事を依頼してくるのは宝像国の国王だ。


花の都の前にある宝像国は、花妖怪が食料や衣服を調達しに出入りしている。


国王は花妖怪の出入りを許可する代わりに、小桃達に悪妖を退治させる契約になっている。


小桃のお家は花の都の中でも、大きなお城だった。


お母さんとお父さんは、百花ちゃんと白虎と一緒にいる事に反対していた。


悪妖達に狙われる百花ちゃん、天から落とされた白虎はお母さんとお父さんの悩みの種だった。


2人に心配されないように、悪妖を退治しているのもある。


だから、小桃は強くならないといけない。


この刀をあの人に渡すまで…。


事務所に戻った小桃達は、百花ちゃんの帰りを待っていた。


刀の手入れをしていると、白虎に声を掛けられた。


「お嬢。そろそろ、墓参りに行かないといけませんね。」


「そうだね、もう三月になるね。白虎は、記憶力が良いねー、おいで。」


小桃がそう言うと、白虎は近付いて来て、太ももに顎を乗せた。


「よしよし、白虎は賢いねー。」


「お、お嬢…。や、やめて下さいよ、そう言うの…。」


「嫌いじゃない癖に。」


「うっ…。」


「ふふ、白虎は小桃に弱いねー。」


白虎を撫でてる時が一番、落ち着くなぁ…。


「百花ちゃん、遅いなぁ…。」


「また、国王と飲み比べをしてるんでしょう。」


「確かに、あり得る。じゃあ、ワカメスープでも作ろうかなぁ。」


「お嬢、手伝いますよ。」


「ありがとう、白虎。」


ソファーから立ち上がり、白虎と共に台所に向かった。


宝像国ー


国王の報告を終えていた百花は、小桃のお土産を選んでいた。


「あ、小桃の好きな干し杏がある。今日、元気なかったし、買ってこ。」


百花は干し杏を買いに、甘露屋に訪れた。


*甘露屋 新鮮な果実や、干し果実、菓子などが売られているお店の事。(オリジナル設定)*


宝像国には他の地域よりも発達しており、街並みや建物、売っている物までが高価である。


他国から仕入れた物もお店に売られている。


「はいよー。干し杏、お待ちどうさん。」


「ありがとう。」


「お姉さん、花見の季節にお酒もいかが?」


店主はそう言って、桃の絵柄が描かれた冷酒を見せて来た。


「これは、桃の冷酒だよ!!滅多に飲めない、貴重な物さ!!」


「へぇ…、桃の絵のお酒か…。小桃が好きそうだな、それも頂戴。」


「ありがとう!!これは、おまけだ。」


冷酒の入れた紙袋の中に、新鮮なフルーツを幾つか入れた。


「ありがとう、また来るよ。」


「はいよー!!また来てねー!!」


甘露屋を出た百花は、頬が緩んだ。


「小桃、喜ぶかな。早く事務所に戻ろ。」


百花は宝像国の街並みを歩きながら、ふと考え事をしていた。


「いつになったら、迎え来てくれるのかな。」


百花には何百年も前から恋人がいた。


百花仙子六代目として、この世に生を受け、ある男と出会った。


そして、その男は百花の前から姿を消した。


酷く落ち込んだ百花と出会ったのは、小桃と白虎であった。


百花は男の残した言葉を信じて、何百年のも時を経ている。


ザワザワザワ…。


「ん?急にどうしたんだろ?女の人達が騒いでる。」


「あの殿方、素敵ねぇ。」


「えぇ、どこか怪しげな雰囲気がまた…。」


とある男を見ながら、街の女達は頬を赤らめた。


黒い髪を靡かせ、左目には眼帯を巻いた男に百花は目を奪われた。


百花は、持っていた荷物を落としてしまったが、男が素早く手でキャッチした。


「久しぶりだね、百花。良い女になったな。」


男はそう言って、百花の頬を指で撫でた。


「本物…なの?本当に…っ。」


百花は目に涙を溜め、ゆっくりと口を開き、男の名前を呼んだ。


「牛鬼(ギュウキ)様…なの?」


「あぁ、待たせたな…、百花。」


「牛鬼様っ!!」


百花は名前を呼びながら、牛鬼に抱き付いた。


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