西遊記龍華伝

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百はな
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妖からの依頼

公開日時: 2023年3月4日(土) 11:10
文字数:4,675

源蔵三蔵 二十歳


「お、お師匠!?何でこんな所にいるんだよ!?」


俺がお師匠に尋ねていると、後ろから水元が現れた。


「法明和尚お師匠!!ど、どこに…って、江流!?」


「水元!?お前こそ、何でいるの!?」


こんな所に何で、お師匠達がいるの!?


「江流?」


猪八戒が疑問そうな顔をして俺の本名を口にしていた。


沙悟浄も状況が理解出来ていなかった。


「あ、江流って言うのは俺の本名なの。」


「そうなのか。じゃあ、この人等は三蔵の知り合いなのか?」


「うん、俺のお師匠の法明和尚で隣にいるのは水元。」


沙悟浄の問いに応えるように俺はお師匠と水元の事を沙悟浄達に紹介した。


「私達は依頼されてこの地に来たんですよ。それにしても大きくなって…!」


水元はうるうるした目で俺を見ていた。


お師匠はゆっくりと悟空に近寄り、悟空に話し掛けた。


「君が美猿王かな?」


「そうだけど、何?」


「そうか、君が江流の会いたがっていた美猿王か。

江流は良くやってるか?」


「あ?まだまだだな。」


「ハハハハ!!そうか、まだまだか!!」


お師匠は楽しそうに大きな声で笑った。


「ちょ、悟空!!まだまだって何だよ?!」


「事実なんだからしょうがない。」


「何だと!?俺はまだまだ強くなるんです!!悟空の事を守れるくらい強くなるんですー!!」


「あー、はいはい。五月蝿い、五月蝿い。」


悟空はそう言って、適当にあしらって来た。


俺の事、ガキ扱いしやがってー!!!


「お前等も妖なんだな?江流が世話になってるな。」


「色々世話してます。」


「おい!!沙悟浄まで何だよ!!」


沙悟浄まで俺の事を馬鹿に!?


「冗談だよ、冗談。それよりも法明和尚さんも流行り病の事を聞いてここに?」


沙悟浄はそう言って、お師匠に尋ねた。


「それもあるが、依頼主に頼まれてな。呪いが掛かった奴の呪いを解いてほしいと言う依頼を受けてここに来た。お前達は?どうしてこんな所に?」


俺はここに来た理由をお師匠に話した。


「成る程、鎮元仙人が…、そっちにまで呪いが広まってんのか。」


「この町の人達は殆ど呪いで死んでしまってるんです。さっき、江流達を襲って来たのも呪いで死んだ者達の死骸です。」


水元の言葉を聞いた後、猪八戒が言葉を放った。


「殆どって…、町を見たらその説明はつくけど…。そんな強力な呪いなのか?」


「はい。呪いに掛かった者は大体ですが1週間足らずで死に至るそうです。」


「「1週間!?」」


俺と猪八戒は声が合わさってしまった。


1週間で、こんだけの被害が町に出てるのか?!


「がしゃどくろの呪いはそんなに強力なのか?悟空。」


沙悟浄はそう言って、悟空に尋ねた。


「いや、そんな強力なモノじゃなかったはずだ。もしかしたら…、牛魔王と繋がってんのかも。」


その言葉を聞いて俺はハッとした。


今までの戦いをふと、振り返ってみた。


確かに牛魔王の血を飲んだ黄風(コウフウ)と鯰震(ネンシン)の力も強くなっていたし、がしゃどくろも飲んだ可能性は高い。


「牛魔王の血を飲んでたら、呪いが強力なモノになってもおかしくはねー。牛魔王は利用出来そうな奴には血を与えていた。経文がここにあるんなら牛魔王が、がしゃどくろを自分の枠に入れてる筈だ。」


「悟空が言うなら間違いはないだろうな。牛魔王の血を飲んだ奴を相手にすんのは中々堪えるからな…。」


沙悟浄はそう言って、苦笑した。


「お前等も来るか?依頼主が待ってる家に。」


「え?俺達も?」


「もしかしたら、がしゃどくろについて何か分かるかもしれないだろ?」


確かに…、お師匠の言う通りかもしれないな…。


そう考えていると、悟空が言葉を放った。


「俺は別行動するわ。」


「え?!」


「どこか行きたい所でもあるの?」


俺と猪八戒はそう言って、悟空に尋ねた。


「あぁ、ちょっとな。あそこにある闘技場が気になる。」


「じゃあ、俺も悟空に付いて行くわ。」


そう言ったのは、沙悟浄だった。


「何で、お前が付いて来るんだよ。」


「悟空1人じゃ、心配だからな。猪八戒、お前は三蔵の事を頼むぞ。」


「分かったよ。何かあったら教えて。」


沙悟浄の問いに猪八戒が答えた。


「じゃあな。」


「あ、おい!!待てよ!!」


歩き出した悟空の後を追い掛けるように、沙悟浄が

歩き出した。


あの、闘技場が気になるのか悟空は…。


「おーい、行くってさ!!」


猪八戒が少し離れた距離から俺の事を呼んだ。


「あ、今、行く!!」


俺は小走りしてお師匠達の後に付いて行った。




建物の屋上から三蔵達を見ている人物がいた。


金色の縦ロールの髪は右サイドに束ねられていて、大きな金色の瞳に赤い妖石(ヨウセキ)が輝いていた。


体は少年なのに女の格好をしていた。


カタカタカタ…。


「何してるの?真秋(マシュウ)。」


真秋と呼ばれた少年の後ろから巨大な骸骨が現れた。


「君の事を退治しようとしてる人物を見てた所。」


「ケケケケケ!!牛魔王様の血を飲んだ妾を退治しようとは、とんだ命知らずよ!!!」


「良かったねー。がしゃどくろ、六大魔王に選ばれてさー。」


「ケケケケケ!!さてと…、あやつ等の様子でも見に行こうかねぇ…。」


がしゃどくろはそう言って、姿を消した。


真秋は羅針盤を取り出した。


「そろそろ、来る頃ね。あの闘技場もやっと使う時が来たし、行きますか。」


シュンッ!!


そう言って、真秋は姿を消した。




その頃、三蔵達は依頼主がいると言う家に着いていた。



源蔵三蔵 二十歳


居酒屋らしき店にお師匠は入って行った。


俺達も続いて中に入ると、店の中は荒れていた。


割られた皿や酒瓶が床に散らばり、何者かが暴れて行った形跡があった。


「来たか!!」


パタパタパタ。


階段を降りる音と、男の声が聞こえて来た。


男の姿を見て人間ではないとすぐに分かった。


何故なら、肌の色が人間とは違く水色だったからだ。


妖が何でこんな所に…。


「依頼主の鱗青。見ての通り妖だ。」


「早く来てくれ!!2階で寝ているから!!」


鱗青と呼ばれた男は俺達には見向きもせずに2階に上がって行った。


鱗青って、六大魔王の1人じゃねーか?!


牛魔王の仲間が何で、こんな所にいんだよ!?


疑問を残したまま俺達は2階に上がった。


2階に上がると1室の部屋の扉が開いており、俺達はその部屋の中に入った。


そこにいたのは、女の人と男の子が寝ていた。


体の半分は既に骨化していて、衰弱している様子だった。


顔色も真っ青で、女の人の体には沢山の文字が浮き出ていた。


俺でも見ただけで分かる。


この女の人は助からないと。


体に浮き出ているのは呪術の一種だ。


「おい!!どうなんだよ?!呪いは解けるよな?!」


鱗青はお師匠に近寄り肩を揺すった。


「この女性には、2つの呪術が掛かってる。それもかなり強度な呪術だ。少年の方はこの聖水を飲ませれば大丈夫だが…。」


お師匠の言葉を聞いた鱗青は、お師匠の胸ぐらを掴んだ。


「俺は2人を助けてくれって頼んだだろ?!何で、林杏(リンシン)は助からないんだよ!?」


「林杏さんの体には2つの呪いが掛かってんだよ。1つの呪いを解けば発動するようになってんだ。」


「嘘だろ…?」


そう言って、鱗青はお師匠の胸元から手を離した。


「鱗青…。」


「林杏!?」


鱗青は林杏さんの元に駆け寄り、骨化していない方の手を握った。


「私は…、大丈夫だから。鈴玉(リンユー)を助けてあげて。」


「お前も助からなきゃ、鈴玉が悲しむだろ!?大丈夫だ、お前の呪いは必ず俺が解く。だから、心配するな。」


「フフ、貴方がそう言うなら安心ね。」


「少し寝てろ。」


「うん。」


そう言って、林杏さんは再び瞳を閉じた。


ゾワッ!!


林杏さんの姿を見て鳥肌が立った。


何故なら、林杏さんを見下ろすように煙の骸骨がケタケタと笑っていたからだ。


「何だよっ、あの煙は…。」


猪八戒にもみえているらしく、ドン引きしていた。


お師匠も煙の骸骨を睨み付けていた。


「水元、荷物を出してくれ。」


「分かりました。」


「それと、妖2人はこの部屋から離れて。今から結界と気休めだが癒術(りょうじゅつ)を掛ける。三蔵、お前も降りてなさい。」


「わ、分かった。」


俺達はお師匠に言われた通り、1階に降りた。


鱗青は神に祈るように手を合わせて、目を瞑っていた。


「牛魔王の仲間がお師匠に依頼したんだな。」


俺の言葉を聞いた鱗青は顔を上げた。


「良く分かったな、俺が六大魔王だって。」


「美猿王の物語を読んでいたから分かる。何で、アンタがこんな所にいるんだよ。」


「コイツ、牛魔王の仲間なのか!?」


驚いた猪八戒は声を上げた。


だけど、鱗青から俺達に対する殺意を感じない。


「お前等と戦うつもりはない。俺はあの2人を助けて欲しいだけだ。」


「あの2人との関係は何?」


「俺の愛した女とその弟だ。この店は林杏と鈴玉が営んでいた店だ。借金を返す為にな。」


俺の問いに鱗青は答え、話を続けた。


「俺は人間に化け、飲みに行くのが好きだったんだ。そんな時、林杏と出会って変わった。妖ではなく人間として生まれたかった、そう思うようになった。妖と人間が一緒にいる事は許されない事だから、林杏の存在を牛魔王に隠して来た。」


ギュュゥ…。


鱗青が拳に力が入った。


「林杏と鈴玉とこうなったのは、牛魔王に2人の存在がバレてしまったからだ。毘沙門天と共に呪いを掛けやがった。」


「牛魔王と毘沙門天が呪いを…?何でまた…。」


「さぁな、分からねぇけど、俺を縛り付けてんのは分かる。あの2人をダシに使えば俺が動くだろうってな。」


「そんなっ、何でそんな酷い事が出来るんだ。」


「妖ってのはそう言うモノだよ。」


俺の問いに答えた鱗青は気力を失っていた。


「どうしたら良かったんだ…。俺は、2人をこんな…。酷い状態にしてしまった。俺が愛した所為だ。」


「そんな、鱗青が悪い訳じゃないだろ?」


「俺の所為なんだよ。俺が牛魔王の仲間だからな。」


そう言った鱗青の顔は元気のない笑みを浮かべた。



その頃、悟空達はー


闘技場に着いた悟空と沙悟浄は目を疑った。


何故なら、闘技場は妖怪達で溢れ帰っていたからだ。


「妖がこんなにっ??何で?」


「お前、知らねーのか?」


沙悟浄の呟きを聞いた犬の顔をした妖が声を掛けて来た。


「は?知らないけど…。」


「バトルロワイヤルだよ。賞品を掛けて戦ってんだよ!!」


「賞品って…?」


「何でも、永遠の命を手にする事が出来る巻き物が賞品何だよ。」


その言葉を聞いた悟空は眉毛がピクッと反応した。


「今、ここにいる連中はエントリーする為に集まってるんだよ。2人1組のペアで参加する事がルールなんだと。じゃ、俺も並んで来るからな!!」


そう言って、犬の顔をした妖は走って行った。


「もしかして、賞品って経文の事か?」


「あぁ、恐らくな。誰がこんな事を開いたか知らないけど、参加するしかないだろ。」


「参加って、お前のその入れ墨を見たら不老不死の術を取った美猿王ってバレないか?」


沙悟浄の言葉を聞いた悟空は指を素早く動かした。


「変げの術。」


悟空がそう言うとポンッと白い煙が立った。


白い煙が晴れると、悟空の容姿が変わっていた。


赤茶色だった髪はベージュ色になり、前髪がセンター分けされていて、茶黄色の瞳は緑色に変わっていた。


全身に入っていた入れ墨も無くなっていた。


「お、おおおおお。悟空じゃなくなった。」


「ほら、お前も掛けてやる。」


パチンッ。


悟空はそう言って、指を鳴らした。


水色だった沙悟浄の髪は黒く染まり、瞳も黒色に変わり体や顔にある鱗もなくなっていた。


「すげぇ、変げの術って便利だな。」


「お前も使えるんじゃねーの?」


「え?俺も使えんの!?」


「妖だったら、使えんじゃね?」


「そう言うもの?」


「じゃ、並ぶぞ。」


悟空はそう言って、最後尾に並び始めた。


沙悟浄も悟空の後を追い、最後尾に並んだ。


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