西遊記龍華伝

西龍
百はな
百はな

太陽神聖

公開日時: 2022年6月8日(水) 23:07
文字数:5,440

天界ー


毘沙門天が指を鳴らすと、毘沙門天の後ろから黒い大きなフード付きのマントを被った5人の人物が現れた。


「誰だお前等?」


明王はそう言って毘沙門天の後ろにいる5人を睨み付けた。

「うわぁ、嫌な感じー。神様って心が狭いんだねー。」


「あ?テメェ、何つった?」


嫌味を言ったらしき女に明王は怪訝な顔をした。


「明王。」


天部が明王を呼び止めると、明王は握りしめていた拳を緩めた。


「貴方も言動には気を付けて下さい。突然ここに来たのは貴方達なのですから。」


「はーい。すいませーん。」


天部の言葉を聞いても女は反省している様子はなかった。


「それで?」


観音菩薩はそう言って毘沙門天を見つめた。


「それでとは?何ですか観音菩薩。」


「お前がそこにいる5人を連れて来た理由だよ。」


「あぁ…、その事ですか。さっきもお話したでしょ?悪妖退治をする部隊を連れて来たんですよ。さぁ、哪吒(ナタク)ご挨拶しなさい。」


「はい。」


毘沙門天に哪吒と呼ばれた人物がフードを取った。


ザワッ…。


金色のフワフワの髪は真っ白な肌によく映えていて、長い睫毛から覗く金色の瞳の左目の下に赤いダイヤ型の宝石がついていた。


哪吒と呼ばれた少女は、この場にいた神々達の視線を独り占めしていた。


観音菩薩だけは違う事を考えていた。



観音菩薩ー


毘沙門天がやたら神殿に連れて来ていた女だったか。


哪吒の左目の下にあるあの赤い宝石はなんだ?

凄く嫌な感じがする。


この感じはどこかで感じた事のある感覚だ。


トントンッ。


「観音菩薩。あの宝石、嫌な感じがするな。」

観音菩薩の肩を突き言葉を吐いたのは如来だった。


「如来もそう思う?」


「あぁ。あの哪吒の目の下にある宝石から嫌なオーラが出てる。だが、何でそう感じるのかは分からいけど。」


「ッチ。さっきから嫌なオーラがすると思ったらコイツ等からか。」


明王は舌打ちをしながら膝を揺すった。


明王の言葉を聞いた観音菩薩と如来、天部は目を丸くした。


「え?お前、だから苛々してたの?気付いてたとは思ってなかったよ。」


如来は驚きを隠せないまま明王に尋ねた。


「あ?俺だって気付くに決まってんだろ?さっきから嫌なオーラが肌にチクチク刺さって鬱陶しいんだよ。」


明王は人の感情の変化や空気に敏感だからな。


それで、さっきから苛々してたのか。


「お初にお目にかかります。私は毘沙門天様の戦闘部隊の隊長をしている哪吒と申します。以後、お見知りおきを。」


そう言って哪吒は頭を下げて来た。


「ちゃんとご挨拶が出来て偉いね哪吒。この5人は私の戦闘部隊の中でも腕が立つ者達です。そしてらこの戦闘部隊の名前は"太陽神聖(タイヨウシンコウ)と言います。」


私達は毘沙門天の言葉を聞いて耳を疑った。


「太陽神聖…だって?」


私は思わずその言葉を口にした後に眉毛がピクッと動いた。


「ちょっと、待て毘沙門天。太陽神聖ってまさか…、天帝が保管していた武器の事じゃねーだろうな?」


「えぇ、その通りですけど?」


ザワザワザワ…。


明王の問いかけに毘沙門天はサラッと答えた。


毘沙門天が発した太陽神聖の言葉を聞いて、流石に

毘沙門天側に付いている神々達も動揺していた。


*太陽神聖とは、かつて戦場に立っていた天帝が使っていた5つの武器の事である。

天帝が使っていた5つの武器は、普通の武器とは形が違く不思議な力を持つ武器であった*


太陽神聖は天帝が誰にも触らせないように頑丈に武器庫に保管していたはずだ。


「太陽神聖は天帝が誰にも触らせないようにしていた筈ですよ?それなのに何故、貴方が太陽神聖を?勝手に持ち出したのですか?」


天部はそう言って毘沙門天を睨んだ。


だが、毘沙門天は添付の視線を気にせずに1枚の紙を出して来た。


毘沙門天が出して来た紙には、天帝の武器庫の管理書と書かれてあった。


私はその紙を見た事がなかった。


何故なら天帝は、私達4人にすら太陽神聖の管理をさせた事がなかった。


「私は天帝直々に太陽神聖の管理を任されていたんですよ。そして太陽神聖を私の部隊に使わせても良いと許可書も貰っています。これが証拠ですよ。」


「ふざけるな!!」


ドンッ!!


明王はそう言ってテーブルを強く叩いた。


「天帝は俺達にすら太陽神聖の管理をさせなかったんだぞ!?それ程、太陽神聖を大切に保管していた

天帝がお前に任せる訳ないだろ!?」


「天帝が貴方達に太陽神聖を任せなかったのは、貴方達に任せるのは不安だったからではありませんか?」


「貴様、我々を愚弄(グロウ)するのか。」


如来はそう言って毘沙門天を見つめた。


「まさか、愚弄したつもりはありませんよ。ただ、こうして天帝の判が押されているのですから。この紙が真実を物語っているでしょ?」


毘沙門天のこの自信はなんだ?


「なら、天帝代理は毘沙門天殿に任せるのが筋が通るでしょう。」


そう言ったのは、毘沙門天側に付いてる神の1人が言葉を発した。


「太陽神聖を毘沙門天殿に任せたと言う事実がある訳ですし、天帝も毘沙門天殿が代理をする方が安心するのでは?」


「太陽神聖を使う部隊を作ったのですから、悪妖退治も毘沙門天に任せた方が安心でしょう。」


次々に口を開く神々達。


やられた。


空気が完全に毘沙門天の物になった。


毘沙門天の目的は、天帝の信頼を1番持っているのは自分だと言う事をこの場で言う事だったか。


太陽神聖と言う部隊を連れて来たのも、悪妖退治を自ら進んで行うと言う姿勢を示す為。


毘沙門天側に付いてる神々達は、言い方を変えれば自分達は安全な場所にいたがってる無能の集まり。


毘沙門天もそれを利用して自分の下に置いたのか。


私達4人を潰す気で来たのか。


だが、私の中で2つ疑問が出来た。


まず、1つの目の疑問だ。


天帝は常に私達4人と行動を共にしていた。


毘沙門天と接触していた場面を見た事がない。


いつ、太陽神聖の管理書を書かせた?


2つ目の疑問は、哪吒と言う女の左目のしたにある


赤い宝石だ。


あの宝石は何で出来ている?


普通の人なら太陽神聖を扱うのは無理だ。


哪吒は人でない"何か"だ。


1つ目の疑問を毘沙門天に問いただしてみるか。


「その太陽神聖の管理書をいつ、天帝と会って書いたんだ?」


私がそう言うと、笑顔だった毘沙門天の顔がスッと変わった。


その顔を見た天部が口を開いた。


「天帝が眠ってしまう前から、我々は天帝と行動を常に共にしていました。それに天帝の予定管理は私がしてました。そこに毘沙門天と会うと言う予定は見た事がない。」


天部の言葉を聞いた神々達は再び騒ぎ出した。


「え?それはどう言う事ですか毘沙門天殿。」


「天部殿が言った事は本当なのですか?」


「どうなんですか!?毘沙門天殿!?」


ザワザワザワ…。


天部も私が思っていた疑問を分かったようだ。


それは明王と如来も同じらしく、如来が毘沙門天に詰め寄った。


「その管理書はもしかして、貴方が1人で作った物じゃないのか?だとしたら、勝手に太陽神聖を持ち出した事になるが?」


如来はそう言って毘沙門天を見つめた。


恐らく毘沙門天は、太陽神聖の管理を許可した紙を

いつ書かせたのかを問われるとは思っていなかったのだろう。


笑顔だった毘沙門天が真顔になったのだからそうだろう。


さぁ、答えてみろ毘沙門天。


私はそう思いながら毘沙門天を見つめた。


毘沙門天はゆっくり口元を歪ませた。


「天帝が貴方達に言う筈はないですよ。だってこの事は私と天帝の2人だけの秘密だったのですから。」


「は、は?」


「な、何を言ってんだ…?」


「2人だけの秘密って…。」


私と明王、如来は思わず声が出てしまった。


2人だけの秘密だった?


何を言ってんだコイツは…。


天帝が私達に秘密を作る筈がない。


毘沙門天のハッタリだ。


コイツは意地でも、天帝に判を押してくれたんだと突き通すつもりだ。


ここにいる奴等はもう、毘沙門天の思考の上で踊らされている。


時間が長引けばこっち側が不利になる。


だったらこの時間を早急に私達側で終わらした方が良い。


私は目を閉じ、明王と天部、如来の頭の中に語り掛けた。



明王、天部、如来の頭の中ー


「私の声が聞こえるか。」


「何だよ、俺達の頭ん中に入って来て。」


観音菩薩の声に3人は反応した。


「会議中に語り掛けて来たって事は、何か考えがあると言う事ですね?観音菩薩。」


「じゃなかったら、頭の中に入って来ないだろうな。」


「その通り。今、この場の空気が毘沙門天の物だっ

て3人も察してるだろ?この時間が長引けばこっち側が不利になる。だから、今から私の言う事に3人は絶対に賛成してくれ。」



観音菩薩がそう言うと、3人は観音菩薩の顔を見て頷いた。


よし。


「そうですか。なら、私と毘沙門天の2人で天帝の代理をしましょう。」


「「「っ!?」」」


観音菩薩の言葉を聞いたこの場にいる神々達が驚いた。


毘沙門天も驚いていた。



明王、天部、如来の頭の中ー


「ハッ、観音菩薩の野郎。そう言う事かよ。」


「成る程、2人で天帝の代理をすると言う事にしてこの時間を早く終わらせようとしているのか。」


「確かに、2人でやるならこの場にいる神々達は納得するだろうな。そして、俺達も毘沙門天の行動に目を光らせる事が出来る…っと。」


明王と天部、如来の3人は観音菩薩の言葉を聞いて頭の中で話し合っていた。


「俺等は観音菩薩の言葉を押せば良いって事か?」


「おや、貴方にして物分かりの良い返事をするのですね。」


天部はそう言って、明王に語り掛けた。


「うるせぇ。俺は毘沙門天の野郎の尻尾を掴めりゃ、それで良い。観音菩薩が天帝の代理をするのにも賛成してんだ。毘沙門天の野郎にもさせるのは癪だがな。」


「それは仕方ないだろ。そうでもしないと神々達も納得しねーし。毘沙門天も納得はすんじゃねーの?」


明王と如来の考えは同じらしく、すぐに観音菩薩の考えに賛同した。



「それなら、お前等も文句はねーだろ?俺等は観音菩薩に天帝の代理をして貰いたい。そっちは毘沙門天にやって欲しいんだろ?なら、2人にやらせりゃいーだろ。」


明王の言葉を聞いた神々達は、戸惑いながら口を開いた。


「う、た、確かに…。」


「2人がやるなら私達はそれで良いと思いますが…。」


「毘沙門天殿はどうですか?」


神々達に尋ねられた毘沙門天は、再び作り笑顔を浮かべた。


「私はそれで構いませんよ?ですが。」


毘沙門天の言葉を聞いた観音菩薩達は、毘沙門天の方を見つめた。


「悪妖退治の事には口を出さないで頂きたい。宜しいですか?観音菩薩。」


観音菩薩は毘沙門天の言葉を聞いてから口を開いた。


「分かりました。こちらの行動にも口を出さないって事と受け取ります。それで良いよな毘沙門天。」


そう言って観音菩薩は毘沙門天に向かって笑い掛けた。


「…。わかりました。それで手を打ちましょう。」


「それじゃあ、今日の会議はお開きと言う事で。」


ガタッ。

観音菩薩はそう言って席を立った。


こうして、天帝の代理をするのは観音菩薩と毘沙門天の2人になった。


神々達も納得の行く結果で終わったと思われるが、

毘沙門天だけは腹を立てていた。



カツカツカツ!!


毘沙門天は苛々しながら広間を歩いていた。


「ハッ。観音菩薩にしてやられてんじゃねーよ。」


毘沙門天の頭の中に牛魔王が語り掛けて来た。


「何ですか牛魔王。無様だと笑いたいのですか?」


「おーおー。苛々してんなぁ、せっかく俺の呪いで

天帝を眠らせてやったのに観音菩薩に流れを持ってかれてんじゃねーよって事。」


「まさか、太陽神聖の管理書の事を追求してくるとは思ってませんでしたよ。」


宮殿を出た毘沙門天は、人目のない所で下界に繋がる扉を出した。


「へー、それは災難だったなー。」


「心にも思ってない事を…。それから、貴方に協力して貰いたい事があります。」


「あ?協力して貰いたい事だ?」


「えぇ。悟空と金蝉が天蓬を仲間にしたようです。そして、元六大魔王だった黒風も一緒にいるそうで。」


「黒風が?」


「その4人は捲簾大将を探しに四川省に行くそうです。そして、そこには経文があると言う情報を聞きましてね?」


悟空の名前を出した毘沙門天を哪吒は見つめた。


「…、成る程。俺の六大魔王の奴等にも協力させろって事ね。何?悟空等を殺して経文を奪えば良いんだろ。それは俺とお前の目的だろうが。」


「えぇ。今回の件に哪吒と太陽神聖の1人を同行させて貰いたいんです。」


「お前の部隊を連れてくのか?何?今回は本気じゃん。」


「経文を手に入れる為に作った部隊ですから。金蝉に取られる訳にはいきません。」




下界 ー


三蔵達を乗せた船が四川省に到着した。


「「うっわぁぁぁあ!!」」


三蔵と黒風の声が重なった。


四川省の街並みは沢山の建物で溢れかえっており、福陵とはまた違った華やかさが街を彩っていた。


「うるせーぞ、2人共。田舎モンみたいな反応すんじゃねーよ。」


悟空は、はしゃぐ三蔵と黒風を見て呆れながら言葉を吐いた。


「まぁ、まぁ。三蔵だって十九歳のガキなんだからさ。」


「あぁ、そうか。」


「おい!!猪八戒!!今、俺の事をガキ扱いしただろ。」


悟空と猪八戒が話していると三蔵が怒りながら話しに入って来た。


「お、落ち着いて下さい!!」


黒風は三蔵を宥めるように三蔵の背中を撫でた。


4人で楽しそうに話しているのを見ている人物がいる事に、三蔵達は気が付いていないのだった。




「頭、あの4人組。1人だけが人間ですよ。」


「どうします頭?」


フード付きのマントを深く被った男に、2人の男が尋ねた。


「妙な行動をしたら殺せ。俺の庭で暴れたら俺の所に連れて来い。」


男はそう言って三蔵達を睨み付けた。


そして、この四川省で最初の経文の奪い合いが始まろうとしていたー


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