儀式の間ー
ドサッ!!
「び、毘沙門天様。お、お連れしました…。」
金髪の長い前髪を床に引き摺りながら、男は毘沙門
天に頭を下げた。
「ご苦労様です。ようこそ、儀式の間へ鱗青。」
真秋に連れて来られた鱗青は、目の前に広がっている光景に言葉を失った。
「な…んだよ、この匂い…っ。ゔっ。」
異様な異臭を放っている部屋の床には、赤い肉片が落ちていた。
部屋の中央にある石のベットの上で、林杏は両手足
を縛られ眠っていた。
「林杏!!テメェ、林杏に何した!?」
ガンッ!!
ドンッ!!
毘沙門天に殴り掛かろうとした鱗青は、床に転倒した。
「おやおや、大丈夫ですか?あははは!!!」
転倒した鱗青を見て、毘沙門天は笑い出した。
鱗青は恐る恐る自分の足に視線を向けた。
「な、な…。あ、あああああああああ!!!」
「あははは!!!」
鱗青は両足を真秋に切断されていた。
「あははは!!!足がなくて辛いねぇ?」
真秋は叫ぶ鱗青を覗き込み、馬鹿にしながら言葉を放った。
「毘沙門天!!お前だけは、絶対に許さねぇぇ。」
「何故、貴方を呼んだか分かりますか?」
毘沙門天はそう言って、鱗青に質問を投げ掛ける。
「貴方に忠誠を誓って貰うと思いしてね?我、妻の為に。」
「妻…だと?林杏は俺の女だ!!お前の女なんかじゃねーよ!!」
「あー、うるさ。」
グサッ、グサッ!!
真秋は真顔で鱗青の左右の手の甲に短剣を深く突き刺さした。
「あ、あがぁぁぁぁぁ!!」
「喉、潰しときますか?」
グッ。
鱗青の髪を乱暴に掴んだ真秋は、鱗青の喉仏に短剣の刃を立てた。
「耳障りな声は、儀式に相応しくない。君は観客として招待したまで、声を発する必要はありません。やりなさい、真秋。」
毘沙門天の言葉を聞いた真秋は、ニヤリと笑った。
「はぁい、毘沙門天様。」
そう言って、真秋は鱗青の喉仏を掻き切った。
ブシャッ。
「ゔぐっ!?」
「あははは!!!」
喉仏を斬られた鱗青は言葉を話せなくなった。
「術式展開。」
毘沙門天がそう言うと、血で描かれた呪符の文字が浮き上がり林杏の体の中に吸い込んでいった。
ボボボボボボボボボボボッ!!
林杏を囲む様に配置されてある蝋燭に火が灯った。
「あわわわわ!?す、すごいや…。」
「邶球(ハイキュウ)、ビビり過ぎでしょ。」
「び、ビビってなんかいないよ…。真秋の方こそ、何かテンションがおかしいよ…。」
邶球は真秋を見ながら、ボソッと呟いた。
その光景を如来は物陰から見ていた。
「まだ、儀式の途中のようだな。」
如来の手のひらから天帝から受け継いだ刀、湖陽天(コヨウテン)を取り出した。
見た目は普通の刀だが、湖陽天には不思議な能力があった。
湖陽天を受け継がれた者は、己の身体能力が開花し、超人の力を得る事ができ刀と一身一体になる。
「この刀を使うと、疲れるんだよな…。凄く。だが、致し方ない。」
如来は大きく息を吸い、足を踏み出す。
ビュンッ!!
物凄い速さで、毘沙門天の背後を取った如来は湖陽天を振り翳す。
ブシャ!!!
「っ!?貴方は…、何故ここに。」
如来は毘沙門天の右腕を斬り落とした。
「毘沙門天様!?きさまぁぁぁぁぁ!!」
理性を失った真秋は、近くにあった武器を手に取り如来に向かって走り出した。
「悪いな、お前の事を殺させて貰う。」
キィィィンッ!!!
湖陽天が唸り、如来は大きく刀を振るった。
ビュンッ!!!
「ま、真秋!!!ダメだ!!!」
邶球は異変に察知し、真秋を呼び止めた。
だが、真秋の耳には届いておらず如来の目の前まで来た時だった。
パキンッ。
ズジャッ!!
真秋の頬に付いていた妖石が割れ、真秋の体から血が吹き出した。
「ギヤアァァァァァアア!!!」
「やはり、お前等の弱点は妖石を破壊される事だな。」
如来はそう言って、
「嫌だ、嫌だ、嫌だ!!死にたくない、死にたくな…あ、あ、あ、。」
真秋の体が徐々に砂になって行き、跡形もなく消え
て去った、
残ったのは、割れた妖石の破片だけだった。
シュルルルッ。
斬り落とした筈の毘沙門天の腕が、再生し始めた。
神だと言えど、斬り落とされた腕や足は再生はしない。
如来はその光景を見て、嫌や予感がしていた。
「お前、既に人でなくなったのか。」
「人だった頃の記憶が思い出せんね。観音菩薩が言っていたのですか?妖石を破壊すれば消えると。全く、嫌や男だなー。女みたいや顔をして、頭が良く回る。」
「愚弄する気か。」
如来はそう言って、一瞬で姿を消した。
ブシャッ!!
毘沙門天の脇腹から血が噴き出した。
「毘沙門天様!?」
タッ!!
邶球の側にあった巻き物を手に取った如来は、毘沙門天から距離を取った。
「もう一つの経文はどうした。どこに隠した。」
「あ!?経文が!!」
如来の手に握られている経文を見た邶球は、顔を真っ青にした。
「恒天経文 (こうてんきょうもん)は、どこだ。」
如来が手にしているのは、有天経文である。
有天経文は観音菩薩が玉を輪廻転生させる為、使用した経文である。
「一足、遅かったようですね?さぁ、有天経文を返
して下さい。」
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
毘沙門天の影が大きく膨張した。
ウニュ、ウニュウニュウニュ…。
「ぁあ……、腹が減ったなぁ…。」
「お前は…、まさか!?」
「如来!!」
ドゴォォォーン!!
如来と毘沙門天の間に砂埃が立った。
煙が晴れると、そこにいたのはヒノカグツチと源蔵
三蔵、猪八戒だった。
源蔵三蔵 二十歳ー
ドンッ!!
空気がいきなり重くなった。
体に重みが乗り掛かったような感覚だ。
「「っ!!」」
石と風鈴がハッとした表情をし、お互いの顔を見合わした。
「消された。」
「真秋の気配がなくなった。哪吒はまだ、起きてい
ない。毘沙門天様の元に行く必要がある。」
何の話をしてるんだ?
あの2人は…。
「この気配は…、まさか。」
「?」
ヒノカグツチの様子もおかしいような…。
シュンシュンッ!!!
「潤!?渡し守り?!」
潤と渡し守りが式神の札に戻って来てしまった。
どうなってるんだ?
妖気よりと邪悪な気配が、蔓延してる。
「三蔵、猪八戒とやら。下に降りるぞ。」
「「は?!」」
俺と猪八戒の声が合わさった。
「降りるって、どう言う事?」
俺はヒノカグツチに問いた。
「如来が危ない。毘沙門天の奴、彼奴と手を組んだのか…。」
「如来が危ない…って、かなりまずい状態なんだな。」
下の階にいる猪八戒がヒノカグツチに尋ねた。
「ま、そう言う事だ。」
ガシッ!!
「へ?!」
ヒノカグツチが俺の服の首元を掴み、持ち上げた。
「おい、猪八戒!!お前はそのまま飛び降りて来いよ!!」
「いやいやいや!?ちょっと、まさか!?」
嫌や予感が…。
「行くぞ。」
トンッ。
ヒノカグツチは俺を掴んだまま、下に飛び降りた。
「嘘だろおおおおおおお!?」
「ギャハハハハ!!」
「はぁ…。仕方ない。」
トンッ。
猪八戒も俺達の後に続き下に飛び降りた。
ドゴォォォーン!!!
「いたたた…。」
「ヒノカグツチに、三蔵達か。」
「おうよ、お前の為に来てやったぞ。」
「はいはい、どうも。」
如来とヒノカグツチは軽い会話を済ませると、ヒノカグツチは如来の後ろに立った。
ズンッ!!
嫌や気配を感じる。
後ろを振り返ると、白髪の長い髪を靡かせた男がいた。
ドクンッ。
この男とは、初対面の筈なのに…。
俺はこの男を知っている。
「久しぶりですね、金蝉君。あ、今は三蔵でしたか。」
ドクンッ、ドクンッ。
心臓がバクバクしてる。
この男の声は優しいのに、気色悪い。
「毘沙門天から離れろ、三蔵!!!」
猪八戒は俺の手を引き、男から距離を離した。
毘沙門天!?
この男が牛魔王と手を組み、悟空の大事な物を全て奪った男。
悟空のお爺さんを殺し、悟空を落とした男…!!
そして、俺の母さんを化け物にした男!!
怒りが沸々と膨れ上がる。
この男こそ、俺達の敵。
俺達の宿敵だ。
「お前が、毘沙門天か。」
「この時代に会うのは初めてですね?」
ズズズズ…。
「おい、オレは腹が減ったぞ。」
毘沙門天の後ろから、喜怒哀楽の表情のお面が付いていて、黒い体から手が何本も生えている化け物が
現れた。
何なんだ、この化け物は…?
妖気を放っていない。
この化け物は妖ではない。
じゃあ、この化け物は何なんだ?
「アイツら、食って良いか?」
「えぇ、どうぞ。お好きに召し上がって下さい。」
「キィエエエエ!!!!」
毘沙門天の言葉を聞いた化け物が、奇声を上げた。
化け物は四つ這いになり、俺達の元に向かって勢いよく走り出した。
同時刻ー
下界 西牛貸州 南贍部州
(サイゴケイシュウ ナンセンブシュウ)
玄狐に乗り下界に降りた観音菩薩は、鳴神が封印されている洞窟の前にいた。
「う、ゔぅ…。」
「くっそ…。」
バダン。
観音菩薩の周りで妖達が倒れた。
「やっぱり、妖がいたな。」
「まぁ、毘沙門天が鳴神の洞窟の周りに妖怪を置かせていない訳がないよね。羅刹天もいない事を知っているだろうし。」
「雑魚共で良かったな。食って良いか。」
「あー。良いけど…って、はや!?」
玄狐は観音菩薩の言葉を聞かずに、妖達を食べてしまっていた。
「お腹はいっぱいになったの?」
「あぁ、腹ごしらえにはなった。」
「そう、中に入るよー。」
「あぁ。」
観音菩薩と玄狐は洞窟の中に入って行った。
カツカツカツ。
観音菩薩の足音が洞窟内に響き渡る。
ビリッ、ビリッ。
「封印されてんのに、鳴神の野郎の力は衰えてねー
のな。」
「そうだね、肌にピリピリした感触がするのは鳴神の力が洞窟内に、蔓延してるからだね。」
バチバチバチ!!!
洞窟の奥に進むと、目に見える程の雷が走っていた。
観音菩薩は素早く札を取り出し、自分と玄狐を囲む
結果を貼った。
「お前、誰だ。」
男の低い声が洞窟に響く。
「初めまして、鳴神。僕は今の観音菩薩です。」
「天界人か。何しに来た。」
「貴方の封印を解きに来ました。貴方が必要なんです。」
「ハッ、俺が神共の言う事を信用すると思うのか?」
鳴神はそう言って、観音菩薩を睨み付ける。
「貴方が僕達を恨んでいるのは承知してます。ですが、僕は毘沙門天を止める為に貴方の封印を解きに来ました。吉祥天が復活してしまえば、貴方しか同等の力を持つ神はいない。毘沙門天は牛魔王と言う妖と手を組み、貴方の息子である悟空を殺す気です。」
「あの野郎…。俺の嫁を殺した癖に、悟空にまで手を出す気か。」
ビリビリビリ!!
「僕は貴方と飛龍隊の復活を願う者。一度、僕は貴方に妖から助けて貰った事があります。覚えてないと思いますが…。」
鳴神は観音菩薩の言葉を聞いた後、暫く考え込み言葉を発した。
「お前、ボロボロだったガキか。」
「お、覚えていたんでしすか?僕の事を…!」
「あぁ、可愛い顔してたからな。ハッ、お前が俺を助けに来た訳か。」
「貴方の封印を解きに来たのは…、殆どが僕の願望です。封印を解けば、180°最悪の結末がひっくり返る。貴方と伊邪那美命様が描いた未来を叶える為に、僕はここに来ました。お願いします、鳴神。僕達に力を貸して下さい。」
そう言って、観音菩薩は鳴神に向かって頭を下げた。
「そうか。なら、解け。俺の為に封印を解けよ、観音菩薩。お前の理想郷を作り上げてやる。」
鳴神はフッと笑い、観音菩薩に手を伸ばした。
「貴方の役に立ちますよ、鳴神。」
観音菩薩は鳴神の手を取り、手首に付いた鎖に自分の血を落とした。
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