波月洞に向かっている三蔵達だったが、孫悟空達は激しい戦いをしていた。
波月洞ー
キィィィン!!!
丁の鎌の刃を受け止めた沙悟浄は、攻撃を振り払い
鏡花水月の能力を発動させた。
沙悟浄の姿が水面に映っているかのように、ゆらゆらと揺れていた。
鏡花水月の刀の能力、水面鏡(スイメンキョウ)。
ポチャン、ポチャン。
水の滴る音が聞こえ、音が鳴り響いた瞬間に沙悟浄の体が水蒸気と共に消えた。
「消えた!?」
「李、落ち着け。」
沙悟浄の姿が消えた事に驚く李を、胡が落ち着かせた。
キンキンキンッ!!
悟空はただ、丁の攻撃を受け流していた。
「何で、攻撃して来ないんですか。」
ブンッ!!
丁は悟空に尋ねながら鎌を降り一旦、距離を取った。
「お前は俺を殺す気なのか?丁。」
「何を言ってるんですか、貴方は…。そ、そんなの当たり前だろ?王の命令なんだ…って、どうして?
俺は敬語で話しているんだ…?」
「頭?」
高は丁の様子がおかしいと思い、心配そうに丁に擦り寄った。
丁は何故、悟空相手に敬語を使ってしまうのかを疑問に思っていた。
「お前等の王は本当に牛魔王なのか?」
「なっ、何を言って…ヴッ!?」
再び激しい頭痛に襲われた丁は、地面に膝を付いた。
「頭!!?ドウシタ!?」
サッ!!
高は倒れそうになった丁を抱き止めた。
「やはり、術を掛けられておるな。」
悟空に近寄り、雷龍はソッと呟いた。
「術?」
「ああ、毘沙門天の術だな。奴のやりそうな事
よ。」
「やりそう?どんな術を丁達に掛けたか、分かるか。」
「伊邪那岐命(イザナギ)にも、毘沙門天は術を掛けた。所謂(イワユル)、洗脳と言うヤツだろう。」
「どうすれば、洗脳は解ける。」
「力を貸してやる、悟空。」
ボォォォォォォォ!!
雷龍がそう言って、悟空の体の中に入ると暴風が吹き出した。
「な、何だ!?」
「李!!離れるな!!」
飛ばされそうになった李の手を掴み、胡は自分の体
に引き寄せた。
タッ。
沙悟浄も暴風に耐える為に、ぶら下がっている氷柱の岩に捕まった。
「この風、雷も纏ってんのか?」
ボォォォォォォォ!!
バチバチバチ!!
暴風の中から現れた悟空の姿が、変わっていた。
赤茶だった髪が煌びやかな金髪に変わり、全ての髪が後ろに流され、体からは電力がバチバチと光っていた。
悟空の体に雷龍が入り、悟空は"雷公"の姿になった。
*雷公(ライコウ) かみなりの俗称。かみなりさま*
「来たのか、美猿王…いや、悟空!!」
タッ!!
シャシャシャシャ!!
牛魔王が現れた瞬間、一斉に影の棘が悟空に向かって行った。
「悟空!!危ない!!」
タッ!!
沙悟浄は慌て降り、悟空の前に立ち影の棘を弾き飛ばす。
ザッ!!
グサッ!!
飛ばし切れなかった棘が沙悟浄の体に突き刺さった。
「邪魔なんだよ、河童。」
ガシッ。
牛魔王はそう言って。沙悟浄の腕を掴み投げ飛ばした。
ドゴォォォーン!!
「殺ろうぜ、悟空!!」
バチバチバチ!!
悟空に拳を振り下ろそうとした牛魔王だが、電力に弾かれた。
「牛魔王、今はお前に構ってる暇はねーんだよ。」
悟空は牛魔王に冷たい言葉を放つ。
「俺に会いに来たんじゃないの?」
「牛魔王様…、ヴッ。」
牛魔王が来た事に気が付いた丁は、頭痛に耐えながら立ち上がった。
だが、立ち上がった丁に牛魔王は拳を振り下ろした。
ゴンッ!!
「ヴッ!!」
ドサッ!!
殴られた衝撃で、丁は地面に倒れた。
「牛魔王様!?な、何を…。」
殴られた丁を見た李は、牛魔王に尋ねた。
「役立たず共が。」
「え?」
「何で、誰も悟空に攻撃をしていない。何で、奴の
言葉に耳を傾ける。」
牛魔王はそう言って、冷たく李達を見下ろした。
「所詮は猿、頭の悪い生き物だ。何も考えずに黙って、俺の言う事だけを聞いておけば良いんだよ。丁、お前は何をしていた。」
「も、申し訳ありません…。頭痛が酷くて、立っていられませ…、ゴフ!!」
丁の言葉を最後まで聞かずに、牛魔王は丁の腹に蹴りを入れた。
「何?お前、毘沙門天の術に逆らってるわけ?生意気なんだよ。」
ドスドスドス!!
蹲っている丁を容赦なく牛魔王は蹴り続けた。
「やめて下さい!!」
蹴られ続けられる丁を庇おうと、胡が牛魔王の前に出た。
「やめて下さい、牛魔王様!!」
「俺の前に出るな、下等生物が。」
シュルルルッ!!
ビュンッ!!
胡の足を影を操り掴み、岩の壁に投げ飛ばした。
ドゴォォォーン!!
「ガハッ!!」
「胡!!ゴホッ、や、やめて下さい。胡達には手を出さないで下さい。」
「あ?お前が俺に意見すんの?お前如きが?」
「っ…。」
「お前の方こそ、何言ってんだ?」
背後から近寄った悟空は、牛魔王から丁を引き剥がした。
「お前こそ、俺の物にそんな口を叩いて良いと思っ
てんのか?あ?」
「今は俺の物だろぉ?」
悟空は手に力を入れ、体に纏っている電流を牛魔王の体に流し込んだ。
ビリビリビリ!!!
牛魔王の体に電流が流れた。
「グハッ!!ガァァァァァァァァ!!?」
「そのまま、退いてろ。」
悟空は牛魔王の服を掴んだまま、牛魔王を後ろに投げ飛ばした。
ドゴォォォーン!!
「沙悟浄、体は平気か。」
「俺は大丈夫だけど…、なんか変わってない?」
「雷龍が、俺の中に入ってるからな。」
沙悟浄の問いに答えながら、悟空は自分の胸を叩いた。
「「頭!!!」」
李と高は咳き込む丁に近寄り、背中を摩った。
「ゴホッ、ゴホッ!!」
「頭、頭!!大丈夫ですか!!」
「あ、あぁ…ゴホッ。お前達は何もされてないな?」
「頭、自分の事を心配して下さいよ!!」
「何で、僕を助けたんですか。」
丁はそう言って、悟空に尋ねた。
「俺は当たり前の事をしただけだ。」
「当たり前の事って…、僕と貴方は敵なんですよ?今なら簡単に僕を殺せる筈なのに…。」
「その目で確かめておけ、丁。」
悟空は如意棒を構え直しながら、言葉を放つ。
「沙悟浄、丁達は毘沙門天の術に掛かってる。その術を解く為に雷龍が俺の体に入った。牛魔王の相手を頼みたいが、牛魔王は俺に向かって来るだろう。」
「分かった、牛魔王を引き離せば良いんだろ?お前から。」
「あぁ、出来るか。」
「初めて、俺を頼ってくれたな。」
「頼らない方が良かったか?沙悟浄。」
ビュンビュンビュンッ!!
ウネウネとした影が、悟空と沙悟浄に向かって放たれた。
ズバッ!!
沙悟浄は影を斬り捨てた。
「アハハハハハ!!これだから、お前は面白いんだ!!」
ドゴォォォーン!!
ビュンビュンッ!!
牛魔王は俺に向かって、飛びながら影を操る。
丁は悟空が放った言葉の意味が分からなかった。
「貴方は…、一体…。何なんですか…?」
「牛魔王と俺、どっちがお前達の王なのか。証明してやる、目を離すな。」
悟空は丁の顔を見ながら言葉を放った。
その瞬間、丁達の心臓が跳ね上がるのを丁達は感じた。
「俺はお前から全てを奪う!!それこそが、俺の楽しみなんだ!!」
シュルルルッ!!
牛魔王は叫びながら影を尖らせ、尖らせた影を悟空に放った。
タタタタタタタ!!
シャキン、シャキンシャキン!!
沙悟浄は走りながら、影を斬り刻む。
そしてそのまま、牛魔王に鏡花水月を振り下ろした。
キィィィン!!
牛魔王は一瞬にして、影で刀を作り鏡花水月を受け止めた。
「河童野郎、俺の邪魔をするのが好きみたいだなぁ?」
「お前こそ、悟空の邪魔するじゃん?大好き過ぎだろ。」
「あ?」
沙悟浄の言葉を聞いた牛魔王は、眉間に皺が寄った。
「あ、図星だった?大好きな悟空が、俺を頼って寂しいなー、お前。」
「河童の分際で、俺を馬鹿にしてんのか。」
ズンッ!!
牛魔王がそう言うと、黒い薄い煙が空間を覆ったと
同時に空気が重くなった。
「俺を怒らせたな。」
シュルルルッ!!
「うわっ!?」
沙悟浄が言葉を放つと、足を掴んだ影は、莫大に大きくなり、1つの怪物になった。
「お前等、全員喰ってやる。」
ザッ!!
如意棒を使い、沙悟浄の足を掴んでいた影を叩いた。
パッ!!
沙悟浄は足から影が離れた事を確認し、着地した。
「助かった、悟空。」
「やっぱ、俺が牛魔王の相手をするしかないみたいだ。」
「どう言う事だ?」
「不老不死の俺じゃないと、相手が出来ない。お前は死んだら終わりだからな。」
悟空の言葉を聞いた沙悟浄は、悟空の言いたい事が分かった。
その瞬間、牛魔王が悟空の顔を掴み地面に叩き付けた。
ドゴォォォーン!!
「グハッ!!」
「よそ見すんなよなぁ?悟空。」
ググググッ…。
「やめろ!!牛魔王!!」
沙悟浄は悟空から引き剥がそうとしたが、牛魔王は更に手に力を入れた。
ブシャッ!!
「嫌だね。」
牛魔王はそう言って、悟空の顔を握りつぶした。
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