「なにを驚いているのよ?」
「い、伊吹玲央奈! ど、どうしてここに?」
「どうしてって……貴女をこの大会に誘ったのは私でしょう?」
「あ、ああ、そういえばそうじゃったな……」
「……とりあえずはおめでとう」
「なにがじゃ?」
「なにがって……決勝へ進出したことよ」
「ああ、まあ、なんてことはないわい」
竜子はサイドテールをくるくるとさせる。
「……大分手こずっていたじゃないの」
玲央奈が冷ややかな視線を向けてくる。
「な⁉ わ、分かるのか⁉」
「分かるもなにも、見てたわよ」
「み、見てたのか⁉」
「ええ」
「な、何故⁉」
「何故って……それは次に当たるかもしれない相手の対局は見るでしょう」
「次に当たる?」
「はあああ~」
「お、思いっきりため息をつくでない!」
「貴女って、自分のこと以外にはほとんど興味が無いのね……」
「いやあ……」
竜子が自らの後頭部を抑える。
「褒めてないわよ」
「ああ、そうなのか……」
「そうよ」
玲央奈が頷く。
「そ、それだけ自分のことに集中しているということじゃ」
「良い様に言わないでよ」
「いやいや、本当のことじゃ」
「まあ良いわ。次の準決勝第二試合、しっかりと見ていなさい」
「なんでじゃ?」
「!」
玲央奈がズッコケそうになる。
「よく掃除してあるが、お手洗いでコケたら汚いぞ?」
「だ、誰のせいでコケそうになったと思ってんのよ⁉」
「ん?」
「と、とにかく、第二試合よ」
「第二試合がどうかしたのか?」
「察しが悪いわね……私が出るのよ」
「ええっ⁉」
「こっちがええっ⁉だわ!」
「お、お主も出とったんじゃな……」
「誘った時に言ったでしょう!」
「そ、そういえば……」
竜子は思い出す。
「まったく……」
「さ、さすがじゃな……」
「え?」
「しっかりと決勝に進出しているとは……」
「当たり前でしょう。私のことを誰だと思っているの?」
「将来の名人か?」
竜子の言葉に玲央奈がフッと笑う。
「なんだ、ちゃんと憶えているんじゃないの……」
「なかなかにインパクトがあったからのう」
「ふふふっ……」
「そういえば聞きたいことがあるんじゃが……」
「なによ?」
「竜王になるにはどうすれば良いんじゃ?」
玲央奈が目を丸くする。
「! ほ、本気で言っているの?」
「ああ、本気も本気じゃ」
「そ、そうなの……」
「そうじゃ」
「そうね……まずは……」
「まずは?」
「この大会で優勝することよ」
「!」
「分かった?」
「分かった、簡単じゃな」
「簡単じゃないわよ」
「何故じゃ?」
「私が優勝するからよ」
「! それはそれは言ってくれるのう……」
竜子が笑みを浮かべる。
「私も名人を目指しているの。だからこんなところで負けていられないのよ」
「ふむ……」
竜子が腕を組む。
「決勝で待っていなさい。貴女も倒して、私は先に行くから」
「はっ、返り討ちにしてくれるわ」
「ふっ……」
「しかし……随分とワシにこだわるのう……ワシが魅力的じゃからか?」
竜子が首を傾げる。
「……ある意味ではそうね」
「えっ⁉ き、気持ちは嬉しいが……」
竜子は恥ずかしそうにする。玲央奈が慌てる。
「冗談よ! 何を本気になっているのよ! 貴女には借りがあるからね……」
「借り……ああ、ワシに負けたことか?」
「勝ったのは私でしょう! ま、まあ、ギリギリだったけどね……」
「あの二歩さえなければのう……」
「ちゃんとルールを覚えた貴女との再戦、それこそが私の望んでいたこと……」
「それを望んでおったのか……」
「ええ、そうよ……」
「もうすぐ叶うのう……」
「まあ、まずは第二試合をしっかりと見ていなさい。貴女と同じように、私もあの時より確実に強くなっているから……」
「そうか、それは楽しみじゃ」
「そろそろ時間ね……それじゃあ、失礼するわ」
玲央奈が会場へと向かう。
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