「下校の時間じゃあ!」
「テ、テンション高いね……」
声を上げる竜子に太郎が苦笑する。
「それはテンションも高くなるじゃろう」
「いきなり声を上げないでよ……」
「なにか問題があるか?」
「不審者として通報されちゃうよ?」
「ワ、ワシが⁉」
「うん」
太郎が頷く。
「そ、それは妙な大人とかじゃろう?」
「いやいや、校門で奇声を上げるのもなかなか……」
「き、奇声ではない!」
「じゃあなに?」
「雄叫びじゃ!」
「雄叫びね……」
「そうじゃ」
竜子が頷く。
「どちらにしろ……」
「どちらにしろ?」
「ご近所迷惑だからやめようね?」
太郎が笑顔を竜子に向ける。
「!」
竜子がビクッとなる。
「ね?」
「あ、ああ……」
竜子が首を縦に振る。
「良かった」
太郎も首を縦に振る。
「た、太郎のやつ、だんだんとママさんに似てきよったのう……」
竜子が小声で呟く。
「なんか言った?」
「な、なんでもない!」
竜子が首を左右にぶんぶんと振る。
「そう」
「そ、そうじゃ……」
「まあいいや」
「う、うむ、さあ、帰ろうではないか!」
「こんにちは……将野竜子さん、将野太郎くん……」
校門で制服を着た女の子が挨拶をしてくる。
「あっ……」
「むっ……」
竜子はその脇を黙って通り抜ける。
「ちょ、ちょっと、まさかのスルー⁉」
「い、いや、子どもに声をかけてくるなんて不審人物じゃと思ってな……」
「子ども同士でしょうが!」
「知らない人とはお話をするなとママさんから言われておるからな……」
「し、知らないって、まさか忘れたの、この顔を⁉」
女の子が自らの顔をビシっと指差す。竜子がそれをじっと見つめる。
「……」
「………」
「…………」
「……………」
「………………」
「ず、随分と長考するわね……」
「……ああ!」
「や、やっと思い出したようね……」
「シエラレオネ!」
「伊吹玲央奈よ! なによ、シエラレオネって!」
「西アフリカの国じゃ」
「ア、アフリカ⁉」
「分かりやすく言うと、ギニアとリベリアの間じゃな」
「ピ、ピンと来ないわよ! 悪いけど! ていうか、国名の時点で違うでしょ!」
「まあな……この間、道場で会ったの」
「そうよ、対局したでしょう」
「どうしてここが分かったんじゃ?」
「道場の受付で住所を記入していたでしょう。本当はいけないことだけど、特別にそれを見させてもらってね……この住所だったらこの小学校に通っているはずだと思って……読みが当たったわね……」
「……家に直接来れば良かったのではないか?」
「いきなり訪ねるのは失礼でしょう」
「いや、いきなり学校に来とるじゃないか……大体じゃな……」
「大体?」
「ワシがお主のように私立の小学校に通っていたら、どうするつもりだったんじゃ?」
「はっ⁉」
玲央奈がハッとなる。竜子が呆れる。
「気が付かなかったのか……」
「け、結果オーライよ! それよりも貴女!」
玲央奈が竜子に向かって右手の手のひらを広げる。
「な、なんじゃ?」
「道場になかなかやって来ないと思ったら、最近は将棋バトルを荒らし回っているみたいね……アカウント名、DKDって、貴女のことでしょう?」
「‼」
竜子が驚く。玲央奈がフッと笑う。
「やっぱりね……」
「な、何故に分かったんじゃ?」
「いくつか対局を見させてもらったわ――将棋バトルには観戦機能もあるからね――短期間でメジャーな定跡や戦法をほとんどマスターしたみたいだけど……どこか独特な雰囲気の指しまわしでピンときたのよ」
「ほ、ほう、なかなかやるのう……」
「当たり前でしょう? 私を誰だと思っているの? 未来の名人よ」
「未来の名人か……ならばワシは竜王じゃ!」
「! 竜王とは、お、大きく出たわね……まあいいわ。そろそろまたリアルで対局したくなったんじゃない? これをどうぞ……」
「うん? チラシ?」
「将棋の大会よ。関東地方で一番強い女子小学生を決めるの……優勝は私がもらうつもりだけど、貴女が出ない大会で勝っても意味がないわ……当然参加するわよね?」
「ほう、面白い……やってやろうではないか!」
竜子がチラシを力強く握りしめて笑みを浮かべる。
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