「す、すごいね、竜子、2連勝だよ!」
太郎が興奮気味にママに話しかける。
「ええ、そうね」
「初めての大会だというのに、緊張した様子もないな……良い滑り出しだ」
パパがうんうんと頷く。
「それでは、Hブロック、第三局の開始です」
「またまた後手かの……」
竜子が鼻の頭をこする。
「お願いします」
「あ、お願いします……」
竜子が対局者に頭を下げる。
「……2連勝とは調子が良いみたいね」
「……どうも」
「見たところ、大会は初めて?」
「そうじゃな」
「やっぱり……」
「どうしてそう思ったんじゃ?」
「……駒の持ち方」
「え?」
「少したどたどしいから」
「ふっ、まだまだ慣れてはおらんの……」
「この大会に出てくるのに……ちょっと意外ね」
「主に将棋バトルの方ばっかりじゃったからの……」
竜子がスマホを操作する振りをする。
「ああ、そういうこと……」
対局者が頷く。
「納得いったかの?」
「ええ、負けられないってこともね」
「は?」
「駒もろくに触ったことのない子には負けられないわ」
「……駒を沢山触った方が良いのかの?」
「それはそうでしょう。経験が全然違うわ」
「ほう……それはそれは!」
「むっ⁉」
竜子の鋭い一手に相手の目の色が変わる。竜子が笑みを浮かべる。
「どうかのう?」
「くっ!」
「ほい!」
「ちっ!」
「それ!」
「……『宇都宮の鈴木』と呼ばれたあたしをここまで追い詰めるなんて……」
「また沢山いそうな異名じゃな……」
「……ただ、まだこれからよ?」
「なに?」
「『宇都宮ギョーザ』のように包み込んであげるわ……!」
「もはやゲームですらなくなったの……」
「え?」
「いやいや、こちらの話じゃ……」
「と、とにかく、勝負はここからよ……!」
「⁉」
「……」
「………」
「………負けました」
「はい、こちらは将野さんの勝ち。将野さん、3勝目です」
「……包み込まれそうになったが、その前になんとか包囲網を打ち破れたの……」
その後、竜子たちは席を移動する。少しの休憩時間を置いてから係員が告げる。
「それでは、Hブロック、第四局の開始です」
「またまたまた後手か……」
竜子が苦笑する。
「お願いします……」
「あ、お願いします……」
竜子が対局者に頭を下げる。しばらくして対局者が口を開く。
「……調子が良いみたいね」
「……おかげさまで」
「ただ、あなたの連勝もここまでよ」
「うん?」
「このわたし、『甲府の伊藤』の前にあなたは敗れる……!」
「またしても一杯いそうな異名じゃな……そういうやつしかおらんのか?」
伊藤と名乗った対局者を竜子は冷ややかに見つめる。
「決勝トーナメントに向けて、落とせない一局……『風林火山』戦法で行くわ!」
「ふ、風林火山戦法じゃと⁉ こ、こけおどしじゃ!」
「ふっ、試してみたらどう?」
「ふん!」
「ふふっ……」
「か、堅い守りじゃな……!」
「『山のように動かず』……不動の守備よ」
「くっ……なんとかペースを……」
「ふふふっ……」
「ペースを掴めん……!」
「『林のように静かに』……慌てないことが大事よ……と言いつつ!」
「! ペースが変わっただと!」
「『風のように素早く』……チャンスと見たら一気に……!」
「‼ むうう……」
「『火のように侵略する』……さあ、追い詰めてきたわよ?」
「……風林火山には続きがあるんじゃぞ?」
「え……?」
「それ……!」
竜子の一手に伊藤が驚く。
「こ、この手は⁉ ど、どこから飛び出したの⁉」
「『陰のように悟られず』……相手に知られてはならんからな」
「くっ……!」
「『雷のように激しく』……好機は逃さない……!」
「ちっ……!」
「……」
「……ま、負けました……」
「はい、こちらは将野さんの勝ち。将野さん、4勝目です」
係員が確認して告げる。
「ふう……相手の変化にも落ち着いて対処することが出来たの……」
竜子は一息つきながら席を移動する。これで4連勝である。
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