私がそう望んだのはあの時だった。
妖精王の娘として生まれ、私は小さい頃からいつもこの大きな城でいつも一人だった。
いつも自分の部屋の窓からいつも変わらない国を眺めていて、少女は一度も国の外を見たことがなかった。
その窓はとても高い所にあり、国の外まで見えないが、国の向こうにはとても大きな木があった。父上にあの木はこの領域の聖域で決して立ち入ってはいけないと言われていた。
外へ出さないのに、どうしてそんなことを……と思っていた。
あの木を何度も何度も見てきてある感情が心に浮かんだ。
それは微かな懐かしいという感情だった。
何だろうこの気持ち……。
それは、風の神から生み出された妖精種やエルフ種や獣人種の初めはあの巨大樹から始まったのだから……。
その感情を抱くのは無理もないことだ。
だが、まだ幼い彼女にとっては、その気持ちがあの巨大樹の元へ行って見たいという衝動へ強く変わっていった。
そして少女は窓を飛び出し、空へ飛んだ。
妖精種は透明の羽を持ち全種族の中で飛べる種族の一つだ。妖精種は風の力や治癒を得意としている。
初めての感覚に少女は無我夢中であの木へと向かった。少し進みあの木がどんどん大きくなっていき、いつの間にか周りには緑に光る玉が辺りに漂っていた。
これは聖域から漏れ出した力……。
あの木の畔には透き通った湖がある、少女はそこへ降り立った。湖の水辺にはあの緑の玉が集まっている一本の木があり、湖の向こう側を見ると人影が見えた。
私の他にも人がいる!?
彼女は少し疑問に思ったが何の躊躇もなく湖を辿って人影へと近づいて行った。
あの子も私と同じにここへ……。
彼女は少し歩いてその形がはっきりとわかる距離まで進んだ。見えたのは私と同じくらいの男の子だった。
私はその少年に近づき、私は……。
「何でこんな所にいるの……」私の声に反応してその少年は振り返り、私を見て驚く表情でじっと見つめてきた。
「なっなんで妖精がここにいるんだ」と少年は慌ててそう言った。
「君こそ何でここにいるの……」と私は言葉を返した。妖精って、自分だって……。と彼女は少年の外見を見渡した。
だが、少年には妖精種の特徴でもある透明な羽がなかった。
彼女はその疑問を問い掛けようとしたが、先に少年が……。
「僕はここの聖域を守っている者だ」とありがたいことにそう言ってくれた。
しかし、少女はそんなこと信じるわけがなかった。
「守る者?君が…じゃあずっとここにいるの?……」
「そうだ…」と普通に言い、ここにはもう3年もいると答えた。3年間の間ずっとここにいたと聞いた、彼女は自分と同じ境遇の者がいたと喜んだ。
なぜなら、同じ孤独だからだと少女は心の中に暖かさを感じた。
そして彼女は自分のことも少年に話した。
「あッ自己紹介がまだだったね。私はシュナ、シュナ・リアミリティ。見ての通り妖精だよ」と彼女は少年の顔を見てニッコリとほほ笑んだ。
「ぼっ僕は、シゼル・レギレス……風の神」と照れながら話した。
少しオドオドした少年だったが、この会話で硬かった表情がだんだんと緩んで行った。
「風の神ってすごいね、シゼル!」と彼女はとっても幸せそうにシゼルと話した。
今まで自分と同じ年の人とは話したことはなく、彼との会話は心から楽しいと彼女は感じた。
そして彼女は毎日シゼルがいる聖域へと通った。
暑い日も雨の日も寒い日も雪の日も…二人には時間は余るほどあった。お互いの知っていることを話し合うのが2人にとってとても楽しい時間だった。
そして時が経つにつれシュナはシゼルに、シゼルはシュナに好意を持つようになった。
だが2人はそのことをお互い言い出せずに時が経った。
そしてある日私はいつものように窓を開け、聖域へと飛び出すその時だった。
「あれはっ!」空中に突如!、赤い魔法陣が無数に現れた。
そして一斉にその魔法陣が展開され、一瞬にして国は紅蓮の炎に包まれた。
「まっまさか、紅蓮の魔王の襲撃…」私は魔法陣の後ろに何千人もの影が炎に包まれ、浮かんでいた。
彼女はそれを見て、はっきりと紅蓮の魔王軍だとわかった。
そんな突然!……そうだ逃げないと……。
「あの数々の魔王の中で最強と言われている紅蓮の魔王がこの国に……」
そして無数の魔法陣が宮殿へと向いた。
今度はこの城にっ!……。
「なっ」私は部屋の扉を開け、奥へと走った。
そして同時に無数の魔法陣から紅蓮が放たれ、城の外壁は簡単に破れ、放たれた紅蓮は城の中へと入っていた。
ドカーンと宮殿全体に衝撃が走った。
「わぁぁぁぁっ!」宮殿の大きな揺れでシュナは螺旋階段から転げ落ちてしまい…一番下まで落ちていった。
その状況は重症だった。
彼女はもう動くこともできなくなってしまった。
「だっ、大丈夫…絶対に…シゼルが……たっ…たす…けっ…に……」シュナは唯一動かせる口で願いを口にし、燃え盛る炎の中で気を失ってしまった。
そして妖精の国は全て炎に包まれ、妖精たちは絶望へと進み始めた。
そのちょっと前の聖域では……。
「はッ――この感じは、大変だ!」
シゼルは何かを感じ、まっすぐ妖精の国へと向かった。
そして妖精の国へと近づき、空に上がる黒い煙とその下には真っ赤な紅蓮の炎が国中を包んでいた。
すでに魔王軍はもう姿を消していた。
その光景を目にしたシゼルに真っ先に頭に浮かんだのはシュナの姿だった。
「シュナ!…今行くからっ!」シゼルは崩れかけている宮殿へと入り、シュナを探した。
「シュナァァァッ!シュナァァァッ!」シゼルは名を叫びながら必死に探し回った。
そして最上階に上る階段の下で倒れているシュナを見つけた。
「シュナッ、シュナッ!お願いだ!目を開けてくれ!」シゼルは倒れているシュナを抱えた。
抱えるシゼルの手から漏れ出し、床に滴るのはシュナから流れる真っ赤な血だった。
「シゼル……やっぱり来てくれた。私の思った通り……」シュナは口を動かし、掠れている声でシゼルに語り掛けた。
「シュナもうそれ以上喋るな。傷口が広がるぞ……」シュナは階段に転げ落ちる際、飛んできた宮殿の破片が腹部を貫いた…致命傷だった。
何とも偶然だったが、それは不幸と言うしかなかった。
シュナの状況を見て、シゼルの目から涙が流れた。
それを見て、シュナは……。
「なか…ないで……私は嬉しいいんだよっ……、君が、来てくれたことが……それ……だけで」シュナも目からも涙がこぼれた。
今の彼女は満足だった。
自分で願い……それを求めた人が、今目の前にいる……だたそれだけで……。
「シュナ……大丈夫。絶対に助ける」シゼルはシュナの手を握った。
今のシゼルの思いは…シュナを死なせたくないと諦めずにその手を掴んでいた。
これは、たしかな愛だと……。
「ありが……とう、やっぱり君を信じて……よかっ……た……」右手をゆっくりと動かしシュナはシゼルの頬へ手をかざした。
「そして……君を好きに……なってよかっ……た」
その瞬間、シゼルの頬に当てられた手はサっと下がり、シュナはゆっくりと閉じ、涙が下へと流れ、目を閉ざした。
今、シュナに死が訪れた。
シュナが目を閉ざした瞬間、シゼルの涙は止まることなく流れ続けた。
「シュナァァァッ!シュナァァァッ!シュナァァァァァッ!!」もう、自分を制御することができるひたすらシュナと名を叫んだ…。
大切な人を守れなかった。
自分は神として心を持つ者としてこんなことはあり得なかった……。
信じたくない……シュナが死んだなんて……信じられるわけがない。
シゼルの中にその言葉が繰り返し流れた。
そして少しの間、声が枯れるまで泣き叫んだシゼルはシュナを抱き、聖域へ行こうとした。
その時だった。
消えていた紅蓮の魔王軍が空に現れ、その中から紅蓮の魔王らしきオーラを放つ者が現れた。
シゼルはその者達を目にした瞬間…怒りの感情が沸き上がってきた。
「よくも、よく、妖精の国を!よくも、よくもよくもよくもぉぉぉぉぉッ!シュナをぉぉぉぉッ!」その怒りの表情は目を反らすほどの剣幕だった。
その瞬間、シゼルの悲しみという気持ちが怒りへと変わった。
シゼルはシュナをゆっくりと寝かせ、立ち上がった。
そして目を瞑り、右手を聖域の方へ向けた。
「我に力を…神器《翠風旋突(シズゼリア)》!」と叫んだ。
それと同時に聖域の泉の小振りの木が光り出し、だんだんと光が強くなり消滅した。
そこに残っていたのはとても美しい装飾が施されている槍が刃を上にしてそこに浮いていた。これが、風属性の中で最強の神器…。猛スピードで上空に上がり妖精の国へと向かった。
そしてシゼルの方へ飛び、ゆっくりとシゼルの手へきた。
するとシゼルは前へ槍を突き刺した。
「神の怒りとともに死で償ってもらう。全てを斬りさけ聖風(シットウィード)の舞(ダンス)!」
するとシゼルが唱えた瞬間、魔王軍の周りに風の魔法陣が無数に現れ、聖風が展開された。
最上級の魔法であるが、紅蓮の炎と風との戦いの勝負は誰もがわかっていることだった。
魔王は紅蓮の炎を操り、聖風を焼き払った。
「紅蓮の魔王……」シゼルの怒りは妖精の国と自分の大切な人の2つを奪われた怒りが2倍に膨れ上がっていた。
「僕は神…失格だ…だけど絶対に同じ過ちは繰り返さない」シゼルは槍を天に向けた。
「神器…解放!」
すると神器が光り出し、シゼルの周りに風の力が集まってきた。
その瞬間この国の周りの森が騒めき始めた。
そして一本一本からその木にある力の結晶が出てきて全てあの神器へと集まっていた。
この神器には全ての風の力を吸収して放つ力を持っている。
この神器解放で風属性だったのが、風と光となった。
その力で僕は……。
「神の力にて、消滅せよッ!!」
その瞬間、全ての力が魔王軍に向けて放たれた。
その力は魔王軍と魔王の全てを包み、そして純白の光とともに魔王軍は消滅していった。
その光景を確かに確認したシゼルは「はぁ~…よかった…」とその場に座り込んで、深い息を吐いた。
だが、すぐに立ち上り、ゆっくりとシュナに近づいた。
「シュナ……今すぐに」とシゼルは何かを唱えた。
そしてすぐに2人は光に包まれた。
んっ……何っ……私、どうなったの?
「ここはどこ……」シュナは気が付くとベンチに座っており、目の前にはきれいな噴水があった。
辺りを見渡し、自分には見覚えがないと思った。
だが、その場所はとても心が落ち着く場所だった。
その時、噴水の奥から足音が聞こえ、人影が近づいてきた。
「誰?」その人影はゆっくりと近づいてきた。
その人影はだんだん自分がよく知っている人物の形に変化していった。
「シゼル?……シゼル!!」シュナはその人影がシゼルだとわかった瞬間、すぐさま立ち上りシゼルへ走っていき、二人は抱き合った。
「シュナッ!」
シゼルはまた生きているシュナを感じて、また涙を流した。
「シゼル、会いたかった」とシュナはシゼルの胸で涙を流した。
「シュナ、実は君は――」とシゼルはその前のシュナのことを言っておかないと分かっていた。
だが……。
「知ってるよ。死んだんでしょ」シュナは自分が死んでいることを分かっていた。
「すまない。僕がもっと早くに気付いていれば」シュナはシゼルの頬に手を当てた。
「そんなことないよ。シゼルはここにいるってことは魔王軍をやっつけたんでしょ……」
「あぁ……」
「だったらよかった。うん!」
シュナはシゼルから離れ、くるりと後ろを向いた。
「でもシュナ……君は死んでしまったんだ。だから僕が蘇らせる……」
その言葉を聞いて、少し驚くようにシゼルの方へと振り返った。
そしてシゼルは初めて、シュナに頼み事をした。
「君だけでも生きていてほしいんだ。そして新しい妖精の国を……」
「それがあなたの願い…」シュナはじっとシゼルを見つめた。
「あぁ、そうだ」
それを聞いた、シュナは少し照れるように後ろを向いた。
「仕方ないな~君の願いだったら聞くしかないよね……」とシゼルに満面の笑みを向けた。
「……ありがとう」とシゼルは安心した顔でシュナに言った。
するとシュナはゆっくりとこっちに歩いてき、顔を近づけた。
「もう準備はできてる。いいよやって……」とシュナはシゼルの首に腕をかけて近くまで寄り添った。
「いくよ……」シゼルはシュナの頭に手を置き、お互い目を瞑った。
そして二人は純白の光に包まれた。
そして10年の年月が経った。
滅びの道へと進んでいた妖精の国は前と変わらないくらいに再生した。
風の神は変わらず、この領域全体を見守っている。
そしてその存在がもう一人現れたことをあの二人以外は誰も知らない物語だった。
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