遺跡内のダンジョンを探索しながらジェイは、ボソっと呟いた。
「あいつら、覚えとけよ――」
アルは、呆れたように言った。
「ジェイ……お前、まだ今回の人事を根に持ってるのか?」
「あたりめぇだろっ!このダンジョンの魔術調査から成果を掘り出して上層部に目に物見せてやる」
はたとジェイは、背後の気配に口を閉じ、アルに目配せした。そっと忍び寄りの柱の陰の気配を突き飛ばした。
「ジェシカ……っ!」
そこにいたのは、ジェシカだった。
「何でお前がここに……俺達の後を付けて来たのか?」
突き飛ばされたジェシカは、立ち上がるや言った。
「ジェイ兄、ここを魔術調査でしょ。魔術なら任せて……」
「ジェシカ、いいから帰れ!」
「おいジェイ、ジェシカ……周りっ!」
割って入るアル、見ると何者かが取り囲み、こちらに迫って来ていた。
「ジェシカ、話は後だ」
ジェイ達三人は、互いの背を寄せ合いながら、周囲に身構えた。現れたのはヒト型の光だった。その顔が見てギョッとするジェイとアル、自身とそっくりの次々に複製を増殖させる光に足場に刻まれた魔方陣に舌打ちしながらジェシカが言った。
「『トロイの木馬』だ」
「トロイの木馬? お前の魔術書にあったウイルスモンスターか?」
「そう、偽装ルートを装ってトラップを踏ませてハッキング、侵入者の情報を読み複製を作って襲わせるタイプの奴」
「上等だっ!このダンジョンごと引っ繰り返してやる」
ジェイは、ジェシカに言った。
「ジェシカ、このダンジョンのセキュリティーホールを探して魔術コードを書け。このダンジョンにゼロディアタックを仕掛けてやるんだ」
そして、時間を稼ぐべくアルとともにウイルスモンスターに飛び掛かった。
「セキュリティーホール、早く見つけなきゃ……」
ジェシカは、慌てた手付きで開こうとした魔術書が滑り落ちた。アルが駆け寄った。
「ジェシカ、いつも通りやれって。なんだかんだ言ってジェイは、ジェシカのことを認めてるから」
ジェシカは、うなずき一呼吸入れた後、一気に情報魔術をかけ始めた。
「魔術の劣化コピーなんかにやられるかよ!」
ウイルスモンスターを全て薙ぎ払い、複製が再生成されるまで時間を稼ぐや、ジェイはアルに警戒を任せてジェシカのもとへ走った。
「ジェシカ、どうだ?」
「突貫で組んだゼロディだけど」
「よし……」
魔剣のグリップを突き出すジェイ。
「やるぞ」
黙ってうなずきその上に手を重ねるジェシカ。そして、息を合わせ剣先を地面の魔方陣に突き立てた。赤い光が魔剣を突き立てられた魔方陣から溢れた。
「魔術セキュリティーのファイヤーウォールだ」
呟くジェシカにジェイは、アルが立ちはだかる先のウイルスモンスターを確認した。複製の再生が終わりかけていた。
「アル、そっちは任せた。ジェシカ、破るぞ」
アルに防御を託し、力任せに剣先を押し込むジェイ、その上からジェシカが呪文を唱え、ゼロディアタック用に組んだワーム魔術を解き放った。
異変が起こった。複製の再生成間際にあったウイルスモンスターが同士撃ちを始めたのだ。
「かかった!」
ジェシカの肩を叩くジェイーー今やダンジョンの魔術制御は、ジェシカのものだった。互い撃ちを続けるウイルスモンスターは、次々に数を減らし、やがて最後に一匹となったところをアルに一刀された。
閃光と轟音を放ちながらウイルスモンスターは、完全に姿を消した。
「ジェシカ、どうしてもついて来るのか?」
ウイルスモンスターを排除した後、ジェシカを前にジェイは溜息をついた。
「行くっ。だって私、もう……」
うつむきながらジェシカは、言った。
「もう、一人は嫌……」
横でアルが肩をすくめ、ジェイは根負けした様にうなずいた。
「分かったよ……」
ぱっと表情に花を咲かせるジェシカ。
「たが、言う事は守れよ」
すかさずジェイは釘を刺し、三人はダンジョンのさらに奥へと進んで行った。
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