クーデター騒動が一段落したある日、新たに下った辞令にジェイは、肩を落とした。
「辺境地への窓際任務だと。島流しもいいところだ」
新たに編成されるエリート騎士団への配属を目論んでいただけにジェイの落ち込みは激しかった。
「なぁアル。結局、俺達なんかがいくら努力しても、エリートの道は歩めないってことなのかな……」
ジェイが相方のアルに愚痴っていたとき、妹ジェシカがハイテンションで駆け抜けて行った。
「任務先の辺境地が魔術師にとって聖地みたいな場所なんだと。あのバカ妹……」
ジェイは、イライラが限界に達し、荷造りにいそしむジェシカを捕まえ、口論を始め出した。そんな二人を横目にアルは、考えた。
先日のクーデター騒動で実証されたように時代は、剣技から魔術へと移行しつつある。時代遅れの騎士団制度にも大胆な変革が必要だが、自らの存在意義を否定するようなイノベーションを表立っては、出来ない。
伝統の剣技と革新の魔術を上手く融合させる方法を中央から距離を置いた目立たない場所で模索する必要がある。
「剣と魔法を喧嘩させず融合させる。それが出来るのは……」
アルは、口論に夢中のジェイとジェシカを見て、密かに笑った。
その翌日、ジェイは新たな任務に与えられた膨大な物資に呆然とした。
「おいアル、どうなってんだこれは」
国内にまだ数隻しかない飛行船まで用意されていたのだ。アルは、肩をすくめて言った。
「全部、使っていいらしいよ」
「使っていいってお前、俺達が赴くのは辺境への窓際任務だぞ」
甲板ではしゃぐジェシカを横にジェイは、首を振った。
「どうなってるんだ」
ジェイが首を傾げる中、飛行船は任務先へと飛び立って行った。
遠征地へ向かう中、ジェイは憂鬱だった。任務先のボーアは、剣の世界では起こらないことが起こると剣士仲間から嫌厭されていた場所だった。
そのボーアに近づくにつれジェイは、奇妙な感覚に襲われるようになった。それは、まるで別世界を行き来する様な感覚だった。
現地に着いてからも違和感が抜けないジェイにジェシカは聞いた。
「どうしたの?ジェイ兄」
ジェシカは、何でもないと首を振るジェイから強引に話を聞き出し、食い付いた。
「別世界に!?」
「だから、そんな感じがするっていう、ただの錯覚・・・・・・」
「凄い!それ量子魔術だ」
ジェシカは、魔術書を取り出し、広げた。
「あった。多世界解釈、並行する複数の別世界で同時並列に魔術計算を行なう高等魔術・・・・・・そんな凄い人が身内にいたなんて」
羨望の眼差しのジェシカにイラつくジェイ
「だから、ただの錯覚だ!。魔術はもういい。俺は剣士だ」
「違う!」
首を振るジェシカ
「ジェイ兄は、魔術師だ。大魔術師になれるよ!」
「俺が、大魔術師……?」
固まるジェイの手をガシッと掴むジェシカ
「私、ジェイ兄が大魔術師になれるよう全力で応援するよ」
「おい、ジェシカ……」
聞く耳持たず、大張り切りで去って行くジェシカ。一人取り残されたジェイは、ふと後ろから聞こえる笑い声に振り返った。
「おいアル! 何が可笑しい?」
柱の陰のアルを見つけ、ジェイは、拳を振り上げて力説した。
「アル……いいか、俺は剣士だ。先代から脈々と築かれて来た伝統を重んじる剣士。そのために辛い任務や訓練にも耐えて来た。それを何だ。魔術師? あんなオタクだ腐女子だで流行ってる訳の分からないもの、俺は……」
「そう言う葛藤から新たに生まれるものもあるんだろ」
憤るジェイの肩をアルはポンと叩き『頑張れよ、大魔術師』と、冷やかし気味に去って行った。
「おいアル!……もう、何なんだこの新天地はっ!」
新天地ボーアでジェイは一人、地団駄踏み続けた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!