魔国は快進撃を続けていた。魔王AIの前に立ち、うなずくジェシカ
「このままうまく行けば、きっとジェイ兄も分かってくれる」
だが、魔王が新たに出した指令にジェシカは、我が目を疑った。
「ちょっと、それどういうことよ!」
そのとき轟音が響いた。騒ぎが起こり駆けつけたハンスは、魔王AIの前で突っ立っているジェシカを不思議に思った。
「ジェシカ、どうかしたの?」
やがて、魔王AIが出した指令の中身を悟り、ハンスは剣を引き抜いた。
「ジェシカ、魔王AIの指示は絶対なんだよ」
牢の中のジェイは、外の喧騒に辺りをうかがった。
「ジェイ」
牢の外からかかる声にジェイは、はっと息を飲んだ。
「アル、サラ!」
アルは、牢の鍵を開けジェイを解放した。
「アル、一体・・・・・・」
「ジェイ、話は後だ。ジェシカが危ない」
外では魔国中枢への突入作戦が展開されていた。突入部隊に混じったジェイは、施設の奥に進みながら聞いた。
「ジェシカが危ないってどういうことだ。もうあいつは用済みなのか」
「いや、どうやら魔王AIの摘出リストに入ったらしいんだ」
「摘出リスト」
聞き返すジェイにアルは、続けた。
「あの人工知能は常に人類の未来を考える。過去の膨大なデータに照らし、その人物が将来的に最大多数の最大幸福に反する可能性があると考えれば、例え非がなくともその人物を消すんだ。発症前に摘出する遺伝子検査みたいにね」
ジェイは、聞きなれない言葉に首を傾げながらも根本的な疑問を尋ねた。
「アル、何でお前、そんな事が分かるんだ?」
「あの人工知能を作ったのが僕達、古代人だからだよ」
思わず絶句するジェイにアルは、続けた。
「ジェイ、僕ら古代人はね、生き残ったんだよ。魔王AIに駆逐され散り散りになりながらもね。絶滅に瀕しても、新しい活路を開き生き方まで変えて適応するーーそれが人類だ」
アルは、そう言い切ると中枢突撃への最終準備に入った。
「ジェイ」
サラが、後ろからそっと剣を差し出した。
「新しい魔剣……というか本当は科学だけどね。ジェシカを助けるんでしょ」
ジェイは、黙って魔剣を受け取り、やがて静かにうなずいた。
突撃の合図とともにアルは、魔王AIの間の入り口を爆破した。
「きゃっ」
爆風に跳ね飛ばされ気を失うジェシカ、
「ジェシカっ!」
駆け寄るジェイにハンスの早業が襲った。
「そう同じ手を食うかよ、ハンス」
ハンスの剣を受け流しニヤリと笑うジェイ
「フフ……そう来ないとね~」
ハンスも笑い返し、二人は対峙した。
一方、魔王AIの前には魔国兵と壮絶な斬り合いを掻い潜り立つアルがいた。
「やぁ魔王AI」
アルは、自身の魔剣を突き刺し、対魔王用プログラムを放った。
「古代人を代表して礼をさせてもらうよ」
突き刺さる魔剣から破滅光が魔王AIに走り出した。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
ふと、意識を取り戻すジェシカ、顔を上げ、自身の前に立つ人影に息を飲んだ。そこには、ハンスの剣から庇うように立ちはだかるジェイの背中があった――
「ジェイ兄」
ジェシカは、涙を浮かべた。
アルの放った対魔王プログラムにより、施設が崩れ出す中、ジェイとハンスは互いに剣をぶつけ合った。
「ジェシカ」
ハンスは、後ろで縮こまるジェシカに言った。
「キミは魔王AIの摘出リストに入ったんだ。高い確率で人類の害になる。そうなる前に未然に取り除かれるべきなんだ」
ジェイは、怒鳴って返した。
「でたらめ言ってんじゃねぇ」
「でたらめじゃないよジェイ、人工知能のデータで出てるんだ」
「じゃ何か?ハンス、その人工知能の摘出リストとやらにお前が載ったら、命を差し出すのか?」
「当然だろ。人工知能こそ人類の絶対神――喜んで生け贄になるね」
「話にならねぇ」
ジェイとハンスは、間近で剣を弾き合い距離を取った後、一気に勝負に入った。鈍い金属音が響き渡り、地面をハンスの剣が転がった。
腕を押さえるハンスの脇を魔国兵が固め、剣を突き出すジェイの周りもアル達が固めた。アルは、そっとジェイに耳打ちした。
「ジェイ、ここはもう持たない。引こう」
互いに警戒しながらゆっくり身を引き合う二つの剣士グループ。その別れ際、ハンスはジェイに言い残した。
「ジェイ、これだけは言っておく。結果としては、人工知能が正しいんだ」
「アル、先に行っててくれ」
撤収を急くアルを目配せで去らせた後、ジェイはうなだれるジェシカに歩み寄った。
「ねぇジェイ兄……」
ジェシカはポツリと言った。
「私、この世界にいちゃダメなの?」
ジェイは、逆に聞き返した。
「もし、そうだったらお前、どうするんだよ?」
「ここに残って、消えるよ……」
消えそうな声で応えるジェシカにジェイも言った。
「じゃぁ、俺も残るよ」
ジェシカは、叫んだ。
「ジェイ兄は、関係ないじゃないっ!私はこの先……」
「この先がどうであれ俺とお前は家族だ。歩む道も同じなんだ」
ジェイは、愚図つくジェシカの手を奪うように走り出した。
「ジェイ兄、分かってる?この判断・・・・・・間違ってるんだよ」
涙でぐちゃぐちゃになりながら、腕を引っ張られるジェシカ
「間違ってても俺とお前は、家族なんだ。当然だろ」
ジェイは、そう答えジェシカとともに去って行った。
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