「おいアル、どうなってんだ」
突如、反攻に転じた魔国にジェイ達は、大混乱に陥った。情報が錯綜する中、一人が叫んだ。
「魔女だ」
周囲に動揺が走り、部隊は総崩れとなり始めた。
「おい逃げるな、くそっ……」
必死に突破口を探るジェイにアルの叫び声が刺さった。
「ジェイ、後ろっ!」
振り返り息を飲むジェイ、光の魔術が雪崩の様に襲い掛かり、周囲の全てがなぎ倒されていった。
部隊が散り散りになった丘で剣を支えに立ち上がるジェイ
「くそっ……」
死屍累々の丘を一人、脚を引きずりながら本隊を目指した。全ての情報が、筒抜けだった。
まるで上から見下ろしているかの如く、先手を打たれていた。アルともはぐれ、フラフラになったジェイは、丘の先に本隊が魔国に占拠され黒旗に取って変わられているのを見て、膝から崩れ落ちた。
自らを包囲する魔国兵の中にハンスの姿を見つけ、悔しさに顔を歪めながら気を失った。
ジェイが気が付くとそこは、魔国の牢の中だった。
「ジェ~イ」
牢の外から見下ろすハンスにジェイは、毒気づいた。
「くたばれハンス」
ハンスは、苦笑すると牢の鍵を開けさせ後ろからある人物を紹介した。その人物にジェイは、思わず目を見開いた。
「ジェシカっ!」
「ジェイ兄っ!」
思わず二人は抱き合った。涙の再会だった。
「ジェシカ・・・・・・良かった。てっきりお前が死んだものだと・・・・・・でも、どうしてここに」
ジェイは、はたとジェシカの黒服を見て、彼女を突き放した。そして、全てを悟り物凄い形相でハンスを睨んだ。
「ハンス、お前、ジェシカに何たらしこみやがった!」
「ジェイ兄、聞いて」
ハンスが去っていく中、残されたジェシカがジェイに魔国の意義を説いた。魔王AIが完全であること。人類は、魔王AIに最適化されるべきであること。今は、その過渡期であるということ。
「ジェシカ」
ジェイは、黙ったままジェシカの話を聞いていたが、やがて、言った。
「俺は、お前が何を言ってるのかさっぱり分からない」
「ジェイ兄、大丈夫だよ。今は多少の犠牲が出てもこの聖戦を乗り切れば・・・・・・」
パンっと乾いた音が牢に響き渡った。手を振り上げたジェイが大声で怒鳴った。
「大勢がなくなってんだぞ。お前、分かってんのか?」
ぶたれた頬を押さえながらジェシカも怒鳴り返した。
「ジェイ兄の分からずや!」
しばらく睨み合った後、ジェシカはジェイに背を向けた。
「分かったよ。ジェイ兄がそこまで言うなら私が正しいってことを分からせてあげる。それまでそこで見てなよ」
そういい残し、牢をあとにした。
「ジェシカ、昔のお前に戻ってくれ」
冷たい牢の中で一人、頭を抱えるジェイだった。
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