素っ頓狂な声を上げるレイ。
ボルゴは何が起こっているのか分からすただただレイを見て驚いている。
そんなボルゴ以上に驚いているのは他でもなくレイ本人だ―。
「……は?えッ……ちょっと待って…。ボルゴ!今の声聞こえたよね?」
「何を言ってるんだ?何も聞こえていないし急にお前の様子が可笑しくなって驚いてるぞ俺は…。大丈夫か?」
「…いやッ!だって今絶対聞こえッ―<……主にしか我の声は聞こえんぞ。…“ドラゴンを宿す者”よ>
レイの言葉を遮って、レイにのみまた声が聞こえた。
「何を言っているんだ…⁉俺にしか聞こえない…?ドラゴン…⁉…どういう事??」
取り敢えずボルゴに助けを求めているがボルゴも何が起きているのか終始意味不明だ。
<そう慌てるでない…バカに見えるぞ>
「なんだコイツ急に!人をバカ呼ばわりしやがって…お前一体何なんだよ!」
「おいおい…。マジで大丈夫なのかレイ⁉」
レイにのみ話しかけるドラゴン。
正体不明の声と話すレイ。
レイの声しか聞こえないボルゴ。
摩訶不思議な事が起こっているこの光景は傍から見たらカオス―。
レイもボルゴも状況が飲み込めない。そんな二人を見て、ドラゴンは溜息をつきながらレイに話し始めた。
<…主よ、兎も角落ち着け。“千年ぶり”の宿し主がまさかこんな少年とは…我も驚いた…そして先行き不安だ…>
「お前マジで何なんだよ!急に出てきて俺の事バカにしてよ。」
<…まぁ良い。我は古代黒竜。我の力を体に宿すことは“魔力0”の人間にしか出来ん>
「魔力が0って…俺じゃん…!」
<だからそう言っておるだろ。“今”ではそうなってしまったが、昔の人間は“魔力がなかった”…。我を封印魔法で閉じ込めたのも人間だ>
「え…?情報が一気に出てきて混乱してるけど、お前封印魔法で閉じ込められてこんな事になってるのか?ドラゴンに千年前…それに魔力がどうたらって…どっかで聞いたような……あ!もしかして“千年決戦”とか言うのと関係してる…??」
<主何故それを知っている…⁉⁉>
レイの意外な言葉にドラゴンは驚いている様子だ。
「城にあった本にそんな話が出てきてたよいくつか。まぁ千年前なんて現実味無さ過ぎてよく分からないけど…やっぱ本当にあったんだ千年決戦…。」
<城にあっただと…?主、名は何という?>
「俺?俺の名前はレイ。言いたくないけど、レイ・“ロックロス”」
<――⁉主……あのロックロス家の人間なのか……⁉>
「知ってるのか?ロックロス」
<いやはや…何の因果か…。知っているも何も、千年決戦が起こったきっかけがロックロス家だ>
「――なッ……⁉そんな事本には書いてなかったぞ……」
<本がどんな内容かは知らぬが、その千年決戦で我は封印されてしまった。未だにロックロスは力を持っていたか……>
何かを悟ったように話すドラゴン。突如レイの体に現れたドラゴンにもここに至るまでの背景があるらしい。
レイとドラゴン……両者の小さな点が少しづつだが繋がりを見せてきた。聞きたことが山ほどあるレイだが、ここで一番シンプルな疑問をドラゴンに聞いた。
「話戻るけど……魔力0だからって何で急に俺の体に現れたの……??」
<食べたであろう?我を>
ドラゴンの想定外の回答にまたもや理解が出来ないレイ。
無理もない…。
まさかの答えが“食べたであろう”?……なんて誰も直ぐに理解出来ないであろう。
自分の人生でドラゴンを食べる人なんてこの世にいるのか?と強く疑問に思ったレイ。
思い当たる節が全くないレイは暫くフリーズしていたのでドラゴンが分かりやすく説明した。
<気が付いていないのか?さっき主が食べた“卵かけご飯”。あの卵が我だぞ>
「ええ~~~~ッッ⁉⁉俺ドラゴン食ったの⁉⁉醤油かけて⁉⁉」
そう。
さっきレイが食べた卵かけご飯の卵は、ニワトリの卵ではなく一つだけ混ざっていた“ドラゴンの卵”だったのだ―。
何故そんなものが鶏の卵と一緒に、しかもボルゴの農場にあるのだと鋭くツッコミを入れるレイだが、封印されたドラゴンは“魔力0の者と強く引き寄せられる”という何ともざっくりした答えだった。
つまり簡単に言うと、そういう運命だったのである―。
驚きの連続で疲れ果てたレイは一旦呼吸を整え冷静になり、今自分に起こっている事を一つずつ整理し確認するかの様に、ボルゴにも一連のやり取りを全て話した。
自分に起こっている事を一回言葉にして整理が出来たのかレイもボルゴもようやく事態が飲み込めた。
「――って事は要するに…レイ。さっき食べた卵でお前の体にドラゴンが棲みついて、そのドラゴンがこんな事になったきっかけがロックロス家……って事か」
「そうっぽい」
「もう一生このままか?」
ボルゴに聞かれ、レイも確かにと思い直ぐにドラゴンに聞こうとしたらドラゴンの方から教えてくれた。
<…方法は二つ。一つは、主が死んで我はまた別の宿主と出会うか>
「それはダメだろ…解決になってない」
<我も御免だ…今の時代魔力0など奇跡に近い。下手したらこの先二度と現れぬかもしれん。実質コレが最後のチャンスだ>
「最後のチャンスって、やっぱ何か方法があるのか?」
<…ある。もう一つは、我の“体”が封印されている“異空間”を見つけ出し取り戻す。コレが最善策だ>
「体が封印されてる?…異空間ってどこにあるの?」
<我も詳しい事は知らぬ。そもそもその異空間はロックロス家の古魔法だ>
「―でた!またウチかよ!…やっぱりろくでもない家系だったんだロックロス家って……」
「レイ。確かに普通の家系ではないが、先祖が皆悪者ではないぞ。先代の…レイの祖父母はこの世界を良くしようとしていた。結果人々も平和に暮らせているからなぁ」
「そりゃそうだけど……。キャバルみたいなのがいるとどうしても良い家系だとは思えん。その証拠に悪事が次々と出てくる」
ロックロス家…中でもキャバルには心底呆れているレイは、ドラゴンの話を聞き自分がそんな王家の血を引いていると思うと情けなく恥ずかしいとさえ思えてきた。
<主よ…何か知らぬか?異空間について>
「異空間ねぇ……あ!ちょっと待って!その異空間って“母さん”が飛ばされたのと同じなのか?ひょっとして!」
また小さな点が繋がったレイは目を大きくさせてボルゴを見た。
ドラゴンの体が封印されていると言う謎の異空間。それはレイも探し求める母親がいるかもしれない場所と同じなのではないかと。
憶測でしかないが、“ロックロス家”、“古魔法”、“異空間”。これだけ共通点があればほぼ同じ異空間だと思ってもいいだろう。
しかし、肝心の場所が分からなければ行き方も分からない。唯一の頼みであるドラゴンも異空間の場所を知らない様だ。
<主も異空間を探しているのか?ロックロス家のくせに>
「やめろその言い方!俺は今しがた王家から出てきた正真正銘の一般だ!俺とロックロス家の関係は母さんを消したと同時に俺の中でも消えた存在…一緒にすんじゃねぇ…!!」
<――⁉>
これまでの軽い感じから一転、ドラゴンは最後のレイの一言に凄まじい覚悟と決意を感じた。
この青年に何があったのかは知らないが間違いなく発せられたロックロス家への殺意―。
とても十六歳の子供が放っていい感情ではないが、ドラゴンはこの只ならぬ決意に一つの案が浮かんだ―。
<…主にも何やら事情があるみたいだが…差しつまるところ我と主の目的は異空間…そしてロックロス家。
これを機に手を組まんか?異空間を探すにもロックロス家を敵に回すのも危険な道だ。主の魔力ではゴブリン一体倒せん。互いの目的が達するまで我の魔力を主に貸してやろう。その代わり、我の体の封印が解けるまで主の体に棲ませてもらう。どうだ?利害は一致するであろう>
ドラゴンからの申し出にレイは微塵の迷いなく決断した。
「いいぞ!俺の体に棲まわせてやる!その代わりお前強いんだろうな?」
<生意気な小僧だ…。我はドラゴンの中でも頂点に君臨する黒龍ぞ。誰も我に勝てぬわ>
「でも封印されたんでしょ?」
<……ゔッ…!…>
痛いところを突かれたドラゴンは何も言い返せなかった。
出会ったばかりで互いに何も知らないレイとドラゴン。だが不思議な事に…昔から仲が良かった友達の如く自然と互いを受け入れられた。
ロックロス家に同じような目に遭わされたレイとドラゴンにはシンパシーの様な通じるものがあったのだろう。
魔力0の青年と封印されたドラゴン―。
出会うべくして出会った二者の壮大な物語がここから始まる――。
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