レイの宣戦布告で辺りは一気に静まり返った。
王家ロックロスへの悪口など言語道断。
ましてや宣戦布告ともとれるこの発言は冗談では済まされない。
王家への反逆罪に当たり重罪は確定だ。例えそれが元ロックロス家のレイであったとしても変わらないであろう。
しかしそんな事どうでもいいと思っているレイには関係ない。
遅かれ早かれロックロス家…キャバルをぶっ飛ばすと幼い頃から心に決めていたレイには無問題。
来るなら来いと言わんばかりに反撃の狼煙を上げた―。
静寂に包まれるフロア「10」……。
この沈黙を破ったのは笑い声だった―。
「ハーーーハッハッハッハッ!」
声の主はイヴ。
始めに断っておくと、イヴは決して笑いのツボが浅いわけでもなければ愉快な性格でもない。
むしろいつ何時でも落ち着いておりどこか近寄りがたい雰囲気さえ醸し出している。
そんなイヴがレイと出会ってから笑いっぱなしであった。
それだけレイの発言や行動がイヴにとっては面白おかしいのである。
「黒龍よ。アンタ随分面白い人間に出会ったみたいだねぇ!まさかあのロックロス家の人間が自分の家を潰すだって?フッハッハッ!魔力0のくせに態度だけは一丁前だねぇ!」
こんなに大笑いしたのは何千年ぶりか。イヴはそう思いながらレイを見ていた。
怒りまくったレイは溜まったストレスが発散され正常に戻り始める。
「“変化”のときか……。黒龍よ。アンタ異空間に封印されている体を取り戻したいんだろう?」
<ああ>
「……そうかい。―そこのレイとかいう少年よ」
イヴはレイに話しかけた。
「アンタ本当にロックロス家を潰す気かい?」
「ああ……まぁ勢いで言ったけどそのつもりだ!昔から決めてたからな」
レイの言葉を聞いたイヴが何かを決めた様に頷いた。
「――よし分かった……。ならば私も力を貸してやろう。千年ぶりに外の空気を吸いに行こうかねぇ」
「…え⁉そこからどうやって出る気??」
「アンタが出してくれるだろ?元はと言えばレイ……お前の家が事の発端だよ。現国王キャバル、紛れもないその血が流れている……同じ“ロックロス”よ」
「………………あ゛ぁ??」
正気に戻ったはずのレイだったが、イヴのロックロス発言で再び怒りが沸点に達した―。
「ドーランもバカだがお前もバカらしいな……イヴ」
レイがまたもや魔力を練り上げた―。
怒りで膨らんだ膨大な魔力が体全体を包み込む。
そして、集まった魔力をそのままイヴを閉じ込めているクリアな檻目掛けてレイはぶっ放した――。
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「……“次言ったら”この檻ごと吹き飛ばすぞ!!」
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イヴはレイにどこまでの実力があるのか興味本位で見てみたくなった―。
わざとロックロスという名で呼び挑発したイヴ。
まんまと乗せられたレイの攻撃は、そこにあった機械や結界を跡形もなく吹き飛ばした。
無意識とは言えドラゴンの魔力を使いこなしたレイ……。
この日、厳重警備を誇る要塞アルカトラズに二つ目のデカい穴が開いた。
マリシャスと警備員達は常人離れした魔力に戦意喪失。
皆ただポカンとその場に立ち尽くす事しか出来なかった。
「――フゥ~……。やっぱりシャバの空気はいいもんだねぇ」
檻も鎖も外れたイヴはグ~っと伸びをしながら言った。
不安定とはいえあれだけの魔力の攻撃を近距離で食らったにも関わらず、イヴはケガをするどころか髪一本乱れず平然とした顔でいた。
「ご苦労だったねぇ。お陰で余計な体力使わずに済んだよ」
イヴはポンポンとレイの背中を叩きながらお礼を言った。
この瞬間、イヴにまんまと使われたと気付くレイだった――。
「―――キャッ~~~~~~…!!!」
すると、突如どこからともなく聞こえてくる物凄い悲鳴。
レイは辺りを見渡すが何故悲鳴が聞こえるのか分からない。右、左、更に右…聞こえている悲鳴は右でも左でもなく“上”からだった―。
レイが“落ちてくる彼女”を見つけた時には既に地面から七、八メートルの位置。
「ヤバい……!」と思い反射的に走り出したレイだが確実に間に合わない距離にいた。
助からない―。
最悪な光景が頭を過った直後、間一髪のところで彼女の落下が止まった。
「――えッ……⁉」
フワフワと宙に浮いている彼女は自分でも驚いている様子だ。
「なんで空からお嬢ちゃんが降ってくるんだい?」
彼女の落下を助けたのはイブだった。イヴの魔法で救われた彼女はゆっくりと地面に着地する。
あまりに恐怖だった彼女は力が抜けた様にその場に座り込んでいった。
「あ……ありがとうございます!助かりました……!」
イヴにお礼を言う女の子。
慌てて駆け寄ったレイも彼女を心配し声を掛けた。
「―大丈夫か?ありがとなイヴ!」
「アンタの知り合いかい?」
「いや違うけど……」
レイとイヴは何で急に空から落ちてきたのかと不思議そうに彼女を見た。
すると、そんな二人の疑問を感じ取った彼女が答えた。
「……あの……フロア「1」からこの穴を見ていたんだけど、また急に凄い音と揺れが起きて……その揺れのせいで落ちたの……」
事情を聴いたレイとイヴはつい数秒前の出来事を思い出し…“自分達のせい”だと互いに顔を合わせた。
「―アンタのせいだねぇ」
「いやイヴだろ!攻撃けしかけたのそっちなんだから!」
互いに罪を擦り付け合っていたが、ドーランがどっちもどっちだと割って入ったので、レイとイヴは間を取ってドーランの魔力のせいにしようと合致した。
ドーランが納得せず言い返したのは当たり前の事だが二人はそんなドーランをスルーし彼女と話を続けるのだった―。
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