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~アルカトラズ・フロア「10」~
天井破壊からものの数秒後。
レイは気が付いたらアルカトラズのフロア「10」にいた。
ドーランによって天井を壊してから銃撃に遭い、それを難なく防ぎきってそのまま少し違う形で正面突破―。
ドーランの攻撃はアルカトラズの最下層であるフロア「10」まで届いており、あっという間に今に至る。
「――おいドーラン!こんな滅茶苦茶な正面突破があるか!!気持ちの準備ぐらいさせろよ!」
<そんなもの待っておれぬわ。レイが我の力を見くびるから見せつけてやったまでよ>
まだ根に持っているドーランは子供の様にレイに張り合ってきている。
コイツ本当にドラゴンの王なのかと言いたくなったレイだが、また張り合ってきそうなので言うのをやめておいた。
そんなレイを他所に、相も変わらずアルカトラズ内は大騒動になっている。
最下層まで貫いた穴。
一番下にいるレイは穴から上のフロアを見渡していた。見える範囲でも全てのフロアでパニックが起きており、警備員の無線や警報音がけたたましく鳴り響いている。
上のフロアにいた警備員達がレイを見つけるや否や無線で知らせたせいで、直ぐにでも多くの警備員が集まってきそうな気配だ。
「…この状況どーするんだよ⁉完全に俺ら犯罪者で捕まるぞ!」
<いちいち騒ぐなみっともない。>
ドーランは辺りを見渡し何かを探している様子だ。異空間の手掛かりを知っているかもしれないという人物。
そもそも人なのかエルフやドワーフなのか、はたまたモンスターなのか何か分からないが、一つ言えることはこのアルカトラズのフロア「10」という超危険な場所に収監されており、異世界そのものに危険を及ぼすレベルの危ない奴という事。
ドーランが少し辺りを探していると遂に“ソイツ”を見つけた―。
「………千年ぶりの再会だってのに騒々しいねぇ……黒龍よ」
声のする方を見るレイ達。
崩れた瓦礫があちこちに散乱し大きな瓦礫でその声のする方が死角になっていた。
少し移動し声の方を見ると、そこには全面クリアな四角い箱のような形をしたものが建っていた。
その大きな箱の中…ポツンと真ん中に人影が見える。
手足は鎖で繋がれ、クリアな箱とその周りには見た事もない特殊な機械や装置、更にはかなり高い魔力で造られた結界が全てを覆っていた。特殊な織―。
大きな箱の檻に閉じ込められていたのはその箱の大きさとは釣り合わない小柄で華奢な体。
肌の色は少し緑がかかっており耳が尖っている。銀色の髪から覗かせたその目はとても神秘的に見えた―。
<貴様も相変わらずの様だ…“イヴ”…>
イヴと呼ばれ箱の中にいたのはエルフ。
見た目からはとてもフロア「10」に収監される程危険とは思えない。この世界でエルフ自体がそもそも珍しい者ではない。他のエルフや妖精、ドワーフやケットシー、ゴブリンからドラゴンまで数多くいる。
その中でもエルフは優しく争いを好まない種族。にも関わらず何故アルカトラズに…しかもフロア「10」なんかにいるのかさっぱり意味が分からないレイだった。
しかしその疑問が少しずつ紐解かれていく―。
「ドラゴンの王であるお前がこりゃまた可愛い姿をしているじゃないか…フフフッ」
イヴはレイに…というよりはレイの中にいるドーランに話しかけている様子だ。
やはりドーランが探していたのはこのエルフ。ドーランもレイの中から言葉を返した。
<こんな所にいるよりマシであろう。一度人間を経験するのも悪くない。>
「ドラゴンがそれを言うかい。この世界もだいぶ変化してきたわ…」
ドーランとイヴが話していると、レイはふと昔読んだ本を思い出した―。
エルフはその見た目に反し全種族の中でも高い魔力を持つという。そしてそのエルフ達の王とされる…“妖精王”の称号を持つ妖精王…“イヴ
”―。
そう…。
今レイの目の前にいるのはあの妖精王・イヴと呼ばれるエルフの王であった。
噓か誠か、レイが読んだ本にはフェアリー・イヴは異世界を消滅させる程邪悪で強力な魔力を持ち、千年決戦で“人間を滅ぼそうとした”最大の凶悪犯としてアルカトラズに収監されたと綴られていた。
「イヴって…あの妖精王の…フェアリー・イヴ……?」
思わず独り言のように呟いたレイ。
自分が読んで知った凶悪犯のイメージとはまるで違うと思ったレイは直感で、またロックロス家が何か絡んでいるのではないかと思った。
そしてその直感は当たっていたのかイヴが意味深な発言をした。
「私を知っているのか…フッフッフッ。“真実”がどう伝わっているかは知らないがねぇ」
<人間が皆悪者ではない…。もう一つ驚く事を教えてやろう。>
「何を勿体ぶっている」
<この人間……レイはあのロックロス家の者だ>
「――⁉⁉⁉」
ドーランの言葉に驚いたイヴは一瞬眉がピクリと動いた。
「その言い方やめろって言っただろ“ドーラン”!」
レイがロックロス家の者と知り驚いたがそれ以上に、ドラゴンの王である黒龍をドーランなどという名前で呼んでいる事にイヴは大笑いした―。
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