体が変化をした豪天道鬼は着ていたシャツと思われる服が破けて上半身が裸になり、右手に持つ刀を構えると異様な雰囲気を放ち始める。
「来るわよ! 気を抜いたら殺されるわ!」
「分かった! 気を付ける!」
美桜に言われたことを忘れずに刀を構えると、豪天道鬼が一瞬で距離を詰めて自身に刀を振り下ろしてくる姿が見える。
瞬きをした一瞬のうちに目の前に現れたので目を見開いて驚いてしまうが、美桜が前方に移動をして振り下ろされた刀を防いでくれていた。
「反応して! じゃないと死ぬわよ! 私はそう何度も助けられないわ!」
「ご、ごめん! だけど、反応ができなくて!」
目の前で繰り広げられている美桜と豪天道鬼の凄まじい斬り合いを見て体が震えてしまう。
それもそのはずだ。刀はもちろん武器というものを持たことがないので、目の前で繰り広げられている戦いを見て体が動かなくなるのも無理がない。
「あの時は必死だったから怖いとか思わなかったけど、今は怖い……これが命を懸けた戦いなのか……」
一撃一撃が命を奪う攻撃であると見える。
空を切る刀の音や鬼気迫る表情で戦っている美桜を見て、気を抜かないでと言う言葉の意味をやっと理解した気がしていた。
「一瞬でも気を抜いたら斬り殺される。あれが本当の戦いってやつなのかな……」
豪天道鬼の攻撃を刀で受け流し、時には避けている美桜を見て、同じ年齢なのにどのような環境にいたらそこまで強くなれるのかと知りたいという気持ちが次第に大きく鳴ってきていた。
そんなことを考えていると、空からまた戦ってないと怒鳴り声が聞こえてくる。
「姫様大丈夫!? 今すぐに結界を展開するよ!」
空から来たのは起きて追いかけてきたリーンであった。
リーンは空中で静止すると精霊魔法を発動させて駅を含めて周囲に朝に見た膜を展開する。不思議だと思っていた柔らかい膜はリーンが人払いや周囲に被害を出さないための結界であったのである。
「早く姫様と一緒に戦ってよ! じゃないと分解して食べちゃうよ!」
「そんなこと言われても怖くて混ざれない……」
「姫様は十歳のころから戦ってるのよ! それなのに怖がらないで!」
突然美桜が十歳から戦っていることを言われて、子供のころから武器を手にして戦っていたのかと驚きを隠せない。
自身は十六歳でありながら刀を握る手が震えて今にも地面に落としそうになっている。だが、目の前で鍔迫り合いながら必死で豪天道鬼を倒そうとしている美桜を見ていると、怯えてだけではいられないと決心をする。
「俺は夕凪さんから力をもらって活かされたんだ! だから、夕凪さんを守る!」
守ると叫びながら刀を弾かれて美桜の腹部に迫る豪天道鬼の刀を出雲は辛くも防ぐことが出来た。
目の前に現れて刀を防いだ出雲を見た美桜は、どうしてと小さく呟いている。先ほどまで怖がっていた出雲が急に戦闘に戦闘に割り込んできて、自身の腹部に迫る刀を防いだ現実が理解出来ないようだ。
「俺はもう怯えない! 夕凪さんに迫る敵や、目的のために一緒に戦う!」
両腕に力を入れて押そうとするが、まさに鬼の形相をしている豪天道鬼が顔を近づけて弱い人間が粋がるなと体に響く低音で言ってくる。
「確かに俺は弱い! 人間も弱い! だけど、弱者を舐めたら痛い目を見るぞ!」
「ならやってみろ!」
豪天道鬼に刀を上部に弾かれて腹部を蹴られてしまう。
凄まじい勢いで吹き飛ばされた出雲は、リーンが展開をした結界に衝突をして地面に倒れてしまった。
「ぐぅ! 痛いけど、痛いけど負けられない!」
身体強化をして戦った時を思い出し、全身に不思議な力を巡らす。
体が軽くなり、全体的に身体能力が向上したのを感じる。刀を握り直して仁王立ちをしている豪天道鬼との距離を一気に詰めると、まだ来るかと刀を構えている姿が見える。しかし、臆することなく出雲は刀を横に振るって斬りかかった。
「軽過ぎるな。人種は魔法も何も使えないから、そのような魔力と似た人種にしか使えない気などという魔法に劣る力しか使えないのだ!」
「そんなことはない! 夕凪さんはこの力で守ってきているんだ!」
声を上げて連続で斬りかかると、先ほどまでは目で追うのもギリギリであった豪天道鬼の攻撃が見えるようになっていた。
なぜ見えるのか不思議であったのだが目が慣れた結果であろうと考えることにし、攻撃を続ける。
「この! この! 俺だって!」
「型も何もないお前じゃ何度斬りかかっても無駄だ。もうここで死ね!」
軽々と刀を弾かれると豪天道鬼の刀が迫る。
何度防いで斬りかかっても弾かれて全く歯が立たず、守ると決めたのに勢いよく迫り来る刀が次第に遅く見え始める。
「ここで死ぬのか……呆気ないな……」
決心をしても敵わず、迫る刀に身を委ねて楽になろうとすると誰かが叫ぶ声が聞こえてくる。
「何をしているの! 私を守るんでしょ! 諦めないで!」
美桜の声が聞こえる。
守りたいけど力が足りない。
助けてくれたように、美桜を守りたい。ただそれだけが難しい。しかし美桜が必死な顔で諦めないでと叫ぶ姿を横目で見ると、まだ戦えるはずだと闘志が湧いてくるのが分かった。
刀で迫る斬撃を防ぐと、豪天道鬼が何をしたと聞いてくる。
「ただ防いだだけだ。守りたい人を守り通すのは難しいけど、それでも俺はもう諦めない!」
「わけわからないことをぐちゃぐちゃと!」
豪天道鬼は出雲と距離を取ると、刀身に左手を添えて赤く染めた。
その仕草を見たリーンが、鬼法だわと驚いている声が耳に入る。
「気をつけて! 鬼法は珍しい魔法なの! 鬼族でも限られた鬼しか使いこなせない強力な技が多数あるよ!」
「分かった! 気をつける!」
しかし気を付けるといっても何にどう気を付ければいいのが分からない。
豪天道鬼はそんな出雲のことなどお構いなしに、距離を詰めて刀を振り下ろしてくる。
「ぐぅ! 力が強い! 身体強化をしているのに!?」
「人族が使う気は弱い。 そんなもの身体強化に入るものか!」
連続で叫びながら刀を振るう豪天道鬼。
なんとか受け流すが頬や腕に刀傷が出来てしまう。なんとかしたいが何もできない、そんな攻防が続いていると、離れた位置にいる美桜が離れてと叫んでいた。
「離れる!? 分かった!」
刀を受け流した衝撃を利用して、地面を転がりながら豪天道鬼との距離を取ることに成功した。
美桜が何をするのだろうと考えていると、数メートル宙に浮かぶと両手に燃え盛る火球を出現させていた。その火球を見た豪天道鬼は目を見開いて嘘だと叫んでいるようだ。
「そんなことはない! 人族が魔法など扱えるわけがない!」
刀を振り回しながら目の前で美桜が火球を出現させた現実を受け止められていないようだ。
しかし、現実に目の前で美桜が魔法と思わしき力を使って燃え盛る火球を出現したことは確かである。
「そんな紛い物の魔法など打ち砕てやる!」
その言葉と共に宙に浮かんでいる美桜に向かって飛ぶと、豪天道鬼に向けて燃え盛る火球が放たれた。
燃え盛る音と共に空中にいる豪天道鬼に勢いよく衝突させると、爆音と共に地面のコンクリートを粉砕しながら衝突をする。その衝突時の威力は凄まじく、遠くにいた出雲の場所までコンクリートの欠片が吹き飛んでくるほどだ。
「やったの? 私の魔法がちゃんと発動をしていたかしら?」
「姫様やったね! ちゃんと魔法を発動出来てたよ!」
「よかったわ……発動できるか不安だったのよ。教えてくれたリーンのおかげね!」
地面に降りた美桜がリーンと話している。
砕けた地面で豪天道鬼が倒れている姿を見ていると、リーンが展開をしている結界を解除している。
「もう大丈夫だね! このまま送り返しちゃおうよ」
「そうね。もうこれないように国に手紙も書かないと」
二人で話している様子を遠くから見ていると、倒れている豪天道鬼が静かに立ち上がったのに気が付いた。
美桜とリーンはそのことに気が付いていないようで、どう手紙を書くか話しているようである。
「気が付いていないのか!?」
静かに二人に近寄っているので、危ないと叫びながら豪天道鬼に近寄って刀で斬りかかる。
「邪魔はさせない! 早く倒れてくれ!」
金属音に気が付いた美桜とリーンが戦っている出雲を見て驚いていた。
「二人に迫ってたんだよ! 気が付いてよかった!」
そう言いながら連続で刀を振るう。
先ほどまでとは違い、美桜の魔法を受けてかなり弱っているのが鍔迫り合いでの力の弱さで気が付く。
これでなら自身でも倒せると思うが、それでもまだすぐには倒せないと察するほどに気迫を感じる。
「小娘があんな魔法を使うとはな……それでも俺は死ねないんだ! お前達を殺して俺は支配者に!」
「そんなことはさせない! 夕凪さんの目標のために、俺がお前を倒す!」
夜の静かな駅に刀同士が衝突する音が響き渡る。
何度か戦って刀の使い方を学び、力任せに振るうよりも全身を用いて流れるように振るうことが大切だと考えていた。
「これでどうだ!」
斜めに刀を振るうと右肩を切り裂くことに成功をし、豪天道鬼がよろめく。
その隙を見逃さずに連続で体を切り裂くと、体から大量の血を吹き出して地面に倒れた。
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