そこは白一色で統一されている建造物の国だった。広大な国土を保有しているだけあって、中央にある王城も周囲を囲む幾重もの城壁。その城壁に挟まる形のたくさんの城下町も光が宿るほどの乳白色の建物ばかりだった。
「ここが……俺が今まで守っていた国……」
「そうよ……ここがグレード・シャインライン国の本国。王城には今は誰もいないけどね」
かなりの高度を、飛んでいる箒の前に座るマルガリータはこちらに向かって、ニッコリ微笑んだ。
その隣へフラフラと今も酔っ払い運転をする箒が近づいてきた。
「ふふふふふふ……あれが私の国……私の国……」
「なあ、鬼窪? この聖女様は、さっきから何を言ってるんだ?」
酔ったような飛び方の箒で、空を飛んでいる通小町の後ろに座ったガーネットが通小町を不思議がる。
「ああ、気にしないでいいよ。そういう奴なんだよ」
「そうか……」
「ウッキーー! この秀才をーーー!! ……それより、攻めてくるぞ。サンポアスティ国がここを真っ先に」
「どういう意味だ?」
俺の問いに、通小町は分厚いメガネを少しずり上げて、ニンマリとした。
「ふふふふふふ……そうか……わからないか。鬼窪にはわかないよな。だが、マルガリータならわかるだろう。まずはラピス城よりも本国を攻めて、補給物資を絶ってラピス城を消耗戦に追い込むんだよ。つまり弱めていくんだ。鬼窪。戦いっていうのは、常にイージス理論が通用するんだ。相手を何らかの形で弱体化できれば、弱い勢力でも勝てるんだ」
俺はムッとして反論をする。
「なんで? 女王のグレード・バニッシュ・スターがあるじゃないか?」
「いや、それは関係ないんだ」
「へ??」
通小町は度の強そうなメガネを掛け直して、チッチッチっと、顔の辺りで人差し指を左右に振る。
俺は首を傾げた。
「ああ、そうか! 女王以外は弱い勢力なのね!」
「そうだ、マルガリータよ。相手はいかに強国でも国民は、雨が降らなくなって食糧難どころか水もない。なので、かなり疲弊しているから長期戦ができないんだと考えられる」
「お! おう!」
「それじゃあ、女王自らでてくるはずね。きっと、一気に決着をつけにくるんだわ!」
マルガリータはうんうんと何度も頷いて関心している。……が、俺とガーネットは……首を傾げた。
「通小町、あのさ。正規軍にも強い奴はいるだろう?」
「まあ、そうだがね。ふふん! あれを見てみろ!」
俺は通小町の指差す方に顔を向けた。
うん?? なんだ?!
あれ??
さすがにグレード・シャインライン国の本国までは、ラピス城の濃霧は来ていないけど、視界が悪くなるような真っ白な入道雲の群れが南の方角から押し寄せてきた。
目を凝らすと、その中心には茶褐色の古びたお城が空中にあった。全体を緑色の蔓で覆われていて、至る所から滝のような水の流れが城の上部から下方へと滑り落ちていた。
なんでか、気圧のせいか肌寒くなってきたぞ!
俺は盗賊衣装の肩のところを摩りながら震えた。
「あの城。もしかして、空中を飛んでいるのか?!」
「いや、浮いているんだ!」
通小町の言う通りに、よく見るとその城は浮いていた。
周りの入道雲の群れがグレード・シャインライン国の本国へと近づいていくと同時に、城はぷかぷかとその中心でゆっくりとだが前進している。まるで、雲に浮く常夏の城だった。
「これは、確かに聖女様の言う通りね。兵がいないみたいよ」
「ふふふふふふ……そうだろう。マルガリータよ。サンポアスティ国は元々いわば衰弱しているんだ」
フラフラとした箒を操る通小町の後ろに、座っていたガーネットは、大きな剣を構えた。いわゆる大剣だ。
その大剣は長さが二メートルもあった。
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