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満月の夜だった。
月の明かりで光り輝く真っ白なドレスは、ソーニャにはお似合いだった。
「よくお出でくださいました。クシナ皇帝陛下とガルナルナ国の使者よ」
そんなソーニャは玉座の上で頭を深々と下げると、王の間を囲むかのように兜だけを脱いだ騎士や帽子を外した重臣たちが大勢緊張しだした。
「フンッ! そう畏まるな! ソーニャ王女よ頭を上げよ!」
クシナ皇帝陛下は鼻で笑った。
月明かりに照らされた。その横顔は冷酷さが滲み出ている。
二人の上下関係は俺にはよくわからないんだ。
皇帝と王女どっちが偉いんだろう??
はっきりいって、俺にはクシナ皇帝陛下は恰好が良かったと思う。けれど、綺麗なドレス姿のソーニャもとても良い。
うーん。
ソーニャの方が偉いんだろうな……。
俺はどうでもいいことを考えた。
隣にいる猪野間も腕組みをして考え事をしていた。
まさか、俺と同じことを考えてるのか?
「鬼窪くん。王女と皇帝。どっちが偉いと思うの?」
「へ? 王女」
「ちゃんと勉強してるの? 皇帝よ」
猪野間が首を傾げてクシナ皇帝陛下を見て言った。
「きっと……。上下関係をあまり気にしない人なんだわ。ああいう人には気をつけた方がいいわよ。特に鬼窪くん」
「うへえええ」
俺はクシナ皇帝陛下の方を向くと、そういうことを、本当に気にしていないようだった。
なんか……危険な奴だな。
「元老院から聞いている。グレード・シャインライン国の資源には、ミスリルどころかクリスタル、ダイヤモンド、エメラルド、オリハルコンすらあると聞く。その資源はこちらも喉から手が出るほどだ。だが、一時的な休戦をし、南の領地のサンポアスティ国さえなんとかすれば、それでいい。領地にはその間は手を出さない。それだけだ」
そう言う残すと、クシナ皇帝陛下はさっさと背を向け白髪を靡かせて、帰ってしまった。大勢の騎士や重臣たちはどよめいた。辺りにきりっとした何とも言えない香水が漂った。
本当にカッコイイなあ。
俺たちの敵だけど……。
ソーニャは終始、憂いの顔をしていた。
ガルナルナ国の使者と何度か会話をして、それで休戦協定は終わった。
「じゃあ、帰るか? 腹も減ったし。猪野間はどうするんだ? このままラピス城へ残るのか?」
「なんで? 私はあっちよ……恩もあるし」
そう言い残して、猪野間は黒の長髪を靡かせて、クシナ皇帝陛下の過ぎ去った後を歩いて行った。
恩?
なんかあんの??
でも、なんか似ているな。あのクシナ皇帝陛下と生徒会長の猪野間の態度。
そして、俺は帰り際にソーニャに呼び止められた。真っ白なドレス姿で王女の品格を醸し出しているソーニャは、「オニクボはまだだったね。すまない」と言って少しだけニコリと笑った。
うん?
なんだ??
俺を国王さまにでもしてくれるのか??
と、一瞬。
考えてしまった。
ソーニャは神妙な顔をして一呼吸置いてから、周囲の騎士や重臣たちにもわかるような大きな声を発した。
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