頭領のオニクボは、多くの盗賊を率いてクシナ要塞の騎士たちと激しい戦闘をしているところだった。
「盗賊を一人残らず海へと落とせーーー!!」
「落とすんだ!!」
「斬り伏せろーー!!」
「ふん! 早くこっちへ来い……」
大勢のクシナ要塞の騎士の旗が橋の入り口を囲み。俺には多勢に無勢とも取れた。だが、オニクボは冷静だった。
俺は神聖剣を構えて、その場に乱入しようと思ったが。
急に、剣戟の音や怒号や、血と潮の臭いを乗せた風に混じって、辺りに土の匂いが充満した。
クシナ要塞の騎士たちの後方。大砲などの重火器も備えている騎士もいる。その真後ろの地面が盛り上がってきた。
突然、土煙が巻き上がったかと思うと、大勢のクシナ要塞の騎士たちが急に倒れだした。激しい土煙が霧散していくと、大柄の盗賊団の男たちが騎士たちの背や首にそれぞれ斧で致命傷を負わしていた。
「くくくく。後は正々堂々ってやつだな。よお、鬼窪っていうんだな。お前も。俺たちがここを食い止めてやるから、お前はあのデカ物のクシナ要塞をなんとかしろ。王女様は、ラピス城でクシナ要塞の対策をしているってさ」
「ああ……わかった……でも、どうして?」
「いいから! 戻れ!」
凶悪な顔のオニクボに言われ、俺は渋々クシナ要塞の方へと戻った。
そうだな。
オニクボの言う通りだ。
あのクシナ要塞の進行を阻止しないと……ラピス城は終わる!
――――
クシナ要塞内 皇帝の広間
まるでワルツのような優雅な音楽が流れ、凛とした空間の奥に一人の白髪の青年が玉座に座りほくそ笑んでいた。とても面白そうにしているその顔は、青年が皇帝なのだということが次第にわかるほど、荘厳な品格が滲み出ていた。天井はパネルが幾つも嵌められていて、外の景色が見える窓は一つもない。殺風景な場所で、床にもパネルが敷き詰められているだけだった。だが、不思議な事に明かりのないはずのこの広間は、煌びやかな光を放っていた。元来。ここは男性専用で、女性は入れないのだが。
その広間にはその青年と、一人の少女がいた。元老院からきた補助魔法が上位クラスの異世界人。猪野間《いのま》 琉理《るり》である。
「ほう、猪野間一刀流の使い手でもあるというのか。それは面白い。そして、私の側近にせよと……。ふーむ。なかなか面白い。だが、はっきり言おう。信用が足りぬな」
「そうですよね。一応、元の世界では、私は生徒会長をしていました」
「うん? 生徒会長とは?」
「はい。クシナ皇帝陛下。学校というのものをご存知でしょうか? 東方領地のクシナ領にある兵士訓練所と同じようなものなのです。そこでも、私はトップの座にいました」
猪野間はそこで一呼吸すると、瞬間的に抜刀して、初発刀からの剣舞をしてみせた。
殺風景な皇帝の広間が一時、華やかになった。
パチンという刀を鞘に納める音がし、猪野間の剣舞が終わると、クシナ皇帝はしっかりと頷いた。
「よかろう。それでは、必ず。その異世界の剣術で鬼窪とやらを見事倒してみよ……」
そこに二人の老人が皇帝の広間に静かに現れた。
皇帝の御前で平伏すると、口を同じく開く。
「陛下。グレード・シャインライン国のソーニャ王女とガルナルナ国のアリテア王がなにやら協力して不穏な動きをしておるようです……強国の二か国が同時に動くとこちらにとってはさすがに不利。陛下御自《へいかおんみずか》らが動く時が来たようです」
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