な、なんでこんなところに、あのオニクボがいるんだ?!
あ、そうか!
遠い昔の記憶を辿ると、ヒッツガル師匠の暗殺をオニクボに命令した奴って……クシナ要塞にいるクシナ皇帝陛下なんだ!
オニクボはゆっくりと階段を上っていく。
「マズいわね……鬼窪くん。あの人とても強いわ。足音もしないし、敵か味方かわからないけれど、恐ろしいまでの殺気を発している」
「ああ、それはわかるんだ。多分、仲間だと思うけど、そいつはオニクボっていうんだよ」
「……??」
「ああ、俺と同じ名前なんだ」
猪野間が目を吊り上げて、険しい顔をした。
「凄いわ! 人を何人殺せばこんな殺気を帯びることができるの?! クシナ皇帝と互角かも!」
こんな顔の猪野間は見たことがないぞ?!
な、なんか、怖いぞ……猪野間。
猪野間は抜刀して、上の階へと走りだした。
俺も走る。
皇帝の広間へと繋がる鉄の大扉が、開いた?! 猪野間に次いで、俺も中へと入ると、扉の中は……既に死体の山だった。たくさんの兵に高そうな服の人たちが倒れている。
広間の中央には、短剣を構えたオニクボがいた。
「フフ、会いたかったぜー。クシナよ。魔法使いの暗殺の依頼料を貰っていなかったんでな。依頼料は、その首でいいや。一つ頂戴するぜ」
クシナ皇帝は玉座の後ろに立っていた。
少し小首を傾げると……消えた!?
「ムッ!!」
オニクボがあらぬ方向へ短剣を投げる。
俺は短剣が投げられた方へ目を向けると、そこは、玉座から東へ10メートルも離れた場所だった。そこに現れたクシナ皇帝が、黒光りする刀を抜いた。そして、飛んできた短剣を真っ二つにした。
見、見えない!!
どういうスピードだ??
「鬼窪くん。あなたに補助魔法を掛けるわ。だから、クシナ皇帝を倒して!!」
隣の猪野間が片手を挙げて、魔法を使う。
「いくわよ! フルスロットル!!」
猪野間の一声で上位クラスの補助魔法が発動し、同時に俺の身体が緑色の光に包まれた。瞬間、俺はまるで、自分の身体が自分のじゃないような感覚に陥った。
「え?! これが俺の腕?! 足?!」
身体の感覚が、まったくといっていいほど別物だった。
クシナ皇帝はじりじりとこちらへ向かってきた。
俺は少し、身体を引いて、前方へ飛んだ。なんと、僅かな力を掛けたはずなのに、数百メートルも飛べた!! 耳に聞こえる風の音が轟音に聞こえる。広間の風景も猛スピードで後ろへ流れていく。
気がつくと、この速さの中でオニクボが俺を追い越していった。
短剣を構え、クシナ皇帝の喉笛目掛けて振り回した。
クシナ皇帝は僅かな動きで、刀……斬功狼を振る。
瞬間、オニクボの短剣が粉々になった。
よし! 今度は俺の番だ!
神聖剣で横薙ぎに斬る!
それを、クシナ皇帝は、苦も無く俺の脇に回り込んで躱した。
俺は今度は神聖剣を、袈裟斬りに振る。
クシナ皇帝は、その剣も寸でのところで後ろへ飛んで躱し、右足を少し前に送り、大きく横薙ぎをした。俺は斬功狼の斬撃を、神聖剣なら大丈夫だと思い。
受け止めた……。
カキ―ーーン!
派手に火花が辺りに散った。
俺は神聖剣の刃を見た。
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