俺は猪野間に目線で合図をすると、ダクトまで走った。
蜘蛛型警備ロボットが口から火を吹く。
俺はその火炎放射を避けて、ダクトの中へと飛び込んだ。
猪野間も付いてきて、ダクトへ飛び込むが。
ダクトの中は非常に狭かった……。
「ちょっと……鬼窪くん!」
「え??」
「どこ触ってるの……」
ポカンと頭を叩かれた。
「あ! ごめーーん!」
俺は頭を摩りながら、今度はダクトから脱出するために出口を探して這いつくばる。
ダクトの中は、真っ暗で、出口はまだ見つからなかった。
しばらく、隣にいる猪野間と密着しながら出口を探すと、西の方に光が差していた。
そこへと向かう。
ここまでは、さすがに蜘蛛型警備ロボットは追ってこなかった。
俺は猪野間と進むと……。
なんとか、無事にダクトから外へ出ることができた。そこは広大なコインランドリーだった。
この辺りは、多分。
無人だけれど、居住区なんだ。
コインランドリーは黄色が基調の部屋で、洗剤の匂いが部屋一杯に充満していた。
「ここらへんは、兵は外で戦っているから無人なのよ」
「そうなのか……ソーニャたちはどうしたんだろう?」
俺はコインランドリーからエレベーターの扉まで歩いて行った。
いい匂いだけれど、俺は昔から洗剤の匂いを大量に吸うと眠くなるんだなあ。
心なしか俺は急いで歩いた。
猪野間の方を向くと、制服の汚れをここで落としたかったようで、チラチラと一つのコインランドリーを見ていた。
「鬼窪くん。あそこのエレベーターから上へと行けるわ。クシナ皇帝は別のエレベーターに乗り換えるか、8階のエレベーターホールから階段を使わないといけないの。それと、鬼窪くん。クシナ皇帝はかなり強いわよ。気をつけて」
「わかった。任せろ。必ず倒してみせるさ」
ボタンを押して、エレベーターの扉が開くのを待った。
「鬼窪くん……ちゃんと、勉強してるの? クシナ皇帝の武器はあの斬功狼よ」
「斬功狼? って、何?」
「ふぅー、あのね。古くからある大妖刀とも呼ばれるほどのクシナ帝国の国宝よ。どんなに固いものでも斬れる刀なの」
それって、何でも斬れる刀かな?
でも、神聖剣なら大丈夫な気がする……。
なんたって、こっちもグレード・シャインライン国の国宝の一つだ。
「あ、そうそう。通小町のやつがこの世界に17年前に産まれたっていうんだ。不思議だろ? 猪野間もそうなのか?」
「ええ、そうよ」
「うへええ……」
猪野間は即答して、遠い目をした。
「私の場合は、クシナ帝国の有名な街で育ったの。子供の頃から鬼窪くんや前世の記憶を正確に覚えていたわ」
「頭は混乱したのか? 俺は今、混乱している……」
この世界って一体??
なんで、俺だけ海の中??
猪野間は長い黒髪を掻き上げてから、首を縦に振った。
「ええ、少しだけ混乱したわ。その時から何故かひどく不安になって、近くの本屋で独学で補助魔法を学んだり、猪野間一刀流の稽古を始めたの。そして、私が17歳の時に、クシナ皇帝陛下の誕生日パレードで、今の家族と離れていた時に、悪漢に路地裏に連れていかれそうになったの。だけど、お忍びで出店を覗いていたクシナ皇帝が助けてくれたの」
「ふーん。良かったな。あ、それが恩か?!」
猪野間はクスリと笑って、腰にぶら下げた刀の柄をポンと叩いた。
「あ、でも。一人でも倒せたわ。悪漢があまりにも滑稽だったから」
「あ、ああ……それはご愁傷さまで……」
ポーンっと、音が鳴ってエレベーターの扉が開いた。
俺と猪野間が箱へ入ると、猪野間が意外な顔でこくりと頷いた。
「鬼窪くん。このエレベーター……10階までは行けるみたい」
「うん?」
「恐らく……身分の高い人がこの居住区にいたんだと思う。普通こんなに上へはいけないの」
「ふーん……でも、それはラッキーだ」
猪野間が押したボタンは10階だ。
箱はグングンと上昇する。
エレベーターが上へと行く途中で、誰かが乗ってこないかと警戒する。だが、いつまでたっても、誰も乗ってこなかったようで、ホッと胸をなで下ろす。
ラピス城は無事かな?
ソーニャたちが心配だ。
「10階に着いたわよ。クシナ皇帝は多分、この上の階にいるわ」
俺は神聖剣を鞘からゆっくりと抜いた。
扉が開くと、豪奢なカーペットが敷かれた廊下へと出た。
「あそこの階段から上りましょう」
猪野間が指差す方を向くと、左側に透明な階段があった。殺風景な廊下で、辺りは静寂が包んでいた。今のところ、俺と猪野間の足音しかしなかった。
「うん??」
俺の感がこの先は危険だといっている。
クシナ皇帝とは違う重圧を感じた。
この感じ……この重圧感。
オニクボだ!
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