ナイツ・オブ・ラストブリッジ

この橋は絶対守りきってみせる!
主道 学
主道 学

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公開日時: 2023年11月15日(水) 01:18
更新日時: 2024年1月2日(火) 23:02
文字数:2,111

 と思ったが、そういえば、俺もマルガリータも休むことなく戦い詰めだったんだ。


 しばらく、身動きせずに静かにしていると、マルガリータから微かに寝息が聞こえて来た。


 俺は仕方なく。右手のドアを開けたところに、真っ暗な階段があったので、その踊り場にマルガリータを隠すように横にさせると、エレベーターホールへと向かった。数ある中から一つのエレベーターを見つけ、案内板を覗いた。そこには、クシナ皇帝や貴族や元老院たちは、最上階にいるみたいだった。

 

 ふーっ、俺もだいぶ疲れているが、まあ、なんとかなるか。なんたって、俺は陸上競技会へ出場した実力者だ。

 

 体力だけは自慢なんだ。


 ス――ッっと、音がしてエレベーターの扉が開いた。

 箱の中には、先客がいた……。


 それも、俺がよく知っている奴だ。

 

「やっぱり、侵入者って、鬼窪くんだったのね」

「ああ……猪野間か……」

「少し、話さない?」

「ああ、いいよ」


 学生服姿の猪野間がこちらへくると、エレベーターの扉が閉まった。二人でクシナ要塞の奥の方へと向かう。猪野間が右を指差して、俺は頷いた。その指差す方向の仄暖かい一室に入る。そこは、喫茶室だった。

 

 俺は一室の中央にあるテーブルについて椅子に座り、猪野間が二人分のコーヒーを淹れているのを見ていた。


「鬼窪くんは秋野くんのこと、どう思う?」

「え??」


 俺は猪野間の唐突な話題に驚いた。


「……わからないんだ。なんかな。放っておけなかったんだと思う」

「そう、私もよ……」

「別に、秋野じゃなくても、俺は放っておけなかったんだよ。きっと」

「ふーん……」


 猪野間が淹れたてのコーヒーを、二人分テーブルの上に並べた。椅子に腰掛けると、猪野間はゆっくりと口を開いた。


「鬼窪くん。あの、驚かないでね……。私の考えだけど、この異世界転生は、きっと秋野くんが関わっているんだわ……」

「え??? どういうことだ?」

「本当はここ異世界へ来るはずだったのは、失踪したはずの秋野くんの方なのよ……」

「……え?」


 秋野が失踪?!

 

 まさか……?!

 嘘だろ?!


「なんで……なんでだよ……」

「私もそう思うわ……」


 コーヒーの香ばしい香りに包まれた。この喫茶室も殺風景だった。奥のカウンター席には、コーヒーミルがポツンと置いてある。コーヒーポッドから暖かい湯気が立ち上っていた。


 コーヒーを一口すすると。

 俺はふと、思った。


 あれ? もしかして?

 秋野もこの世界へ……。


「じゃあ、今まで出会っていないだけで、この世界には秋野も転生してるんじゃないのか?」

「……そうかも知れないわね。でも、それだと辻褄が合わない……」

「うん?? 辻褄?」

「ええ……」

「とにかく、俺はこの戦争が終わったら、この世界へ転生したかも知れない秋野を探しにいくよ」


 猪野間はこっくりと、頷いて、しっとりとした長い黒髪を掻き上げた。


「鬼窪くん……ええ。それなら、私も手伝うわ」

 

 猪野間はハッとして、突然、立ち上がって腰にぶら下げていた刀を抜いた。

 俺はびっくりしたが、同じく立ち上がり神聖剣を構える。


 その拍子に、テーブルの上の二人分のコーヒーカップが派手にこぼれた。

 

 なんだ!

 この感じは?


 何か得体の知れないものが、徐々に近づいてくる?!


 次第に、カシャン、カシャと、こっちへ近づいてくる。おびただしい数の足音が聞こえて来た。俺にはそれが何の音なのか、おぼろ気にわかってきた。金属製の床を蜘蛛のように歩いているからだ。

 

 もう、確信した。


 このクシナ要塞に似合っているものとは、なんだろう? 

 そう。それは、きっと……機械のはずだ。

 

 蜘蛛型機械??


「鬼窪くん。気をつけて、クシナ要塞の蜘蛛型警備ロボットよ」

「ああ……そうだな。そうだと思ったんだ」


 喫茶室の無機質な扉から、蜘蛛型警備ロボットが、その姿をニュッと現した。幾つかある目でこちらを見つめている。駆動音を発し、大型の体で、色は漆黒だった。それは、例えるなら確かに蜘蛛だ。


「ふん!!」


 猪野間が左足を少し引いてから、体重を掛けて右手で、一太刀を浴びせた。

 真横に鋼鉄を裂く音と火花と共に、蜘蛛型警備ロボットの体に一筋の線が走った。それ以来、蜘蛛型警備ロボットは動かなくなった。


「体内のコードや電気系統を切断したわ。もう動けないはずよ」

「うへえええ。やるなあ。さすが猪野間!」


 俺は関心してから、扉の向こうの二体目の蜘蛛型警備ロボットを、上段から振り下ろして、思いっ切り斬り裂いた。


 即座に蜘蛛型警備ロボットからは火花が散り、煙を上げる。


…………


 しばらくして、数体を猪野間と一緒に斬ってから、俺は次第に冷や汗を掻いてきた。

 

 蜘蛛型警備ロボットはまだまだいそうだった。何故かというと、ここ喫茶室の扉から通路の奥まで、その巨体がぎっしりと埋め尽くしているからだ。


「うー、疲れたー」

「ふぅーー……鬼窪くん。そっちは、どう?」

「十体は斬ったと思うけど……。でも、キリがないな」

「私もよ」

「逃げようか? 今更だけど」

「ええ。そうしましょ」


 俺は猪間野と背中合わせの態勢で、今まで戦っていた。次第次第に蜘蛛型警備ロボットはその数を増やしてくる。

 もう、疲れて倒れそうだと思って辺りを見回すと、切断された蜘蛛型警備ロボットの部品が埋め尽くす床から、ダクトをみつけた。


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