と思ったが、そういえば、俺もマルガリータも休むことなく戦い詰めだったんだ。
しばらく、身動きせずに静かにしていると、マルガリータから微かに寝息が聞こえて来た。
俺は仕方なく。右手のドアを開けたところに、真っ暗な階段があったので、その踊り場にマルガリータを隠すように横にさせると、エレベーターホールへと向かった。数ある中から一つのエレベーターを見つけ、案内板を覗いた。そこには、クシナ皇帝や貴族や元老院たちは、最上階にいるみたいだった。
ふーっ、俺もだいぶ疲れているが、まあ、なんとかなるか。なんたって、俺は陸上競技会へ出場した実力者だ。
体力だけは自慢なんだ。
ス――ッっと、音がしてエレベーターの扉が開いた。
箱の中には、先客がいた……。
それも、俺がよく知っている奴だ。
「やっぱり、侵入者って、鬼窪くんだったのね」
「ああ……猪野間か……」
「少し、話さない?」
「ああ、いいよ」
学生服姿の猪野間がこちらへくると、エレベーターの扉が閉まった。二人でクシナ要塞の奥の方へと向かう。猪野間が右を指差して、俺は頷いた。その指差す方向の仄暖かい一室に入る。そこは、喫茶室だった。
俺は一室の中央にあるテーブルについて椅子に座り、猪野間が二人分のコーヒーを淹れているのを見ていた。
「鬼窪くんは秋野くんのこと、どう思う?」
「え??」
俺は猪野間の唐突な話題に驚いた。
「……わからないんだ。なんかな。放っておけなかったんだと思う」
「そう、私もよ……」
「別に、秋野じゃなくても、俺は放っておけなかったんだよ。きっと」
「ふーん……」
猪野間が淹れたてのコーヒーを、二人分テーブルの上に並べた。椅子に腰掛けると、猪野間はゆっくりと口を開いた。
「鬼窪くん。あの、驚かないでね……。私の考えだけど、この異世界転生は、きっと秋野くんが関わっているんだわ……」
「え??? どういうことだ?」
「本当はここ異世界へ来るはずだったのは、失踪したはずの秋野くんの方なのよ……」
「……え?」
秋野が失踪?!
まさか……?!
嘘だろ?!
「なんで……なんでだよ……」
「私もそう思うわ……」
コーヒーの香ばしい香りに包まれた。この喫茶室も殺風景だった。奥のカウンター席には、コーヒーミルがポツンと置いてある。コーヒーポッドから暖かい湯気が立ち上っていた。
コーヒーを一口すすると。
俺はふと、思った。
あれ? もしかして?
秋野もこの世界へ……。
「じゃあ、今まで出会っていないだけで、この世界には秋野も転生してるんじゃないのか?」
「……そうかも知れないわね。でも、それだと辻褄が合わない……」
「うん?? 辻褄?」
「ええ……」
「とにかく、俺はこの戦争が終わったら、この世界へ転生したかも知れない秋野を探しにいくよ」
猪野間はこっくりと、頷いて、しっとりとした長い黒髪を掻き上げた。
「鬼窪くん……ええ。それなら、私も手伝うわ」
猪野間はハッとして、突然、立ち上がって腰にぶら下げていた刀を抜いた。
俺はびっくりしたが、同じく立ち上がり神聖剣を構える。
その拍子に、テーブルの上の二人分のコーヒーカップが派手にこぼれた。
なんだ!
この感じは?
何か得体の知れないものが、徐々に近づいてくる?!
次第に、カシャン、カシャと、こっちへ近づいてくる。おびただしい数の足音が聞こえて来た。俺にはそれが何の音なのか、おぼろ気にわかってきた。金属製の床を蜘蛛のように歩いているからだ。
もう、確信した。
このクシナ要塞に似合っているものとは、なんだろう?
そう。それは、きっと……機械のはずだ。
蜘蛛型機械??
「鬼窪くん。気をつけて、クシナ要塞の蜘蛛型警備ロボットよ」
「ああ……そうだな。そうだと思ったんだ」
喫茶室の無機質な扉から、蜘蛛型警備ロボットが、その姿をニュッと現した。幾つかある目でこちらを見つめている。駆動音を発し、大型の体で、色は漆黒だった。それは、例えるなら確かに蜘蛛だ。
「ふん!!」
猪野間が左足を少し引いてから、体重を掛けて右手で、一太刀を浴びせた。
真横に鋼鉄を裂く音と火花と共に、蜘蛛型警備ロボットの体に一筋の線が走った。それ以来、蜘蛛型警備ロボットは動かなくなった。
「体内のコードや電気系統を切断したわ。もう動けないはずよ」
「うへえええ。やるなあ。さすが猪野間!」
俺は関心してから、扉の向こうの二体目の蜘蛛型警備ロボットを、上段から振り下ろして、思いっ切り斬り裂いた。
即座に蜘蛛型警備ロボットからは火花が散り、煙を上げる。
…………
しばらくして、数体を猪野間と一緒に斬ってから、俺は次第に冷や汗を掻いてきた。
蜘蛛型警備ロボットはまだまだいそうだった。何故かというと、ここ喫茶室の扉から通路の奥まで、その巨体がぎっしりと埋め尽くしているからだ。
「うー、疲れたー」
「ふぅーー……鬼窪くん。そっちは、どう?」
「十体は斬ったと思うけど……。でも、キリがないな」
「私もよ」
「逃げようか? 今更だけど」
「ええ。そうしましょ」
俺は猪間野と背中合わせの態勢で、今まで戦っていた。次第次第に蜘蛛型警備ロボットはその数を増やしてくる。
もう、疲れて倒れそうだと思って辺りを見回すと、切断された蜘蛛型警備ロボットの部品が埋め尽くす床から、ダクトをみつけた。
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