一触即発。
だが……。
「まあ、そういうことにしといてやるよ。鬼窪くん」
オニクボはニッと笑って、盗賊団を見回した。途端に震えて武器を納める男たちが現れた。たが、オニクボの目は冷たくて、表情はいつまでも凶悪そのものだった。大食堂が急に吹雪が襲ったかのように空気が冷たくなった。みんなそれぞれの食事をピタリと止め。それぞれの面々に緊張が走る。
マルガリータとガーネット、そして、ヒッツガル師匠は特に警戒している。
大食堂の隅っこにいた通小町は、さっぱりわけがわからないといった顔をして普通に食事をしていた。
けど、白いパーティドレスのソーニャが大食堂へ現れると、皆ハッとして、大食堂は再び熱気を取り戻した。黒の骸盗賊団の男たちやオニクボも再び食事を始めた。
「どうした? オニクボ?」
「え、ああ。いや、なんでもないんだ」
あ、それよりも。
紛らわしいから……。
「ソーニャ。これから俺のことを功一と呼んでくれないか?」
「ああ、いいぞ。これからは夫婦だもんな」
その言葉に、俺が顔から火を吹くと、いつの間にかソーニャはシャンパンを片手に持っていた。
俺は今も近くに浮かんでいるクシナ要塞が、いつ襲ってくるのかと気になっていた。正直、かなり心配だったんだ。
クシナ要塞が本気を出しせば、恐らくいとも簡単にラピス城が破壊されてしまう。つまりは終わりだ。クシナ皇帝は確かにカッコイイ人だったけれど、そんなことはしないとは言い切れない。
だから、俺は大食堂にいる時にマルガリータに不安からサンポアスティ国をこっちから攻めてしまおうといいだしたら、それを聞いたソーニャは「じゃあ、なるべく早い方がいい」と言った。
大食堂の食事の後に、その足で軍会議室へと向かうこととなった。
大食堂から肌寒くなってきた廊下を渡り、深夜の石階段を登っている途中。通小町が俺の隣を追い抜き、こちらに真っ正面から向かい何やら薄ら笑いをした。
「ふふふふふふ……鬼窪。お前、ここグレード・シャインライン国の王様になるんだってな。あのお前がねえ。歴史、数学、現代文ダメな男が。でも、これで野望に一歩近づいるじゃないか。ふっふふふふふ……」
「野望って??」
「いや、こっちの話だ……。お前さえ良ければこの戦争後に、優秀過ぎる聖女を王様のお傍に……って、いや! 違うっしょーー!! だから、優秀な私に国の半分を譲ってほしいーー!」
「?? 通小町? 何が言いたいんだ?」
肩で息をしている通小町がここラピス城へ来てから、どうして今まで俺たちの味方になっていたのかはわかったが……。
「ふふふ、まあ、いい。とにかく国を譲ってくれ」
「う……」
そうだ。通小町は、俺と真逆かも知れない。
俺は国を守り橋も守っている。けれど、通小町は国を奪うことを考えているんだ。それじゃあ、通小町は周辺の強国とまるっきり考えが似ているじゃないか。
俺は即座にニッコリ笑って……。
「却下……」
「ウ、ウッキーーー!! この学校一の秀才をーーー!!」
それから、俺は寒さが増してきた石階段を白い息を吐きながら早々に登っていった。通小町も白い息を吐いて、悔しそうにハンカチを噛みながら俺の後を追ってきた。
そして、しばらくして、俺の隣へ来ると。
「なあ、鬼窪。秋野のことだけどな」
「ああ、元の世界のことか」
「秋野……。あいつさ、学校では恋人が一人いたんだ……」
「うん? ……それ本当か?」
俺は通小町の言葉が信じられなかった。
秋野に恋人が??
読み終わったら、ポイントを付けましょう!