ひんやりとした廊下は静寂に包まれていたが、今まで武器を構えて伏せていた盗賊団の男たちが、おっかなびっくり立ち上がりながらひそひそ話を始めた。それから、一人の男が俺とマルガリータに近づいてきて頭を深々と下げてきた。
「お頭。本当にすいやせんでした。その老騎士がお頭のお仲間だったとはつゆ知らず……。その老騎士は確かある村を俺たちが襲撃した時に頭領がいつもの卑怯な手を使って倒したんでやす。老騎士は最後まで村のために戦ったんでやすが、頭領のずる賢さの方が一枚も二枚も上だったでやす。それ以来、頭領は老騎士を牢へと入れてからどこかへ旅に出たんでやすよ。その後、頭領が旅の途中で死んじまったと、風の噂で聞いたんでやす……」
「そんなに凄い人だったのか? あの老人?!」
俺は事の次第を知った。
英雄だったんだ。
あの老人は……。
でも、人死にはこれで二度目だ……。
薄暗い廊下で松明に写るマルガリータは、心底納得したという顔をしていた。でも、俺は見逃さなかった。マルガリータが一瞬涙ぐんだ顔をしたことに……。
「そうだったのね……。ハイルンゲルト……。噂で何度も聞いたわ。元四大騎士で最強の聖騎士ハイルンゲルトはドラゴンからもラピス城を救った英雄だって、大多数に囲まれても冷静さを失うこともなかったって。例え命が掛かっても王女をお守りしたって……。でもね、鬼窪くん。そのハイルンゲルトから聖騎士の力を受け継いだんだから、これからもっと激しくなっていく戦闘には必ず参加しないといけないわ。そして、盗賊団の人達もよ」
「ああ……」
俺は俯いてハイルンゲルトが掴んだ右腕を何度も摩っていた。
「俺たちは構いませんぜ! いつも新しい頭領と一緒にいます!」
「あっしらも!」
「あっしも! 罪滅ぼしでさー!」
松明の明かりで照らされた凶悪な顔の盗賊団の男たちは、俺のためならいつ死んでもいいという顔をしていた。
暗い盗賊団の洞窟から出ると、明るい外はやはり荒廃した草原が広がっていた。盗賊団の一人の男が俺に近づいて、とても動きやすい黒一色の中に金の輪や銀の輪が縫われたマントと、金の刺繍のある茶色の布のズボンに大きな髑髏マークのついた灰色のシャツを渡して来た。
そして、黒い骸骨が彫り込まれた短剣とどこかの国の紋章が浮き出た長剣も渡した。
俺は盗賊団の男たちから学ランを脱がされ、それらに身につけていく。
う……カッコイイなあこの服。
貰っちゃっていいんだな!
「え?! その剣……神聖剣よ! こんなところにあったの?!」
「へ? 神聖剣?」
「ええ、ハイルンゲルトの剣よ。そして、グレート・シャインライン国の唯一残っていた国宝なの」
神聖剣……。
俺は何故か手に馴染む神聖剣を目を閉じて一振りしてから、鞘へ納めた。
マルガリータが目を丸くして、神聖剣を見つめていた。
「ふーっ……じゃ、色々あったけれど。鬼窪くん乗って。さあ、行くわよ。黒の骸団の人たちもすぐにラピス城へ向かってね」
俺はマルガリータの跨る大きな箒の後ろに同じく跨った。
不思議なことにまったく恐怖しない俺を乗せて箒が浮いてきた。
その次はマルガリータが「飛んで!」と箒に向かって叫ぶと、箒はマルガリータの言葉を理解したのか天高く空を飛んだ。見る見るうちに下方の草原の荒れ果てた大地が遠ざかっていく。
「うわああああー、た、高い! 高いぞ!」
こ、怖い!!
「あははは。私がお師匠様の箒に初めて乗せてもらった時と同じ反応なのね。あの時は死ぬかと思ったけど、まあいいわよね。急ぐわよ! 鬼窪くん! しっかり掴まっていて……って!! どこ触ってるのよーーー!!」
「うへええええー!」
でも、高いところは苦手だ!
俺は空中で目を閉じて、前方から叩きつけるかのような突風の中で、必死に両手で柔らかくて暖かいものを掴んでいた。
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