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西方領地 ガルナルナ国 王の間
床には数々の戦争の絵が描かれ、その中で中央に位置する絵には巨大な鎧が描かれていた。天井からぶら下がるシャンデリアは、おおよそ1500トンだ。周囲には多くの貴族、上位騎士、僧侶がいた。
そのシャンデリアの下で、一人の聖女と思わしき格好の少女が淡々と話している。聞いている王は、厳かな顔とは裏腹に非常に嬉しそうだった。
「王様。私、しっかりこの国の修道院で回復魔法を勉強しました。これで、王様は更に無敵です。そう、この世の誰よりも、どんな敵にも、どんな奴よりも。きっとあの鬼窪くんよりも」
「ふん! 最後の言葉がとても気になるが……良かろう。ここガルナルナ国の王として異世界から来たと申す通小町《かよいこまち》 弥生よ。この国の半分はやろう。だが……当然、戦争に勝ってからだ」
「承知しましたわ。ふふふふっ、あの正義感バカの鬼窪くんなら、ちょろいちょろいってもんだわ。この国もらったーーー!」
「……」
「……」
「……」
王の間がシンと静まり返った。
王様は聞かなかったことにして、パンパンと手を叩くと、次の謁見まで小町を控え部屋へと戻した。
控えの部屋へと戻った通小町《かよいこまち》はほくそ笑む。
「ふふふふふふ。あの鬼窪くんがねえ。これはこれは……化学も現代文も歴史ダメ。体力しかない平凡学生が……この学校一の秀才に敵うわけないじゃない。この国で立派に出世して……いずれは女王に……ふふふふふふふふふ。私もだけど、転生したこと後悔させてやるわ!」
ガシャっと鎧の音が部屋の扉からした。
「あのー、聖女様……王の間に全部聞こえていますよーー」
親切な兵士が教えてくれた。
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「さあ、じゃあ行こうか! ガルナルナ国へ!」
朝食を終えた俺たちは砂だらけの強い風を受けながら、装備を整えると、マルガリータとヒッツガル師匠と共に巨大なブルードラゴンに背に乗ると、ブルードラゴンはすぐに天高く飛んだ。
「うう。私の魔法が完全にコントロールできればなあ……」
「いいんですよ。お師匠! 一番強力な魔法をぶちかましてくださいな!」
ヒッツガル師匠が嘆くが、マルガリータはまったく気にしていなかった。
俺は武者震いをした。
その武者震いは、魔方向音痴によるものなのか? はたまた敵のガルナルナ国との戦争によるものなのか?
「これから先。かなり広い海を渡るわよ! もう陸は西方領地しかなくなるわ!」
「ああ!」
その言葉がわかったのか、グングンとブルードラゴンは遥か西へと猛スピードで飛んでいく。
あっという間に荒れ果てた草原が消え、海の上だった。
「あ、船がたくさんある!!」
「当たり前よ! ラピス城は色々な国から攻められているの!」
海から陸にかけて、大型船が星の数ほど浮かんでいた。
そういえば、ラピス城のあるグレード・シャインライン国は海に囲まれているんだっけ。
大海原をブルードラゴンは高速で羽ばたいていく。俺は歯を食いしばる。更に体に受ける風圧が強くなったからだ。後ろに座るマルガリータとヒッツガル師匠は何故か涼しい顔だった。それでも、ブルードラゴンは飛んだ。
また、たくさんの大型船が見えてきた。
きっと、あれはガルナルナ国の船だろう。
ブルードラゴンが更にスピードを上げると、下方の海や大型船がまるで滝のように後ろへと流れているような光景になった。
それほど、高速だった。
「見えた!! ガルナルナ国! きっと、あれが西方領地だ!!」
俺の目の前に整備された土地が見えてきた。
草木が人工的に植えられ、馬車が通っている大通りまでが見えてきた。
その遥か向こうに、立派な王国がある。
「あれがガルナルナ国の王都よ!」
「私は何をすればいいんだい??」
マルガリータの声にヒッツガル師匠が頼りないことを呟いた。
風が気持ちが良いな。
それだけ景色もいい青一色の空で、俺たちはブルードラゴンの背から下を見つめていた。人気のない城下町を見下ろしていくと、ブルードラゴンが高度を下げていった。そのお蔭で、ガルナルナ国のある西方領地全体がかなりのスピードで大きくなってくる。ガルナルナ国は焦げ茶色の田園と中世を思い起こす落ち着いた黒の建造物に囲まれた美しい白い王城が見えるとても素晴らしいところだった。
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