上を向くと、マルガリータがヒッツガル師匠を乗せて空を飛び回っている。火炎弾やブレンド・ファイアが軍事施設だけをピンポイントで火の海にしていた。
「うへええ……」
「もはや、降伏する道しか残っていないな……。鬼窪よ。我々、ガルナルナ国は全面降伏しよう……」
後ろを振り向くと、アリテア王がピンピンとしていて、金の鎧を脱いでいるところだった。その傍でもう気を取り戻したのか、通小町がこちらを睨んでいた……。
ここ王の間のステンドグラスの天窓から、マルガリータを乗せた大きな箒がヒュンと降りて来た。マルガリータの後ろには、ヒッツガル師匠も乗っている。
「鬼窪くん。こっちは全部片付いたわよ」
「ああ。鬼窪くん。今回は魔方向音痴の私もスッキリだったよ。狙い通りに魔法が使えるっていうのは気持ちのいいことだね。いつもこうだといいんだがねえ」
「お師匠……私がお師匠の魔法の狙い(右腕)を定めてあげただけなんだけど……」
「マルガリータにヒッツガル師匠。こっちも終わったよ」
俺はガルナルナ国の国王アリテア王を前で、マルガリータたちに笑顔を向けた。
一時はどうなるかと思って焦ったが。なんとかなったなー。
この戦争。
俺たちの勝ちだ。
「そういえば、ブルードラゴンは?」
「スッキリしたのかしらねえ? もう帰り支度しているわよ。あのブルードラゴンは」
「そうか……」
「それより鬼窪くん。その後ろでナイフを隠し持っている可愛らしい聖女様は誰? すっごい魔力を秘めているのも。ここから丸見えよ」
マルガリータは通小町の方を見て警戒しながら驚いていた。聖女の恰好をした通小町はきっとここへ来てから、かなりの修行や勉強をしたのだろう。学校では秀才で負けず嫌いな性格だったからなあ。悪く言えば上に立つものに激しい嫉妬心を燃やす性格だったような。良く言えば努力家なのだろうけどな。
「ああ……ふん!」
「ふふふふふふふ……ヒッ!」
俺が神聖剣を構えて素早く振り返ると、通小町の背に隠しているナイフを斬り飛ばした。ナイフは空中で真っ二つになった。
「捕虜にする」
「ヒ―――!! ……うん?? 捕虜??」
顔を引きつらせて震える通小町がピタリと止まった。俺は神聖剣を鞘に納めて、通小町の首根っこを掴んだ。
こんな危険な奴を放っておくなんて真っ平だ。きっと、俺に復讐してくるはずだ。それもかなり質の悪い復讐をだ。
「じゃあ、帰るか。ラピス城が心配だ」
「ほんとねえ」
「ああ、かなり時間が経っていると思うから、今頃どうなっているのか心配だよ。王女様にはお世話になっているからねえ。私も助力を惜しまないよ」
「捕虜……? 捕虜……? この学校一の秀才の私が??」
ズルズルと通小町を引っ張り、ガルナルナ城の外へ出ると、ブルードラゴンは少々疲れ気味な顔をしていた。
来た時は美しかったガルナルナ国の街並みは至る所から煙が上がっていた。もう夕暮れ時なので、夕日の明かりに照らされた街の人たちは、消化活動にみんな駆り出されているみたいだった。大通りは街の人々があっちこっちへと走っている。
でも、さすがはマルガリータだ。
軍事施設以外は無傷そのものだった。
「どう、神聖剣にハイルンゲルトも知らない秘められた力はあった?」
「いや、普通に戦っていたからわからないんだ」
「普通に戦ったの! 鬼窪くん。凄いわ!」
マルガリータは感心した。
大きな箒はブルードラゴンのまた背に括り付けてあった。
ブルードラゴンの背に乗った俺たちはラピス城まで高速で飛んでいた。ブルードラゴンも早く戻りたかったのだろうか? 今では、あっという間に海の上だ。
海の上に浮かぶ大型船は、まだ星の数ほどあった。
もう、ガルナルナ国へ向かってから一日はラピス城を空けている。
ソーニャとガーネットは無事だろうか?
「ひぃーーええええええーーーー! 高い! 速い! 高い! 速い!」
茶髪を肩までピッタリと伸ばしていて、背がやや低く。分厚いメガネを掛けている通小町がブルードラゴンのあまりの速さと高度に怖がっていた。
風圧もそれなりなのだから尚更だろう。
そういえば、通小町にとって、空を飛ぶのは初めてのようだ。
「かなりラピス城を空けてしまったからねえ。もう急いで戻らないと。この速さなら夕食までには戻れるだろう」
ヒッツガル師匠が身を引き締めてから、こちらへ微笑んだ。
俺は心配になって来た。
今になって、ガーネットが残ってくれて良かったと思う。
だけど、たった二人で大丈夫だろうか?
「ブルードラゴン! もっと速く! 急いでくれ!」
ブルードラゴンは、俺の言ったことを理解したのか更にスピードを上げた。視界にグングンと美しいラピス城が近づいてくる。もう、下は荒れ果てた草原だった。
「ひぃーーー! おのれ鬼窪ーーー! ウキ―――!」
捕虜の通小町があまりのスピードにキレた。
あと、捕虜といってもただ俺の前にちょこんと座っているだけだった。
この世界に手錠なんてものもはないしな……うん?
俺の目の前の聖女の恰好をした通小町のスカートが、風圧に耐えきれずに盛大に捲れてしまった。
ヒッツガル師匠はマルガリータと話し込んでいるから、何も見ていなかったが……俺だけピンク色に顔を真っ赤にした。
「鬼窪! 見―たーなー!」
鬼の形相で振り向いた通小町は、右手を思いっ切り振り上げる。
結果。高度600メートルでのビンタは俺を失神寸前にまで追い込んだ……。
「ブルードラゴン! 偉い! もうラピス城よ!」
「ああ……さっき、マルガリータと話していたんだが、ラピス城……正確にはグレード・シャインライン国を狙う強国は、東方のクシナ要塞、北方のトルメル城と白の騎士の国、南方のサンポアスティ国が残っている。いずれも伝説級の強国だぞ!」
下方のラピス城の橋の上はすでに激しい戦争中だった。
「わかった! すぐに降りよう!」
黒煙が舞い上がり、激しい怒号のする橋の上。一体、今度はどこの国が攻めてきたんだろう?
俺は神聖剣を構えて、マルガリータに合図を送った。ブルードラゴンはすぐにキレるからある意味危険だった。
「了解! じゃあ、飛ぶわよ! 鬼窪くん。お師匠は通小町さんをお願いしますね!」
大きな箒にマルガリータと俺は乗った。
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