「オニクボよ! 前へ!」
俺はソーニャの気迫に負けて居住まいを正して、前に出た。
「そなたの今までの功績を称え! ここにオニクボを正式な聖騎士とする! オニクボよ! 今からそなたは私に変わってもっとも誇り高い四大聖騎士の一人となるのだ!」
「……」
正直、俺は王様になりたかったけど……聖騎士になれたこともかなり嬉しかったんだ!
思えばハイルンゲルトのような聖騎士なったって、ソーニャから正式に言われたのは、初めてだ。
「やっりーーー!! ありがとう! ソーニャ!!」
と、俺は自然に叫んでいた。
ソーニャは急に破顔して玉座で笑い転げそうになり、騎士や重臣たちの中にも失笑するものが現れた。俺も笑った。と、急に鞘に納めていた神聖剣が僅かに光ったような感じがした。まるで、ハイルンゲルトが俺を叱責しているかのようだった。
「コホン!」
ソーニャは一つ咳払いをすると、凛として姿勢を正した。王女の品格が戻る。
「時に、オニクボよ。この戦争を終えたら、私の夫として、この国の王にならないか? そなたにはこれ以上ないほど相応しい」
「へ?? え?? は??」
「まだ返事はいいが……よく考えておいてくれよ」
「……えー、おっしゃる意味が?? とりあえずは、はい! はい! はい! 王様になりたいです!!」
王の間に今度は本当にみんなの笑いが巻き起こる。
でも、とても良い笑いだった。
俺は真顔で天井を見上げる。
全ての天窓を満月が支配していた。
こんな夜だ。
風も生温いし、気温も丁度いい。
なんだか、不思議な気分だ。
でも、本当の事だ。
この俺がこの国の王様に……国王に……。
ソーニャの夫に……。
少し経って王の間から人々が帰ってから、俺はソーニャと一緒にラピス城の最上階から階下へと降りていった。俺は降りたり登ったり、森の中を走ったり戻ったりで、疲れていた。
「オニクボ。もう考えたか? 王になれるのは大変な幸運なことだ」
「へ? え? ああ……さあて! 飯だ飯だ!!」
さすがに息切れをしてきた。だけど、階段を二人で並んで降りる。真っ白なドレスを着た隣のソーニャにそう言われると、俺は嬉しくって恥ずかしかったんだ……。
この俺が王様とはねえ……。
まだ高校生なんだけどな。
あ! あれれ??
そういえば、ソーニャはもう王女で、俺とは一つ年上なだだけだった。
なんだかとても疲れていたし、王様になる自信を無くしてしまった俺は項垂れた。そんな俺に、ソーニャが階下へ降りる前に着替えてくると言った。
ラピス城の4階にある王室で、ソーニャが白いパーティドレスというラフな格好に着替えてくると、ひたすら待っていた俺に「すまんな」と掌をヒラヒラさせた。
「大食堂に行く前に少し話さないか?」
と、真っ白なパーティドレスのソーニャが王室の窓の外のベランダをその白い指で指差した。
「え? いいけど」
照れた俺は、勿論俺は断る理由もないので、のこのことついて行った。
ラピス城の王室のベランダは、やはり石造りだった。見たこともないオレンジ色のバラが植えてある花壇が至る所に備え付けられている。満月は相変わらず空でデカい顔をしていたが、幻想的な光でベランダ全体を、花壇に、俺に、ラピス城の壁面。それに、ソーニャを、包み込んでいた。
「さっきも言ったが、すぐに決めなくていい。戦争が終わるまでな。だが、この戦争はすぐに終わらせたいんだ。わかるか? オニクボ? これは国の民。その全ての問題でもあるんだ」
ソーニャはそういうと、遥か南の方を向いた。そこには広大な緑と海とボンっと頭を出した山が連なっている。その向こう端に広々とした大陸があった。その大陸には多くの建造物があるのがここからでも見えた。
「あれが、グレード・シャインライン国か??」
俺は、今まで守っていたのは、橋の上のここラピス城だけかと思っていたが、考えてみれば、当然グレード・シャインライン国っていうからには、多くの建造物も国民もいるのだろう。
「ああ……。あ、そうか。オニクボは見ていないのか。我が国の本国を。私は辛いことがあったら、いつもここへ来て遠い本国を見ているんだがなあ」
「あ……ああ。そういえば、見た時がないな。あっちの大陸にあるのか? 南の方に?」
「ああ。そうだ。それに、それはそれは美しい国だぞ」
ああ、そうか。
グレード・シャインライン国は……。
緑豊かで資源がたくさんあるんだった。
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