「出港の10時までまだあるんだ。まだ寝ていろ。戦いすぎだぞ……」
ソーニャは再び寝入った。
俺は早朝にクシナ皇帝が意識を取り戻したと聞いて、病室前にいる従者に挨拶をしにいった。俺一人でクシナ皇帝に見舞いにきたんだけど、隣にはソーニャもいる。
「大丈夫か? クシナは一体どうしたんだ?」
「ああ、鬼窪王。クシナ皇帝から……お話があるとのことです」
白と騎士の国へ行ってから、重傷を負って倒れたクシナ皇帝は、グレート・シャインライン国王の王城の広大な病室で横になっていた。当然、要人用のベッドと部屋だ。
ベッド付近には、この国の隅々から一夜にして集められた医学者や占星術師。ヒーラー、シャーマン、薬学者に、医学者よりも薬草に詳しいといわれる木こりの人々が待機していた。
クシナ皇帝は漆黒の鎧こそ着ていないが、紫色の病院服なのだろうか。簡易な薄着だけを着ていた。
「すまないなあ。鬼窪王よ。わざわざこんなところまで、足を運んでくれて……。ふふふ、今になって思えば、あの時の鬼窪がグレート・シャインライン国の国王になるとはな……運命とは意外と真っ直ぐなところがあるものよ。……よく聞け。鬼窪王よ。クラスド・エドガーには気を付けるんだ。もっとも危険な存在になっているんだ」
クシナ皇帝が酷い皮肉を言うような顔で笑ってから、少しだけ顔を歪めた。
俺は心配して、ソーニャと顔を見合わせる。まだ痛いところがあるのだろう。
「大丈夫か? クシナ! もう少しだけでも安静にしていろよ」
「そうだ。もうしばしの安静を。クシナ皇帝が倒れたというだけで、従者や帝国の人々が不安がるぞ」
「ふふ、時間はない。いつも私にとっては早歩きをするんだよ。時間という者は……」
???
「あ、でも。警戒なんてしても、取り越し苦労になるぞ。大丈夫だぞ。クラスド・エドガーならとっくに倒したぞ」
「ふん! ならば、会ってみるがいい。もう一人のクラスド・エドガー。国王の方にな……」
「へ??」
「?! 聞き間違いか?! クラスド・エドガーが二人いると聞いたぞ?」
俺とソーニャが驚いたが、周囲の人々の一部は下を向くだけだった。
「二人いるんだ。トルメル城のクラスド・エドガーは……。国宝のエクスカリバーも二つあるのだが、一つは行方不明。そして、もう一つが本物のクラスド・エドガー王が持っている」
俺の頭に一つの知識が浮かび上がる。
そうだ。双子……なんだ。クラスド・エドガーは……。
「少し昔話をしよう。これは1000年前のお話だ。白と騎士の国には、二人の英雄がいた。一人は立派な千騎士を夢見る正義感を持つ少年だった。もう一人は王になりたがる野心溢れる少年だった。そして、ある日。北の方から大規模な魔族が襲来してきた。白と騎士の国とトルメル城は瞬く間に戦火に呑まれた。だが、たった二人だけが生き残ったのだ。一人は瀕死の重傷を受たが、魔族を倒し。一人はまったくといっていいほど怪我一つしていなかった。やがて、瀕死の重傷を受けても魔族を倒した少年は、白と騎士の国の最初の千騎士で英雄クラスド・エドガーとなり。もう一人。傷も負わずに生きていた少年は……暴君クラスド・エドガーとなった」
???
うん?
どういうこと……??
1000年前??
「今から1000年前に、白と騎士の国の北の方から突如館が姿を現して魔族の襲撃が始まったと、聞いたことがある。そして、クシナ帝国もその白と騎士の国の近くに位置していて、約1000年の歴史を持つ大国といわれている。あ! そのクシナ帝国を統治している国王は、はるか昔からクシナという名だ。国の長の名が一度も変わることがない国だった」
ソーニャは遠い昔を思いだすかのような顔をして話しているが、恐らく家臣か書物から教えてもらった知識だろう。
「そうだ。私には……元々魔族の血が流れているのだ」
「うへええええ!!」
「そうなのか?」
魔族???
スケールがRPGに行っているぞ!!
というと、俺とハイルンゲルトが倒したクラスド・エドガーって……?
一体??
「ふん! 魔王と呼べばいいのか? 暴君クラスド・エドガーは……。とりあえず一度、会ってみるんだな。敵わないと思ったら、逃げればいい」
「うん??」
クシナ皇帝の言葉を少し噛み砕いて、頭の中で整理してみる。
白と騎士の国の最初のクラスド・エドガーはハイルンゲルトと一緒に倒した。というか、ほとんどがハイルンゲルトの鋼雲剣だったけど。
1000年も生きている最強と呼ばれたクラスド・エドガーも、四大千騎士最強のハイルンゲルトの方が強かった。
暴君クラスド・エドガーは1000年も生きている……魔王?? そうか、魔王クラスの強さか……。
俺は頷いた。
大丈夫だ。
こっちにはハイルンゲルトとハイルンゲルトの力を借りた俺がいるんだ。
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