石柱が23本もあるんだなあ。
俺はここ石でできた牢屋へ入れられてから数日が経っても石柱を数えていた。
時間の感覚もなくて、見張りもいないし、誰も来ないからだ。
堅牢な牢は、素手では絶対に壊せない。
一度、牢を囲む石柱を登ってみたけれど、結果は落ちてケツを痛めただけだった。
西野は一体??
マルガリータは??
通小町とガーネットは??
なんて考えても仕方がなかった。
もう、何百回考えたことか……。
飯は美味いけど、やっぱり誰も来ない。
このまま処刑されるんじゃないかと、震えてしまう。
なんでこうなった??
俺はただラピス城とグレード・シャインライン国を守りたかっただけなのに……。
思えば、なんとかして秋野を助けたかったんだろうな。俺は……。
それが、全ての始まりだった。
でも、何故……??
水溜まりに突っ込んでからだ。
一体ここはどこの世界なんだろう??
そこまで考えると、肉の香りがしてきた。もう、美味い飯の時間か……。
俺のことを、きっとここでは猛獣とかと思っているんだろうなあ。
「うん??」
俺に飯を持ってきてくれたのは、他でもない俺の幼馴染の西田だった。
「はい。ご飯よ。鬼窪くんごめんね。元の世界へ戻るために手間取ちゃって……。サンポアスティ国の女王さまの元で、転移魔法使いを500人も集めていたの」
「へ……え……戦争は??」
「今、この空飛ぶお城。ブルー・アクア・クイーン《戦闘用雲海域城》っていうんだけど、それがラピス城の真上なんだって……もうそろそろ戦争は終わるわ」
な、なんでだよ!!
俺は石柱を思いっ切り殴った。
「グレード・シャインライン国と俺の仲間は?!」
「ええ……みんな無事よ。グレード・シャインライン国は鬼窪くんの仲間たちと国民が一斉に戦っているお蔭で、なんとか無事だって。でも、アスティ女王の話によれば、今も降伏勧告を続けているって。被害が全くないわけじゃないみたいね」
「な……なんだって!!」
俺は涙を流していた。
「何故こんなことをするんだ!!」
「え……だって……鬼窪くんがゲーム感覚で、この世界へ来てから戦争を始めたんでしょ」
「違う!! 俺は資源を奪われようとしているグレード・シャインライン国を守りたかっただけなんだ!!」
西田は驚いて、厚切りの肉の入った食器を地面に落とした。
「え?? え??? え??」
「西田!! 頼むから頭を整理しろ!! 俺がゲーム感覚で戦争なんてするか!!」
西田は途端に俯いた。
「あのね……鬼窪くん。ごめんね。どうしても、君自身から確認したかったの。……私たちは、異世界人の中でも転生者なんだって……。だから、どんな転移魔法でも元の世界へと帰られないんだって……」
しばらくすると、西田は涙を流した顔を上げた。牢屋は不気味なほどシンと静まり返っていた。
学生服姿の西田は背が低くポニーテールの似合う子だ。
瞳は大きく。
昔から笑うと、えくぼが出来るとても優しい子だった。
その顔が、何かを決心したかのような固さを秘めた。
「今までごめんね! 鬼窪くん! 強制転移!!」
「う、うわーーー!!」
西田がそう叫ぶと、俺の足元が光り輝き、激しい光りが発せられる。光の中に消える寸前。俺の瞼に最後に映ったは、涙を拭っている西田と、そして、その後ろにいるヒッツガル師匠の姿だった……。
きっと……。
わかってくれたんだな。
ヒッツガル師匠と話していたんだ……。
西田は……。
眩しい光から解放された俺は、目を開けると、そこはラピス城の強風に煽られた橋の上だった。
サンポアスティ国の旗が至る所に立っていた。
怒号の声もしない。悲鳴もしない。血の臭いしかしない。
俺はしばらく、橋の上をフラフラと歩いた。
橋の上はすでに死者の山だった。ラピス城側の騎士団の死骸が散乱していた。幸い。ソーニャの姿は見えなかったが、意外にも、倒れている者たちに黒の骸盗賊団の盗賊団たちの死骸がちらほらと見える。そして……オニクボ?!
「大丈夫か!!」
俺は黒の骸盗賊団の頭領のオニクボに駆け寄った。
その胸には長剣が深々と突き刺さっていた。橋の上のど真ん中で大の字に倒れている。出血も激しく。呼吸が苦しそうだったが、辛うじてオニクボは生きていた。
「よお、言った通りだろう……ぐふっ! 相手は強国だ……当然、お頭《つむ》もいい……」
「ああ、すまない……俺たちが甘かったんだ……」
「ぐふっ! がはっ!」
「それ以上喋るな!! オニクボ!!」
オニクボは激しく吐血しながら、髑髏のナイフを俺に預けた。俺はそれをすぐに受け取った。
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