巨大な蝿が佇んでいた。
「な!? なんだ! この大きな蝿は??」
ふしゅーーー、と巨大な蝿が大口を開ける。
「あ、あれが、クラスド・エドガーなのか??」
巨大な蝿の口から白い煙が吐き出された。
「避けろ!!」
「う、うわ!!」
俺は白い煙を躱すため。横に飛ぼうとしたが、オニクボが俺の右肩をがっちりと掴んで、石階段の上へと引っ張った。途端に、さっきまで俺がいたところは、真っ白くなり、ウジが湧く腐敗した空間となった。それと同時に恐ろしいまでの悪臭が辺りに漂った。
「あいつの強さはまだ未知数だが、これだけはいえる。絶対に近づくな!! 俺は逃げるぜ!!」
オニクボが二階へと駆け上がって行く。
俺は神聖剣を構えて、クラスド・エドガーへ突撃した。
「うおおおおーー!! 相手がどんな化け物でも、叩き斬ってやるぜ!!」
ザシュっと、巨大な蝿の腹部を斬り裂いた。
クラスド・エドガーという名の蝿は、断末魔を上げた。
よ、弱いぞ??
この蝿??
はっきりいって、楽に勝てるぞ……??
巨大な蝿が呻きながら、口から卵を吐き出した。
物凄い悪臭が急激に辺りに漂う。
卵が地面に落下すると、割れて、中から……鎧を着た大人の男性が現れた。
「へ?」
巨大な蝿は、まだ卵を幾つも吐き出している。
卵が割れ、大人の男が生まれていく。
その男たちは、こちらを確認すると、剣を構えて突進してきた。
「うへええええ!!」
俺は神聖剣を構えて、迎え撃つ。
だが、突然。
右肩が乾いた爆破音と共に、破裂した。
激痛が走る。
巨大な蝿の方を見ると、今度は卵から格好からして、魔法使いの女性が生まれていた。
次は槍使い。
その次は僧侶。
と、地下いっぱいに卵から生まれた兵が溢れ出す。
カキ――ンン!!
一番最初に生まれた騎士の刃を神聖剣で防いだ。
だが、あまりにも重い一撃だった。
「う、うわ! こいつら強いぞ!!」
俺は右肩を抑えながら、次々と斬り込んで来る騎士の猛剣戟を躱した。
正直、卵から生まれた騎士の剣戟を躱すだけで、精一杯だった。
だが、騎士に隙が生まれた。
俺は騎士の振り上げた剣を、身を低くして神聖剣の横薙ぎで胴を斬った。騎士が腹を抑えて倒れると、今度は魔法使いが火炎の魔法を撃ち放つ。
火炎は、右足を横にずらして、そのまま横へ転がり込んで躱した。
その次は、槍使いの槍が俺の胸元目掛けて突き進んできたので、神聖剣で槍を払う。
軽いステップで、石階段まで後ずさると、愕然とした。
未だ。巨大な蝿が次々と卵を生んでいる。
卵は無尽蔵に生まれ、祭壇の床が見えなくなるほどだった。
悪臭で鼻が曲がる。
俺は一階へと逃げた。
石階段を必死に駆けていると、倒れたはずの騎士や槍使い。魔法使いに僧侶。格闘家のような上半身裸の男性などが追い掛けてくる。
石階段から這い出た俺は、回れ右して、廊下を走ってなるべく広い場所を探した。
だが……。
その時。
騎士たちと同じく。地下から這い出たシャーマンのような格好の老人が、黒い靄のようなものを右手から放った。
靄は廊下一杯に広がった。
俺は顔をしかめ。
左手で口を抑えた。
けれども、身体中が悲鳴を上げるほどの激痛が走った。
「痛ってーーーー!!」
む、無理だ!!
きっと、口を抑えても身体の皮膚から靄が浸透してきているんだ。
「ぐわっ!!」
「へ??」
その苦痛の言葉は、俺からじゃない。
ハイルンゲルトの声だった。
俺の身体から黒いオーラが溢れ出す。
肉眼で見えるほど、鮮明なハイルンゲルトの亡霊が天高く昇っていってしまった。
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