「毒か! お主のその髑髏のナイフ……噂では聞いたことがあるが。この世には解毒剤がないといわれるガルナルナ砂漠のサソリの毒が塗ってあると……」
アスティ女王が玉座の後ろからグレート・バニッシュ・スターを取り出した。
「ははっ、有名人ってな辛いよなあ。行くぜ!!」
オニクボがアスティ女王にじりじりと接近していく。女王の傍銀色の二匹のライオンが立ち上がった。
だが、西田がその間合いに割って入った。
「本当に鬼窪くんのパパじゃないのよね??」
「パパ?? 黙れバカが!!」
西田はそれを聞いてホッとすると、右手を素早く挙げた。女王と西田の身体から徐々に強い光が発せられる。
「強制転移!!」
「な?!」
オニクボの目の前で、アスティ女王と西田が忽然と光の中へと消えた。
――――
「オニクボーー!! 女王は俺が倒す!!」
「オニクボよ! 早まるな!!」
「ああーん?」
俺が女王の間へと突撃すると、そこにはすでに大勢の死骸の山があった。オニクボは髑髏のナイフを鞘に収めて、腰にぶら下げるところだった。通小町が小さめな箒から降りて、
サンポアスティ国の兵たちを介抱しようとするが……。眉間に皺を寄せてこちらに首を振った。皆、通小町でも手の施しようがないんだ。
エスニックな窓ガラスから、未だにサンポアスティ国の大勢の兵たちがサーフィンでこちらに向かってきていた。
「西田は?」
ここにはいない。
どこへ行ったんだ。
俺は西田がこの城にいたことをオニクボに尋ねた。そっぽを向いているオニクボは何も言わずに立ち去ろうとした。俺はオニクボの前に立ちふさがった。
「それにアスティ女王は?」
「ふん? 恐らくどこか遠いところだ……。俺の鼻でも臭いが嗅げないんだからな」
「臭い??」
臭い??
犬みたいに鼻がいいのかな??
あ、そうか。アスティ女王と西田は西田の転移魔法でどこかへ!
通小町が小さめな箒に乗って、俺を手招きする。
「西田? あいつもこの世界にいるのか?」
「さあな……」
「鬼窪。ここはオニクボに任せて、私たちはグレード・シャインライン国の本国へ向かうぞ」
「あ、ああ。本国も大変だったな」
うー、寒い!!
真っ白な雲の中なので、寒くて身体が冷たくなってきた。改めてみてみると、ラピス城があんなに小さくなっている。こんなに早くに箒を操れるようになるなんて、通小町は確かに秀才だな。今、俺は遥か上空のブルー・アクア・クイーンから、グレード・シャインライン国目指して、通小町の乗る箒で飛んでいた。
もうすっかり、通小町は箒を完璧に操られた。
当然、飛び方はフラフラとしないし、今のところは、サンポアスティ国の兵も追ってこなかった。
「なあ、鬼窪。秋野のことなんだがな」
「うん?」
「お前のことはよく知っていたぞ。何度も助けてくれたって……」
「そうか……そうだったか……」
俺は前方に座る通小町の横顔を見つめた。それは、遠い前世を想っているようだった。きっと、懐かしいんだろうなあ。
あ、そういえば……。
通小町や西田たちはここへ来て、どれくらい経っているんだ??
俺は気がついたら、ラピス城に掛かる橋の下の海だった。
もう、安全だと思ったのか。
通小町は徐々に高度を下げていった。
「なあ、お前。この世界に来てから、どれくらい経ったんだ?」
「あれ? 言っていなかったか? 17年だぞ」
「17年ーーー?!」
え??
そ、そんなに?!
俺は驚き混乱した。
この世界に来たのが17年前だとしたら……通小町は俺と同じく17才のはずだから……ええと……。
カモメが数羽向こうから飛んできた。
通小町は箒に乗りながら、カモメに手を振り挨拶をしている。
「そうだぞ。バカか鬼窪。考えてみろ。こんな凄い力を1年や2年で習得できるわけないだろう?」
「う……」
「私も混乱したぞ。産まれたのが、ガルナルナ国のその辺の村で、物心ついた頃から、鬼窪のことを思い出してきて……あの時はさすがに大騒ぎだったぞ」
え?
なんで??
俺の記憶が蘇ると大騒ぎしたんだ?
「なんたって、鬼窪と一緒に、学校生活や友達や元の世界での生活。つまり、前世の記憶が蘇ったからだ。そりゃ、驚くぞ。過去、いや、前世の記憶がいきなり波のように、頭に押し寄せてくるんだぞ。村中が大騒ぎして混乱するのが当然だ」
「??」
「私は産まれながらにして、記憶喪失のようなものだったんだ」
うがーー!
俺まで頭が混乱してきたぞ!
読み終わったら、ポイントを付けましょう!