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クシナ要塞内 皇帝の広間
ワルツが流れる優雅な広間には、似つかわしくはない不穏な空気が、漂っていた。
その広間には、元老院や貴族や要塞の聖職者たちが集まっていた。その広々とした一室の片隅にいる猪野間は、ずっと俯き加減だった。玉座のクシナ皇帝もやや俯き加減だ。
猪野間とクシナ皇帝は、二人は不意にお互いに目が合うと、コックリと同時に頷き合った。
やがて、重火器によって武装した各隊の重銃士団長たちが広間に現れた。
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「マ! マジか?!」
市街地の地面の一部が無事だったのって……??
あそこにいるのは、ガーネットか??
あ、あの白い盾は一体??
ガーネットは盾を構えて仁王立ちしていた。
大女のガーネットには、不釣り合いなほど、小型の真っ白な盾を構えている。そして、その盾を装備しているガーネットの周りにだけ、透明なバリアのようなものが発生していた。そのお陰で、ソーニャと通小町と騎士団たちは無事だったようだ。
黒煙と砂埃が舞い瓦解した市街地の中央で、アスティ女王は優雅にグレード・バニッシュ・スターを片手でゆっくり撫でている。
「鬼窪くん。アスティ女王は手加減しているよ。ほんとは、こんだものじゃない。グレード・バニッシュ・スターの威力は、サンポアスティ国にいる時に、たまたまアスティ女王の戯れで、とある立派な建造物を破壊した時に見たの。ほんと凄いよ……。建造物が全部吹き飛んでしまうの。それと、助けてくれて、ありがとね」
お姫様だっこで抱えていた西田が不意に言葉を漏らした。
俺は、ふと疑問に思った。
あれ?
防御はいいんだけど……?
どうやって、ガーネットは戦うんだろう。
俺は、ガーネットがグレード・バニッシュ・スターを防ぐだけでも、必死のような気がしてならなかった。
けれども、アスティ女王はまだまだ余裕があるんだ。
このまま戦いが長引くと、……マズい予感?!
俺は民家のベランダから、地面に着地すると、ガーネットの方へと走る。
俺は神聖剣を抜いた。
まずはなんとしても、アスティ女王の懐に入らなければ!!
神聖剣がアスティ女王に届く範囲に入るんだ!
この戦争を少しずつでも、終わらすために、ここ廃墟と化した市街地でアスティ女王を必ず倒すんだ!
「おりゃーーー!」
俺は陥没した地面を軽いステップで避けて、アスティ女王にできる限り接近して、神聖剣を振り上げた。だが、アスティ女王の右肩目掛けて、神聖剣を振り下ろすと同時に、火花が飛んだ。アスティ女王は難なくグレード・バニッシュ・スターの鎖の部分で、神聖剣を弾いていた。
間近で見ると、グレード・バニッシュ・スターは大きな土色の球体が鎖に繋がっているだけの原始的な武器だった。アスティ女王が右肩を引っ込めて、左手に握ったグレード・バニッシュ・スターを大きく振り上げる。
土色の球体が天を舞った。
や、ヤバい!!
俺は目を閉じた……。
「強制転移!!」
眩い光の中から目を開けると、俺は激しい地響きを発し、大穴が空いた市街地の市場の屋根の上にいた。ここから離れた場所にいる西田が、右手を挙げていた。西田が転移魔法を俺に使ってくれたんだ。
西田の後ろには白い盾を構えたガーネットがいた。
ふと、俺は思った。
そうだ。この戦いには西田も俺に加勢してくれているんだ。
ガーネットは西田も通小町もソーニャたちも守ってくれるようだ。
アスティ女王との距離は、おおよそ300メートル。
今度は絶対!
懐に入ってみせる!!
俺は市場の屋根から助走し、再び、アスティ女王がグレード・バニッシュ・スターを、大振りに振り上げるところへ向かって飛んだ。
「強制転移!!」
「へ???!!」
急に視界が眩い光が覆い。
光が消えると、そこは……。
アスティ女王の真後ろだった?!
「ラッキーーー! 西田ありがとう!!」
俺は神聖剣の柄で、思いっ切りアスティ女王の左手首を打つ。
「うぐっ!」
「勝負あったな」
痛みのせいで、アスティ女王が苦悶の表情をしていた。そして、左手から唯一の武器であるグレード・バニッシュ・スターをゴトンと地面に落とした。
「鬼窪よ! 敵ながら、天晴だった……」
「いや、仲間とクラスメイトのお蔭さ……」
何とも言えない苦悩が刻まれた表情のアスティ女王を一人残して、俺は西田がいるガーネットのところへと行った。その瓦礫と化した市街地の片隅にある空間には、未だに無傷の郵便受けや、噴水までもがあった。
ガーネットが守っていたのは、人だけではなかったんだな。
あれ?
幾つか建物も無傷だ。
立派なくだもの屋や出店もある。
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