「なんだ? おまえは? 変な奴だな? 俺さまと同じような服を着ているし?? 俺さまのファンか?」
その声は氷よりも更に冷たかった。見るからに残忍そうな顔をしたその男は荒れ果てた草原の一本の木に寄り掛かっていた。男がユラリと動いた。また、黒光りするナイフを一本取り出し、こちらに音もなく歩いて来た。
「鬼窪くん! 気をつけて! オニクボはかなり危険な男よ!」
ブルードラゴンの背から降りたマルガリータがすぐさま火炎弾をいくつも男へ向かって、放った。草原を凄まじい爆炎が襲う。だが、火炎弾の着弾と共に男は忽然と姿を消していた。
「鬼窪くん……大丈夫?」
「ああ、大丈夫みたいだ……あれ?」
俺の左腕のところの服がいつの間にか破れていた。
今度は飛んでくるナイフはまったく見えなかったようだ。
それでも俺は神聖剣を構えた。
ま、マズイ!
動きもまったく見えない!
きっと、素早過ぎるんだ!!
魔女のマルガリータじゃ、あのナイフは躱せない!
一体。どうすればいい?
それに早くヒッツガル師匠を助けないと!
でも、俺はヒッツガル師匠が倒れている理由も知らなかった。何故? どうして? それに一体全体なんでこんなところに黒の骸盗賊団がいるのだろうか?
いや、焦ったり混乱しちゃダメだ!
俺はそこで、直感的にゆっくりと目を閉じた。
目を閉じると、辺りの風の音、マルガリータの火炎弾によって燃え盛る草木、空を飛ぶ野鳥の羽ばたきの音、ブルードラゴンが空中で旋回している音、それらの音以外が良く聞こえてくるのがわかるからだ。するとオニクボがどこへ消えたのかが、わかった。
不気味な音が下の方から聞こえるんだ!
そうだ! 土の中だ!!
あ! その証拠に土が盛り上がっているところがある!
そういえば、黒の骸盗賊団の人たちから最初に襲われた時だ。盗賊団は土の中からでてきたんだっけ。黒の骸盗賊団の人たちは何か土の中へ入る技術があるんだ。
よーっしっ! オニクボがどこにでてくるのか、わかったもんじゃないが……これは逆に勝機なんだ!
俺は緊張で冷や汗が出たが、片手で掴んだ神聖剣を振り上げると、素早く動く地面の盛り上がったところを狙って。突き刺した。もう片方の手は髑髏の短剣を万が一のために構えていた。
「ぐわ!」
「やっりーーー! 当たった!!」
土の中から勢いよく右腕を抑えてオニクボが飛翔すると、空中でナイフを構え一回転した。俺は冷や汗を拭って、片手の神聖剣も慎重に構えた。
だが。
「フッ! やるなあ……だが、俺さまはどんな奴よりも危険だぜ!」
オニクボは地面に着地すると同時にマルガリータの背後に回った。首筋にナイフをあてがうと、鋭い目つきで俺に向かって何かを言おうと口を開けた。けれども、何故かマルガリータは静かにまったく別の方向を見つめていた。
「うん?? どうしたんだ? 嬢ちゃん? 抵抗するなら、このままブッスリいくぞ……??」
「鬼窪くん!! 伏せてーーー!!」
マルガリータの絶叫が木霊した。
俺は慌てて伏せると、轟音とともに激しい閃光が周囲を包み込んだ。俺の視界が白一色になった。その次は、超高温が俺の全身を焼いた。立っているのもやっとの物凄い熱さだった。
「あっちちちちいいいいーーーー!!」
体中の汗が瞬時に蒸発し俺はその場でドサッと倒れた。とてつもない高熱で気を失う寸前。俺の真っ白だった視界が、徐々に視力を取り戻してきた。そこには大量に煙が上がった荒れ果てた地が広がっていた。荒れ果てた地はよく見ると地面が陥没していた。まるで、何かとてつもないもので広範囲に抉られたみたいだった。
「さっすがお師匠……でも、敵はあっちよ……」
「こ……こんな奴を暗殺しろって?! 冗談じゃねえ! 頭どうかしてるぜ!!」
オニクボのそう吐き捨てるような声が聞こえ。それと同時に、派手な土を掘る音がした。
きっと、オニクボは逃げたんだな……でも……一体? 何が起きたんだ??
俺はその時、ヒッツガル師匠の魔法のことを思い出しながら意識を手放した。
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