「ああ、そうともだ。だけど、その恋人……あのいじめのリーダーやってた石塚の妹なんだってさ」
「……そ、それも本当か??」
「妹も秋野を庇ってたんだってさ。けど、いじめのリーダーの石塚がどうしても、許せなかったことが一つあったんだよね。それで、秋野をいじめ続けていたんだ……。なあ、鬼窪。お前。元の世界の学校で、あの生徒会長の猪野間と顔見知りだったんだろ」
音もなく二人で石階段を登りながら、俺は少し考えた。
もう夜更けだ。
きっと、深夜の3時頃だろうな。
城内には風はないけど、空気は殊更に寒かった。
それはそうと、通小町は何を言っているんだ??
そりゃそうだろう。
なんたって、生徒会長なんだからさ……。
全校生徒を集める時など行事がある時は、決まって壇上にいたりと。
猪野間を知らない奴なんて学校にはいないはずだ。
「それが何だ? 通小町は何を言いたいんだ?」
「猪野間も秋野を庇っていたんだ」
「??? ……え?」
「あいつ……秋野は……教室では隠していたけど、いわゆるモテ男だったんだ」
あ、あの秋野が……モテ男??
石階段の狭い踊り場でしばらく佇んだ。右手の奥にはこの城の軍会議室へ続く扉が見えていた。俺は混乱する頭を振って、再び歩いてから石扉を開ける。
軍会議室にはすでにみんなが集まっていた。
ここには騎士団とナイツオブラストブリッジ。そして、通小町しかいないと思ったけど、あの黒の骸盗賊団の頭領オニクボが部屋の隅にこちらの様子を窺うように立っていた。
俺はオニクボがここにいることが凄く意外だった。
警戒した方がいいのかな?
ガーネットが中央の木製のテーブルに、ハイルンゲルトの羊皮紙の地図を広げていた。その地図を覗くと、ラピス城からサンポアスティ国までの距離はどうみても800キロと書いてあった。
「うっへえええ……こんなに遠いのか?」
「あの国は周辺の強国の中でも、もっとも遠い国と言われているんだ。まあ、こんなものだろうな」
俺とソーニャは二人で地図を覗いて顔を見合わせた。
ほとんど日本横断できる距離じゃん……。
「ソーニャ様。恐らくサンポアスティ軍もここへ現在進軍中です。ラピス城へたどり着くには相当かかるとは思いますが……あれ? 開戦はいつのことだったでしょうか?」
「この戦争の開戦は確か2週間前だ」
マルガリータの質問にソーニャは即座に答えた。
もう、2週間も経っているのなら、サンポアスティ国の軍は、だいぶ近いところまで来てしまっているんじゃないかな?
誰か偵察ができればなあ。
と、俺の頭に一人の少女が浮かんだ。
「マルガリータ。すまないけど、俺と一緒に……」
「ええ、いいわ。偵察ね。私も気になって仕方ないの。だから、鬼窪くんも来て」
「ああ」
「待った。ガーネットも連れていってほしいんだ」
ソーニャがマルガリータと俺との会話の間に割って入ってきた。
そういえば、ガーネットは大女という体格以外よく知らないんだった。
「あ、あたしは嫌だね。いつも王女のお傍にいたいんだよ……」
「そういうな。きっと、サンポアスティ国の王女の武器には、対抗できるガーネットの力が必要なはずだ。そして、これは王女としてのお願いだ。頼む」
「……」
ソーニャの真剣な気迫が隣にいる俺にも伝わって来る。ガーネットはそのソーニャの王女としての聡明さに渋々と頷いた。
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