「君の名前は? さあ、飛ぶわよ!!」
「鬼窪 功一だ!! 飛ぶって、その箒でか?!」
「うん! ……って、あれ?」
急に辺りが静かになった。
周囲のガラの悪い男たちが皆、何故か青い顔をして震えだしていた。
一体こいつらどうしたんだろう?
男たちは俺の顔を見ながら、息もできないのか喉を抑えて震えだした。
「ああ、そういえば! 君があの最凶最悪といわれた黒の骸盗賊団の頭領の息子のオニクボなの?!」
「へ……え……? ちが……」
「え? ……ちがう??」
………
「ううん、そうよ……。そうだったわ」
「なんだ? 今の間は??」
混乱する俺にマルガリータが控えめにウインクすると何度も頷いた。
「そうそう、あなたが黒の骸盗賊団の頭領の息子でしたものね」
マルガリータは額に冷や汗を流しながら嘘を並べた。
「あの、盗賊団の人たちに言っておきます。私は今まで頭領の息子を介抱していたんですよ」
マルガリータが都合のいい嘘を吐くと、途端にガラの悪い男たちは、一斉に泡を吹くもの。腰を抜かすもの。この場から一目散に逃げ出しまうものがでてきた。固まったかのように突っ立っていた男たちが、やっとのことで俺たちに頭を下げた。そして、草原全体が震えだすほどの大声を出してくる。
「そ、そうだったんでやすか! すいやせんでしたーーー!!」
「そりゃ、すいやせんでしたー!!」
「うー、すいやせん!!」
男たちは皆、泣いて謝ってくる。
俺はズッコケた。
マルガリータが俺の掴んでいた腕を強くつねると、耳元で小声で話して来た。
「鬼窪くん。君が何者でも構わない。だけど、今は黒の骸盗賊団の頭領の息子のオニクボになっていて……お願い……」
「あ、ああ……わかったよ。でも、それより俺急に腹が減って……倒れそう……なんだ……よ」
どうやら、俺は緊張がほぐれてしまって、凄まじい空腹でマルガリータの大きな箒から地面へぶっ倒れた。今朝は何も……食べていないんだ。昨日は徹夜でテスト勉強していて……。もう、単位がやばかったから……。
でも、いいか。
ここんなところへ来たんだし……。
――――
「鬼窪くん! ご飯出来たって!」
「う、うーん……うん???」
目の前には控えめな女性の胸が……。俺はどうやら柔らかい草でできたベッドで寝ていたようだった。
「ちょっと、どこ見ているのよ!」
「わ! ごめん!」
マルガリータのビンタが飛んだ。結果、俺は頬を抑えてのご馳走となった。穴の開いた木でできた大きなテーブルには、この辺では珍しいと言われるパンに、木の実と色とりどりのフルーツ、草原の野獣の肉をマルガリータと一緒に食べた。
「美味しい。お師匠さまのお屋敷の料理より美味しいわあ」
「学食よりも美味いなあ」
さっきの盗賊への恐怖が嘘のように俺たちは呑気に構えた。
黒の骸盗賊団の男たちが料理を次から次へと運んできていた。中には一度も見たこともない料理が湯気を立てている。
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