「ライラックを斬ったあんたの剣技はハイルンゲルトにそっくりだったよ。ひょっとして、オニクボ。お前は二年前に行方知らずになったハイルンゲルトの弟子だったのかい?」
「い、いや……。でも似たようなものさ」
「ふーん。あのへそ曲がりのハイルンゲルトがねえ」
「へ、へそ曲がり?」
「ああ。今まで誰にも剣技を教えてくれなかったんだよ」
「はあ」
窓際からこちらに気がついたソーニャもやってきて、肩を並べて羊皮紙の地図を覗く。それと同時にソーニャの薔薇の仄かな香水の匂いも鼻をくすぐる。が?! 二人の胸も近過ぎて……?!
「へ、へっくしょん!!」
「??? どうした?」
「?? うん? どうしたんだオニクボ」
「……い、いや。なんでもない」
黒の骸団の男が痺れを切らして、少し焦り気味に言出だした。
「お頭? もう明日には着いてやすぜ」
「うそーーー?! ど、どうしようってんだ!」
「どれくらいの規模だ?」
俺の絶叫を物ともせずにソーニャは冷静に問う。
「俺たちがここへ来るころに肉眼で確認しやした。その数はざっと3万の大軍でやす」
「さ……三万?!!!!」
俺とソーニャとガーネットが異口同音する。
鹿肉を刺した銀のフォーク片手のマルガリータが俺を再度呼んできた。
「ちょっとー、さっきから呼んでいるでしょ!」
「ご、ごめーん!」
マルガリータのいる細長いテーブルへと近づくと、食べ掛けの鹿肉の香ばしい匂いが漂ってくる。
「あー、美味しいわあ。……あのね。鬼窪くんも考えてね。黒の骸団が言うにはガルナルナ国から正規軍が明日ラピス城を攻めてくるんだから」
「それで呼んでいたのか……うーん……って、正規軍だったのか??」
「言っておくけど、あなたの力と私の魔法だけでは到底敵わないから」
「……」
俺はとりあえず上を見て考えた。天井には控えめな大きさのシャンデリアがある。ここ大食堂は凄く明るい。みんな食事に夢中なせいか凄い熱気もある。
うーん。学校は放っておいて……。
ここまで来たんだし……。
なんとか橋を守らなきゃな。
そこで、俺は閃いた。
「あ! マルガリータ! 確か前にハイルンゲルトはドラゴンからもここラピス城を守ったって言っていなかったっけ?」
「ええ。言ったわよ」
「そのドラゴンって強いのか? 今、どこにいる??」
「そうか! 鬼窪くん。冴えてるー! 私、そのドラゴンなら使役できると思うわ! ブルードラゴンのことよね」
「あのブルードラゴンのことか?」
「ドラゴンでやすか?」
ガーネットとさっきの黒の骸団の一人が、俺とマルガリータの間へ割って入って来た。
「どうかしたのか? オニクボ?」
凛とした王女のソーニャもこちらへと来て、その一言で、マルガリータは急に銀のフォークとナイフを置いて食事を一旦止めてから、かしこまった。
「あのソーニャさま。このオニクボが言うには、ここラピス城の海の底にある水の神殿に今も封印されている。あのブルードラゴンを目覚めさせ、今もなお進行中の三万のガルナルナ国の正規軍へ対抗するとのことです」
不思議だ。俺の思いつきの案が通っている……。
学校ではみんなによく一蹴されていたのに……。
「ブルードラゴン? 水の神殿? それは何なの?」
ソーニャが首を傾げた。
黒の骸団の男も当然知らないといった顔をする。
銀のフォークや真っ白な食器の音がするここ大食堂が急に静かになった。
「王女。今から5年前のことなのです……。ブルードラゴンとは元聖騎士のハイルンゲルトによって封印されたあのラピス城の最大の危機の一つで、その強力なドラゴンは、ハイルンゲルトによって、今もなお水の神殿に封印されているのです。お忘れでしょうか?」
マルガリータの言葉にソーニャは少し首を捻ると、コクリと頷いた。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!