「アスティ女王は倒したか?」
「ああ、お蔭さまでな」
ガーネットが白い盾を降ろして、流れるような赤い髪の手入れをした。この人も美人だったんだな。
背は俺より20センチは高いけど……。
あれ? ガーネットの後ろを見ると、西田はわかるんだが……通小町もひどく疲れた顔をしている。
「何故? 通小町まで疲れているんだ?」
「無理もないんだ聖女様は……。ダメージは受けていないというのに、回復魔法をずっとあたしに使っていたんだ。お蔭でこっちは、まったく疲れていない」
「……あー、そっか」
俺は呆れた。
確かにガーネットがダメになったら、俺たちは全滅だった……。
でも、通小町は放っておこう。
俺は西田に、お願いしたいことが一つあった。
「西田。ほんとにありがとな……少し休んだら、転移魔法でラピス城へ送ってくれないか?」
俺は西田の顔色を窺った。
西田は俯き加減だ。
「もう味方だよな?」
それを聞いて、西田は素直にこっくりと、頷いてくれた。
やっりーーー!!
さっすが、幼馴染!
「ところで、その白い盾って一体……何??」
「ああ、王女が言うには、グレード・シャインライン国の国宝は、その神聖剣だけじゃないんだ。盾もあったんだ。そして、これがその盾だ」
「うへええ。大方、ハイルンゲルトが使っていたんだろ?」
「いや、ハイルンゲルトは装備したことはなかったんだ」
「そうか……」
確かに……俺はその盾の使い方を知らない。
ハイルンゲルトが使っていないからだろう。
風が強くなって、黒煙が殊の外、薄くなって来た。
その時、空から大声が聞こえた。
「鬼窪くん! 早くラピス城へ戻ってきて!! 急にクシナ要塞が攻めてきたの!!」
上を見ると、空から箒に乗ったマルガリータがこちらへ向かって、猛スピードで飛んできた。
「本当か?! ラピス城は無事なのか?!」
「ええ、今のところは無事よ。お師匠と黒の骸盗賊団それに、ブルードラゴンが防戦してくれているの。早く乗って!!」
「ああ。急ごう」
「ちょっと、待って!」
西田がポニーテールを強風に靡かせて、俺とマルガリータの間に割って入り、ゆっくりと右手を挙げる。
「強制転移!」
「え?!」
「へ??」
瞬間、目の前が白一色になった。
それから、しばらくして、光が徐々に消滅していくと、そこは……ラピス城の上空だった。
「あ、転移魔法ね。凄いわ! 私もお師匠も使えない高度な魔法なのに……」
「あの……マルガリータさん……。クシナ要塞の兵が銃で、こっちを狙ってるッス!!」
俺たちの右隣には、クシナ要塞が目と鼻の先にあった。
鉄でできた殺風景な天窓には無数のバルカン砲が設置され、灰色の鎧を着た。いかつい兵たちが陣取っていた。
「撃てーーー!!」
こっちに気が付いた兵たちの号令と共に、クシナ要塞の兵がそれぞれバルカン砲を撃ってきた。
「キャ――! 避けて!!」
マルガリータが箒に向かって、命令するも、大きくバランスを崩してしまっていた。弾丸の嵐の中。大揺れに揺れる大き目の箒の上で、マルガリータの身体は、クルリと箒の下の方へ回転して、そのまま下方へと落ちていってしまった。恐ろしいほどの弾丸が撃たれ、俺は誰もいなくなった箒にしがみつく。
「嘘だろ! こうなりゃ!!」
凄い風圧の中で、俺は箒をなんとか操る。
箒を操り、空中でマルガリータを掴み取るため、下方へと猛スピードで飛んだ。自分が何て凄いことをしているのかなんて、全然考えなかった。
空中で、マルガリータは気を失っていた。
どんどんと落下していく。
俺はそれでもお構いなしに、マルガリータの左腕を空で掴むと、大き目の箒へ乗せた。
クシナ要塞の兵は、それ以上俺たちを撃つのを止めたようだ。
きっと、射程距離外だ。
それより、一番の問題は、どうやって、あのクシナ要塞へ入るかだ……。
俺は箒を操り空を飛びながら考えた。
よし、この方法で行こう!!
俺は神聖剣を抜いて、鋼雲剣をクシナ要塞目掛けて打ち放った。
耳をつんざく轟音と共に、白いピラミッド型のクシナ要塞に、その右下の角に大穴が空いた。中から大勢の怒号が聞こえてきたけれど、俺は気にせずに、箒を操りクシナ要塞の内部に入っていった。
クシナ要塞の内部の構造は、元の世界で都会人だった俺でも、驚くような近代的なものだった。なんと、ここにはエレベーターホールまである。
金属製の壁に床。はたまた電信柱まである。赤と黒のケーブルで、ごっちゃになっているけれど、それでも、機能的だなと思わせる内装だった。床は金属製のパネル式で、冷暖房機能があるのか、今は足底が冷たくて気持ちがいい。でも、ここ……殺風景なんだよな。
「マルガリータ……おい! 起きろ!」
何故かマルガリータは起きなかった。
それから、マルガリータの頬を引っ張ったり、肩を揺り動かしたりしたが、一向に起きてくれない。
バルカン砲にまさか毒でも塗ってあったんじゃ?
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